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黄金と詩2

ヴェネフロティアというのが正式名称で、
ブッシツ文明と呼ばれる国がある。
巨大な建築物が並び、夜の間、煌びやかな灯りが、
まるで夜に浮かび上がる生き物のように見える。
その生き物は夜に酔っぱらって、はしゃいで謳歌しているようにも見えるから、
夜に浮かびあがる享楽の精霊とも呼ばれて、いくつかの詩の題材になった。

精霊の灯りと祝福の下に生きる者と、巨大な建物の影に生きる者がいて、
その違いはじっさいに富む者ともたぬ者を分け隔てていた。

影の側に暮らす者が灯りの側で成功して、
そこで歓迎されるという。だから境界はなく往来は自由に行われた。

老いてもなく若くもない。ちょうど10歳になるかならないかの子供を連れた男が言った。
「昔、こちら側の英雄と言えば詩人か音楽家だった。娯楽を提供する者もいれば大きな力に立ち向かう者もいた。
中には虐げられていても黄金の音色、黄金の言葉を奏でる者がいた。
それくらいに品があって、王のように堂々としている。街にはたくさんの王がいて、
王が鳴らす音や言葉で朝も夜も問わず人々が集まり騒いでいたものだ。
今の時代の英雄は向こう側へいって成功した者だ」
言葉の調子に皮肉なところはなくて、人の耳に入る前に消えるつぶやきの類。

たまたま耳にした子供は今の時代の英雄にあこがれていたから、昔のことが分からなかった。

昔といっても20年前のことだ。

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