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初めて山下達郎のライブ観た

山下達郎のライブを観てきました。「PERFORMANCE 2022」at 神奈川県民ホール(2022/10/14)。

氏にとって本公演が何百千回目のライブかは分かりませんが、自分はこの日初めて氏のライブを観た。その日記です。

以下、適宜敬称略。


前段:1990年代前半・中盤生まれ(自分)にとっての"山下達郎"とは(飛ばせる)

■達郎との出会い方

MCでもふれられていたように山下達郎の音楽キャリアは既に50年近く、その活躍は何世代をも跨いでいます。ここはひとつ1990年代前半・中盤生まれ(の自分)における"山下達郎"のイメージをまず書きだしてみます。

10・20代としてフレッシュに書ければいいんですが、残念ながら自分は92年生まれの今年30歳。でも達郎リスナーにとっては若輩でしょう。先輩は「そんな世代か~」と見守って、同世代は多少の主語の大きさに目をつぶって、自分より若い方は優しくしてください。


耳にしたでいうと『クリスマス・イブ』だと思うんですが、一番最初の印象は『RIDE ON TIME』です。ただし('80)ではなく('03)、つまりは親が見ていた木村拓哉主演ドラマ『GOOD LUCK!!』('03)の主題歌として※1。どちらも生まれる数十年前の曲ながら、特に古い・新しいを意識することもなく、「なんかいい音楽」として自然に印象づいていました※2。

とはいえ上は自分がまだ音楽に興味をもっていなかった時期。1990年前半・中盤に産まれて思春期に音楽リスナーになった者にとって、山下達郎とのリアルタイム・ファーストコンタクトは『ずっと一緒さ』('08)あるいは『僕らの夏の夢』('09)のどちらかです※3。おそらく。

このあとも『希望という名の光』『街物語』『愛してるって言えなくたって』と並ぶので、山下達郎のリアルタイムイメージは「優しげなバラードを量産するひと」。「シティ・ポップ(オシャレ)」や「夏(ドライブ)」といったイメージはなかったし、何よりバンド演奏のイメージから遠かった


■『OPUS 〜ALL TIME BEST 1975-2012〜』と フェス出演が印象を変えた

その印象が変わっていったのは、間違いなくオールタイムベスト『OPUS』('12)のリリース、そしてフェス出演です。


『OPUS』は非常に強力なアイテムでした。DISC 1が本当に強い。まず全体的にバンド演奏が最高じゃないかと。SUGAR BABE時代の『DOWN TOWN 』からこんなに軽やかで粋な曲を書くんだ!って驚きがあり、『WINDY LADY』の渋いサックスソロに唸り、『LOVE SPACE』の歌唱にビビり。そして個人的にはこの2曲。『BOMBER』、まず歌い方が全然ちがうし、『ずっと一緒さ』とはかけ離れたこんなワイルドなハードファンクをやっていたのかと。そして『SPARKLE』。全てが完璧に構築されている名曲。イントロのトーンもですが、特にアウトロだと思うんですよ。ブラス、コーラス、リズム隊、カッティングによるシンコペーションの応酬と高らかに吹き抜けていくボーカル。寄せては返す波と潮風のような。

とにかく2010年前後の達郎イメージ像が自分の中でキレイに塗り替えられたんですね。そういう若リスナーは多いはず。


そして2010年くらいからのライジングサンなどへのフェス出演。ここまでの大御所でライブ倍率も高い存在となると、気合いいれないとライブは観られないからフェスってこの上ない機会なんです。RSRなどで山下達郎を目撃したひとたちの「すごかった」の声、それに「そうだろう」とウンウン頷く熟練のファンたち。期待を膨らまされました。

そしていつしか「シティ・ポップ」のリバイバルが起き、海外からも波が押し寄せ、一気に再評価(改めての確固たる評価の確立)が進んだ。その国内ベースには『OPUS』とフェス出演のインパクトって下地があったと思います。もちろん、今に至るまでずっと「達郎はすごい」と語り続けてきたファンの方々の熱量は言わずもがな。


ということで、自分は結局2022年になってやっと観る機会を得た訳です。ちなみに自分はこの日のライブに『OPUS』『Softly』、あと昔レンタルで聴いた気がする諸々の朧気な記憶だけで臨みました。そんな装備で大丈夫か。

遠回りしましたが、そろそろ会場に着くころです。



開演前(飛ばせる)

サムネにもしましたが神奈川県民ホールはデザインがモダンでかっこいい。The Streetsのファーストかと思いました。どういう年代のデザイン志向なのかな。

開場に入ると、グッズも音源も物販には列が。特に音源は、旧作を買うと限定クリアファイル、新譜『Softly』を買えば直筆サイン色紙がつくというのでビビりました。自分もベテランバンドのライブに行くことは多いですが、ライブ会場でこんなに「音源の販売」に付加価値をつけてるのは初めて見た気がします。身が引き締まる(?)気持になりました。ここ10年はもう「タワレコ提供のCDコーナーを申し訳程度に置いてる」バンドも多くて……あれ結構悲しい気持ちになるんですよね。まぁ、達郎は物理メディアでしか聴けないのもありますが。マジな話iTunes Storeには網羅してくれないか?

開演前に広場で待機していると、ベテランのファンだろう人から「持ってますか?」とクラッカーを配られました。そんな有志が……!

座席は3階の左側。距離はあるもののステージはしっかりみえて良い感じ。神奈川県民ホール、良い会場だ。「ステージの離席などは曲間かMC中に」なんて注意書きも貼られていました。プ、プレッシャ~。

ついに開始。定刻からほとんどズレずに始まったことにプロ意識の高さを感じたり。


本編(ネタバレ?あり)

1曲目は『SPARKLE』。おぉ、あのトーンだ……。

~ ♪ ~

自分が山下達郎のライブで感じたのは終始「山下達郎が山下達郎のプロとして山下達郎の楽曲を演奏している」感じでした。一言でいうと職人、あるいはプロフェッショナル。たぶん120点のライブにはならないけど、必ず100点をとるような。なにひとつとしてツッコミを入れる隙間もない、完璧というか完全な3時間だった。妥協がないとはこういうことなのか。

観終わったあと「音楽を極めし者による3時間の奉仕だった」と呟きました。なんかですね、全体的に「感動」よりも「感心」に近くて。音楽というものに惹かれた人が、その道を自分なりに研鑽を積んで極め、その到達点をこちらに見せてくれている。そんな贅沢な時間。大体それに尽きるかも。


■MCもうめぇ

いっぽうライブの進行は非常にフレンドリーで、なんだか大ベテランの芸人さんみたいなステージ運びでした笑。前半はかなり細かくMCを挟み、観客との距離を近づけていく。そして親密な空気が出来上がった後半は音楽で一気にクライマックスを迎える!観客もここでやっと立ちだす!何千回と披露されてきて、観客側もその進行のすべてを把握しているミュージカルのような一体感。

門外漢としてまったくイメージになかったんですが、MCも上手いのには笑いました。話の間の取り方がプロなんよ。「えー私も立派な前期高齢者ですのでね……」から始まるネタはもはや落語。ファンキーな人やん。


■歌も死ぬほど上手い

「前段」に現れてないように、「歌唱力」の印象はそんなになかったんです(特徴的な歌声・歌い方の印象はあったけど)。今日も「ライブ(演奏)がすごいらしい」の気持ちで来ていた。

でも、「アカペラやドゥーワップを愛してまして……」みたいな話しから披露された単独(コーラス音源同期)のアカペラパート、ここが一番感動を覚えた気がする。自分は元々、例えば『OPUS』Disc 3に多く収録されているような「甘い曲」がそれほど好きではなかった(だからこそ2010年前後のリアルタイム達郎はそこまで響かず、『OPUS』Disc 1でグッときた)けど、生で感じると非常に沁みた。本当に歌が上手いし、あの歌唱も自身が愛したもののルーツ(理想と自身の特性のギャップの葛藤)の先に辿り着いたんだろうなと感じ入ってしまった。

生演奏と同期演奏の橋渡しもとても匠でした。『クリスマス・イブ』まではほぼ全部生演奏だったと思うんですが(たぶん)、単独でのアカペラパートで自然にコーラス音源が導入され、その流れで『クリスマス・イブ』に入るという。基本的にステージ演出はセットと照明くらいでしたが、間奏でのここぞとばかりの雪の演出もニクかった。


■いくつか曲の話

最後に何曲か引っかかったものを書き残しておきます。

「RECIPE」。3年前とはいえ最新シングル。原曲はファニーな打ち込みリズからなる、箱庭的なキュートさもあるミディアムバラードでしたが、ライブでは生ドラムになってよりタフでワイルドに。原曲が熟年夫婦の日々の食卓なら、ライブ版は素敵な夜景とディナーで2人って感じ。良き。『Softly』は『OPPRESSION BLUES』からの流れが好きなんですがこの日は2曲のみの演奏で無念。『REBORN』聴きたかったな~。打ち込みと山下達郎というのもファンには語りがいあるテーマみたいですね。自分も追ってみたい。

『Paper Doll』。4人が4小節単位でソロ回ししていって最後に合奏になるの熱すぎた。ライブ全編をとおして、Sax. 宮里陽太氏、強すぎる。弾き語りにもスッ……と出てくるし、ベストパートナーやないか。

『蒼茫』。演奏・歌唱の素晴らしさ、そして自分の加齢もあってか、今更ながら初めて「名曲や……」と感じられた。途中でThe Impressions(Curtis Mayfield)『People Get Ready』とBob Dylan『Blowin' In The Wind』の一節が差し込まれていました。自分単位でなく人類スケールで「生きていくこと」を歌ってる、手塚治虫『火の鳥』にも通じる曲だと思うんですが、そこに往年の名曲が挟まることで「脈々と紡がれてきたひとつの線」みたいなものをより強く感じられた。

『BOMBER』~『SILENT SCREAMER』。あおりもあってここでようやく観客が立つ!しかし!3階自分の席のまわり!5%くらいしか立たない笑!!みんなの体力!!!いや間違いなく盛り上がってはいました。そう、座ってのライブですが、自分は結構体全体で小さくリズムを取りながら聴くタイプなんで初手から立ってたい気持ちあり。でも確かに3時間は無理やと思う。

『LET'S DANCE BABY』。クラッカーのくだりはTwitterを見てくれ。モーメントにまとめてみたよ。

『アトムの子』。オンベースにょる非常に先進的な響きの和音進行。山下達郎は"正しく整頓して楽曲を完成させんとする"タイプだからあまりこういう曲を作ってくれない。でも作ってほしい。「みんなで力を合わせて素敵な未来にしようよ」が2022年の今に相応しかった。

『RIDE ON TIME』。アンコールの静寂からスッ……と手をちいさく振って満を持して「蒼い……」と歌いだすやつ、俺も人生においてやりたすぎる。Aメロはいつ聞いても不自然なくらい変なリズムだなと。1番のキック位置に悪意があるんよ。邦楽ライブにありがちな、とりあえず表4つ手拍子するノリはすこし苦手意識もあるんですが、RIDE ON TIMEならば乗るしかない。

『MUSIC BOOK』『いつか(SOMEDAY)』。往年のアルバムから。どちらもシンプルに良い曲すぎる。絶妙にシングルにはならない塩梅のグッドソング。どちらも作詞・吉田美奈子なわけですが、素敵な音楽に合わせて、日々におけるちょっとした「祈り」が込められているのが粋だと思うのです。特にSOMEDAYはタイトルからそうですしね。日常にはすこし歯の浮きそうなロマンチックな言葉も、音楽にのせてなら信じられるものになる。そんな2曲。素敵な予感、そんな祈り。今の時代にとても聴きたいフィーリングがありました。素人ながらも、良いセットリストだったなぁ。


こんな感じです。ラストの「カッコよく歳をとろう」、説得力ありすぎて震えました。末永く健康でいてほしいし、自分も健康でカッコよく生きたいなと思うのでした。とりあえず仕事頑張ろう。


引用・注釈など

※1. 『ロング・ラブレター〜漂流教室〜』('02)での『LOVELAND, ISLAND』だよという人もいるかも。……というか楳図かずおと山下達郎がLOVELANDで邂逅することある?どんな組み合わせだよ。

※2. 超余談ですが、自分が音楽を好きになる前から漠然と「良いやん」と感じていた曲がDef Tech『My Way』('05)、ケツメイシ『君にBUMP』('04)『夏の思い出』('03)、スピッツ全般、米米CLUB『浪漫飛行』('90)、そして山下達郎『クリスマス・イブ』('80)です。

世代として押したいんですが、この頃のケツメイシは楽器のソロに非常に力を入れてるんです。是非聞いてみてください。『夏の思い出』はGt. 田中義人です。……検索したら同志の記事がヒットしました笑!シティポップ直系BREEZEソロの系譜ですね。いかにも'00sJ-POP感的なカラオケっぽい録音の軽さが惜しいけどフレージングの旨味は伝わるはず。

※3. 『ずっと一緒さ』は、前年の桑田佳祐『明日晴れるかな』('07)とあわせて、大ベテラン大御所によるドラマタイアップ・ヒットバラードとして印象づいている同世代の人も多いのでは。

桑田佳祐といえば『孤独の太陽』が素晴らしいアルバムと思うんですよね。戦友的存在ですしこれで締めますか。


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