『パーティは明日にして』(木田智美)を読む。
この句集のタイトルに惹かれた。
『パーティは明日にして』という、句集としてはポップなタイトルと、そこにある物語性が気になった。
掲載されている俳句も、作者が楽しみながら詠んだと思われる句や、面白みのある句が多く、ポップな印象だった。いい意味で、リラックスタイムにお茶を飲みながらのんびり楽しめる句集という印象だ。
以下、数句紹介。
この句集の冒頭一句目。この時点で作者の世界観に引き込まれる。
ウォーターゲームに着目する個性と観察眼がこの句を唯一無二にしている。
三月の雰囲気と、物の取り合わせが良い句。漂う休日感。
からすは色々な表記がある。鴉、烏、カラス、からすなど、色々な作品で内容に合わせて作者は表記を使い分けているように思う。
この句のからすはひらがなで正解だと思った。桃色との取り合わせを考えると、やわらかい印象のひらがなが良いと思う。
生きている鳥ではなく、剝製が主人公で意外性が出た。剥製でも「飛ぶかたち」をしていて意味深だ。
舞台の役者さんが舞台袖で待機している様子。舞台というハレの場よりも、戸の向こうの桜が気になる。舞台上ではなく舞台袖を詠んだ面白さ。
食べられない苺だから、蛇苺だと思う。蛇苺はたくましいので、草むしりの際に雑草に紛れて見かける。
桃が温む様子と、しんどいを言えずに抱える大人のイメージが上手く重なっている。桃も大人も傷みやすいことだろう。
上記三句はどれも映像が浮かんできて面白みのある句。
スーパーカブという乗り物の名前の語感と、それに乗って道路を疾走している爽快感が伝わってくる。
おじぎ草がどうしておじぎをするのか改めて不思議に思える句。
夏の暑さ、茶色い蟬のイメージ(アブラゼミかもしれない)を一言、「キャラメリゼ」としたのが上手いと思った。虫の蟬とお菓子のキャラメリゼの取り合わせも面白い。
もしくは蟬の色は不問で、焦げているから茶色とも読める。
きらびやかな珊瑚礁でも食物連鎖があるという見逃しがちな現実の句。
よく観察しているなと思う。尾のふるえは本当によく見ていないと気付かない一瞬の動作。
名前の仰々しさを意識すると、有難く両手で受け取る動作になる。ぶどうの名前と動作で成り立っている構成の大胆さ。
映画観で映画を見終わった直後の余韻を思い出した。その浮遊感と、鳥渡るの飛んでいく浮遊感を結び付けて、面白い取り合わせだと思った。映画館は閉鎖空間で、鳥渡るでは鳥が飛んでいくという空の広さが対照的だ。映画を見終わった後の開放感と、出口へ歩き出す時の気分も、鳥の渡りとリンクしている気がする。
パグの愛嬌のある顔を活かした一句。パグならマントを着せるだけでハロウィーンという発見。
この句に出会って、ホットケーキは丸くて黄色くて満月みたいだと思った。
月に見立てるだけでなく、クレーターまでディテールを掘り下げた点に作者の発想の工夫を感じる。ホットケーキを作りたくなる句。
すむの表記が、「棲息」で使う「棲む」になっている。光がずっとそこにいて息づいているかのようだ。
「の」が多い句。春の夜のけだるさと、溶けのこりの取り合わせが上手い。
サンタクロースという特別な存在と、右腕に時計という生活感の取り合わせ。
サンタクロースの腕時計に気付くなんて、観察眼がある。
一冊全体の感想としては取り合わせと観察眼の面白さが光っていると思う。
『パーティは明日にして』に少しでも興味をお持ち頂けたら幸いだ。
最後までお読みいただきありがとうございました。 もっと面白い記事を書けるように日々頑張ります。 次回もお楽しみに!