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『くちびるにウエハース』(なかはられいこ)を読む

独特の雰囲気の川柳集。


しれっとした洒脱

予定調和を上回るズラし

など
読みどころが多く、
読者は飽きずに楽しめる。


以下数句紹介。


あいさつか冬の花火かわからない

あいさつは音で、冬の花火は光がメインだろう。
聴覚で捉えるものと視覚で捉えるものの混同という面白さ。
もしくは音だけで考えると冬の花火の不意の音と不意にされたあいさつが重なるか。


ちょっとした砂丘になって待っている
待っているときのそわそわ感や手持ち無沙汰を、
砂丘で喩えた点が面白い。


春だねえ杏仁豆腐のにんのとこ
緑と白の境が葱のなきどころ

そう思って春や葱を見ると面白い。
作品から面白い概念を知る楽しみがある。


水滴がさんずいへんで飛んでくる
漢字の偏の意味と形を使った一句。


パレードはいま食道を通過する

日常の飲食も、食べ物の体内でのパレードだと思うと面白い。


ポケットを出るまで指は鳥でした
指のそれぞれが鳥だと思うと、手が鳥の群れのよう。


空に満月くちびるにウエハース

不思議な取り合わせ。
突飛に思えるが
空とくちびる、満月とウエハースが無関係とは言い切れない気がする。
例えば満月もウエハースもザラザラしているとか。


常温で泣いておりますけど、なにか

泣いているが体温が高温でも低温でもない。
嘘泣きだろうか。
体温でなければ、
気持ちの温度だとすると嘘泣きっぽい。


秋来たる亀の子束子の針金に

縦書きの方が良さが伝わる句。
縦書きだと上から順に読むので
秋→
亀→
亀の子→
亀の子束子→
亀の子束子の針金
と場面が展開する。
大きな秋と小さな亀の子束子の針金の対比が面白い。
大きく始まって収束する構成。


向き合って繋がることや切れること
何についてか明記されていないため
読者によって思い浮かべるものが変わる。


いざこざの一部始終に梅かおる
梅がかおっている季節に起こったいざこざだろうか。
もしくは和風のいざこざか。


この人を産んだ水だと思う雨
水は循環する。
雨から飲み水になり母の体内へ。
そして作中の「この人」が生まれた。
循環のスケールの大きさが魅力。


以上、面白い句がたくさん。

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最後までお読みいただきありがとうございました。 もっと面白い記事を書けるように日々頑張ります。 次回もお楽しみに!