日経Think! 参考資料

男女賃金格差はシンプルなようで、とても複雑な現象を一つの数字に落とし込んでいる指標だと、私自身は捉えています。開示義務化の議論ををきっかけに、

  • そもそも男女賃金格差とは何か?

  • 男女格差はなぜ生じるのか?

  • なぜ我々はそれを気にするのか?

  • 開示を義務化すると、どういうメカニズムを通じて格差が解消する(可能性)があるのか?

  • 開示することの副作用はないか?

  • いつか男女賃金格差はゼロに収束するのか?

などなど、疑問が湧いてくるかもしれません。疑問が次々と湧いてくるトピックなので、経済学において、男女賃金格差の要因を巡る研究には厚みがあります。

私のThink!のコメントは、経済史家クラウディア・ゴールディン氏の研究群を中心とした経済学の実証研究と、自分自身が現在行っている研究プロジェクトから、大いに影響を受けています。

2014 年の米国経済学会会長講演にて、経済史家クラウディア・ゴールディン氏は、

「ジェンダー賃金格差解消の最後の伴は、働き方自体を見直し、労働時間をより柔軟にすることだろう」

Goldin (2014)「A Grand Gender Convergence: Its Last Chapter」

という旨の講演を行い、働き方の構造と男女賃金格差の関係について、数々の実証研究誕生のきっかけとなりました。Goldin氏自身も、昨年、自身の膨大な研究をもとに本を出版しています。

本の出版記念のインタビューリストはこちら。各インタビュアーとの対話が興味深いです。

Claudia Goldin氏は、男女差別の存在を定量的に示した論文でも有名ですが、

「差別は、これからもたゆまず、ひとつひとつ潰していくべきもの。一方で、差別をすべて解消してもなお、男女賃金差は残るだろう。それは働き方の構造からくるものだからだ。働き方の構造に目を向けることこそが、最後に残される課題」(奥山による抄訳)

と論じています。

なお今回の開示義務化の件についてのより実践的な議論については、早稲田大学にお勤めで、Think!のエキスパートでもいらっしゃる大湾先生のコラムをご参照くださいませ。