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「休む」メリットと科学的に正しい休暇の取り方9選【人生という試合で最も重要なのは、休憩時間の得点である】

「休む」「休暇を取る」と聞くと「怠慢だ!」「時間の無駄だ!」と感じる人もいるかもしれませんけど、人間たまには休息も必要。結局いくらか休んだ方がトータルの生産性が上がったりしますしね。

まあ私もあまり積極的に休みを取るタイプではないですけど、今回は自戒の意味も込めて「休み・休暇」にはどんなメリットがあるの?休暇のポテンシャルを最大限引き出すには具体的にどうすればいいの?ってあたりをまとめてみます。残念ながらGWは終わっちゃいましたけど、3連休程度でも使える話も含まれてますんで、ぜひとも積極的に活用していただければよいではないかと。


休暇のメリット

メリット①:健康的な生活になる

「休みの日はだらだらしちゃうから不健康」ってイメージがありますけど、実際には休みの日の方が活動的になり、より健康的なライフスタイルを送るんだぞ!ってことがわかっていたりします。

例えば直近の研究では、308人の成人に13ヶ月間、フィットネストラッカーを着用してもらうことで、休暇中と休暇後の行動量を評価する実験を行ってます。その結果、

  • 休暇中は睡眠、LPA(軽い運動)、MVPA(中程度以上の運動)がすべて増加した

  • 一方で、座っている時間は減少した

だったそう。この変化は休暇が長ければ長いほど大きかったんだけど、三連休程度でも十分に健康的な生活パターンの変化が認められたらしい。さらにこの研究では睡眠時間の増加は休暇後2週間にわたって維持されたといったことも判明してまして、ご存じの通り睡眠は気分、認知機能、生産性、肥満、糖尿病、心血管疾患、うつ病など、さまざまな要素に関連してきますから、肉体的・精神的な健康の維持において休暇ってのは思っている以上のインパクトを持っているかもしれないっすね。

メリット②:心理的な幸福感をブーストする

メンタルへの影響を評価した研究も確認してみましょう。

「旅行をすると幸福感が高まる!」といってもあまり驚かないかもしれませんけど、その効果は旅行者下痢症のコストを上回るぞ!っていうデータまであったりします。

こちらは2022年にInternational Journal of Environmental Research Research and Public Healthに掲載された比較的最近の論文で、西アフリカのベナンに渡航した健康なフィンランド人729人が対象。参加者には旅行前、帰国直後、旅行後1か月後の3つのタイムポイントで肉体的・心理的な状況を評価するアンケートに回答してもらってまして、その結果は、

  • 性別や年齢に関係なく、休暇後には心理的幸福感が大きく高まった

  • 冬に旅行に行った参加者の方が幸福感の上昇は長く続いていた

  • 旅行者下痢症は71%が経験したが、旅行後に経験した場合にのみ心理的幸福感にマイナスの影響を与えた

ってことで、たとえ旅行に行ってひどい下痢に襲われたとしても基本的には幸福感のブースト効果が損なわれることはないらしい。下痢だけじゃなくても「旅行に行くと体調が崩れるからちょっと、、」って人でもいざ出かけてみると予想以上に充実した時間を送れるかもしれないっすね。休暇ってすごい、、!

ほかにも、「自宅から75マイル以上離れた場所に定期的に出かける人は全く出かけない人に比べて幸福感が7%高かった「いったことのない場所に行く頻度と海馬-線条体回路の活性には正の関連があった」なんてデータもあったりします。おそらく「物質的な購入よりも体験の方が幸福度に強い影響を及ぼす」ってところも関連してるんでしょうね。ってことでせっかく旅行制限も緩和されていることですし、幸福を目指すなら積極的に旅行を計画してみるのもよろしいのではないでしょうか。

メリット③:うつリスクを下げる

旅行や休暇はメンタルヘルスにもナイスな効果をもたらしてくれることがわかっておりまして、

といった報告があります。メンタルが不調をきたしてからだと外に出かけるモチベーションも著しく下がっちゃいますんで、元気なうちから定期的に休暇はとっておいた方が賢明でしょう。

メリット④:ストレス解消&耐性

ストレスについても言わずもがなかもしれませんが、一応いくつか研究を確認してみると、

といったことが報告されています。短期的な休暇でも十分ストレスを軽減できると同時に、休暇の楽しみがストレス耐性の武器として機能するってわけですね。休暇前から休暇後まで広くメリットを享受できるってことで、改めて休暇のすばらしさを感じますな。

メリット⑤:創造性アップ

遠くに出掛ければ「日常」とは異なる環境に触れることになることを踏まえると、旅行や休暇によって創造性が刺激されるってのも想像に難くないですが、休暇による創造性のブースト効果は2週間後でも確認されたぞ!なんてことが報告されていたりします。

研究者曰く、

人、文化、習慣、場所など、旅の新しさは、視野を広げ、ポジティブ感情を高め、創造性を発揮させることができる。また、旅は問題や状況から距離を置くことができ、その結果、新たな視点を持つ可能性を与えてくれるのかもしれない

ってことで、いったん強制的に問題から距離を置いてみることができるってのも大きな役割を担ってるのかもしれないわけですね。そう考えると連休の前にすべてのタスクをすっきりさせておくよりもある程度中途半端な状態にしておいてあとは「無意識」に仕事を任せておく、みたいな戦略もありかもしれないっすね。

休暇のポテンシャルを最大限引き出すための9つのポイント

ここまで紹介すれば「休暇は時間の無駄」というとらえ方はナンセンスって考えにシフトしていただけたのではないかと思いますが、休暇のポテンシャルを最大限引き出すにはいくつかコツがあったりします。これらのうちいくつかを順守するだけでもだいぶ休暇からだいぶ多くのベネフィットを享受できるようになるでしょう。

コツ①:休暇の価値を認識せよ

米国では5人に1人が「仕事への罪悪感」を理由に休暇を取らないといった統計もありますが、やはり表面的には仕事が休みでもどうしても仕事のことが頭をめぐってしまう人は多いはず。

しかし休暇の価値をしっかり認識し、「今は仕事のことは考えなくていい時間!」とはっきり割り切ることができればより大きなメリットを引きだせる可能性があります。実際、通常の週末に「今日と明日は休暇(vacation)のようにふるまってください」と指示しただけで月曜日の幸福感、人生に対する満足感が高まったという研究もあったりします。

具体的には441人のフルタイム労働者を対象に行われた研究で、半数の参加者には「この週末を休暇のように過ごす」ように指示し、残りの半数の参加者には「この週末を通常の週末のように過ごす」ように指示。その後月曜日に幸福感等7つの質問項目に回答してもらってます。その結果、週末を休暇のように過ごすよう指示された労働者は、月曜日に職場に戻ったとき、ポジティブ感情のスコアが高く、ネガティブ感情のスコアが低く、人生に対する満足度が高かったそう。また、週末を休暇のように過ごそうとすると「今この瞬間」への意識が高まる結果、幸福度の上昇につながるということも確認されております(ちなみに時間の使い方の違いは幸福感の違いを説明できなかった!)。

研究チーム曰く、

個人が休暇のメリットを最大限教授するための、誰でも簡単にアクセスできる方法を明らかにした。「週末を休暇のように過ごす(Treat the Weekend Like a Vacation)」というシンプルな6単語のプロンプトは、明示的な指示やトレーニングなしに、今この瞬間に強くフォーカスするよう導いた

とのことで、当然のような気もしますけどまずは「今(明日から)自分は休暇を存分に楽しむんだ!」という意識をはっきりさせておくことは有意義な休暇を過ごすうえで大事なポイントなんじゃないかと。

コツ②:好きから距離を置く

休暇は日常の雑踏から離れていわば「リセットボタンを押す」行為ともいえるわけですが、この際に重要とされるのが「不在」であります。つまり、テレビやスナックのような日常的に取り組める好きな行為を手に届かないようにしておくことで、非日常を存分に楽しめるようになるわけですな。

新たなことにチャレンジするのは楽しいことでもありますけど、同時に多少の恐怖感や躊躇を感じるがち。となるとすぐ「間違いなく」「それなりに」楽しめるものに逃げてしまうのが人情というものですから、あらかじめ「好きを取り除く」というポイントを実践してみると、休暇から得られるものが増えるかもしれません。

コツ③:high peaks vs no valleys

自分に合った休暇の過ごし方をするのも非常に重要なポイント。ベル・リアン博士は休暇を「high peaks」と「no valleys」に分けるという解釈を提案しています。この考え方では、「野生動物の狩りにでかける」といったかなり刺激的な時間を過ごすタイプの休暇を過ごすべきか、「今まで避けていたジャンルの本を読んでみる」といった比較的心理的なインパクトの小さい穏やかな休暇を過ごすべきかは人によって違うからちゃんと自分の内の声を聞こうねーといったことが指摘されています。

別の軸でも人によって幸福感が得られる活動が違うことは示されておりまして、性別によっても大きな違いがあることが確認されています。例えば女性は「有意義な」体験により幸福感を感じるのに対して、男性は「楽しい(pleasurable)」体験に幸福感を感じやすい、といったデータもあったりしますね。

まあそうはいってもある程度の「非日常」も大事な要素だったりするんでどこまで背伸びするかの判断は難しいですけど、とりあえずその活動の後に精神的・肉体的な疲れがどっと襲ってくるようなら一度自分が休暇に求める要素を検討しなおしてみるのがよいかもしれませんな。

コツ④:休暇中は仕事を一切しない

休みの日でも仕事のことを考えたり作業をしたりというのはよくあること。しかし仕事関連の思考や行動は実際に休暇のメリットを損なうことが確認されています。

例えば英国の90人の教師を対象に行われた研究では休暇前、休暇中、休暇後の8週間にわたってアンケート調査を行っています。その結果、休暇中に「メールのチェック」「仕事の準備や片付け」「同僚と仕事について話す」といった活動を行っていた教師は完全に仕事をしなかった教師に比べて疲労感からの回復の効果が小さかったんだそうな。また、仕事についての心配や反芻も気分やエネルギーの回復力の低さと関連することが確認されたんだとか。別に平日と同様にがっつり仕事をしたわけでもなくても十分に休暇の回復効果が損なわれていたのがポイントですね。

といっても言うは易し行うは難し。一つの提案としては、とりあえず休暇中は仕事に使う道具(PCとか)を物理的に触れない状態にしつつ、マインドフルのトレーニングとかを地道に積んでいくのがいいんじゃないでしょうか。

コツ⑤:ノスタルジアを活用する

「休暇後うつ」なんて言葉がありますな。休暇明けには普段よりも漠然とした不安感や苛立ち、無力感を感じやすく、集中力が欠き、食欲もわかない、みたいなやつですね。休暇自体がいくら楽しくても休暇後にダメージを受けてしまうようならトータルとして効果的とは言えませんから、休暇後のダメージを軽減する方法を知っておくことも重要となりましょう。

そこでその一つの方法として、休暇中に日記をつける、スクラップブックを作る、アルバムを制作するといったいわゆる「ノスタルジア」を使った方法が有効である可能性が指摘されています。例えば2020年の研究では、スクラップブックを作成することによって旅行後のネガティブな感情にうまく対処できるようになった、といったことが報告されています。スクラップブックを作成することで、休暇中の楽しさも今のしんどさも一人の自分である、という自己一貫性を実感し、今を乗り越えればまた楽しいことが待っていると感じられることでうまくストレスに対処できるようになるのでは?ってわけですね。ほかにも、きつい時期に休暇中の幸福感を思い出すだけで心理的なメリットを享受できる、というエビデンスも複数ありまして、休暇のポジティブな記憶は生涯にわたる心理的なリソースとして機能してくれるわけですね。

また、先の研究ではおそらくスクラップブック作成中のクリエイティブなマインドフルネスも一役買っていると考えられますんで、ただ旅行中に写真をとるだけだと十分な効果を得られない可能性があります。なんで、休暇中に撮った写真を休暇明けの仕事の合間などに整理して、コラージュなどを作ってみる、旅先で買った変なおもちゃで遊んでみる、のように休暇の余韻を感じられる工夫をしておくとさらなる効果を享受できるかもしれません。

コツ⑥:じっくり計画を立てる

休暇のメリットは休暇中、休暇後だけでなく休暇前にも享受できることが判明していて、休暇の最大のメリットは「期待感」なんじゃない?と主張する研究者さえいたりします。たしかに好きなように計画を立てているときにはトラブルも発生しないし、自分の理想の旅行を妄想できますから楽しいですよね。

実際、休暇が幸福感に与える影響を評価したオランダの研究では、休暇を計画し、楽しみにすることで最大8週間の気分改善効果が見られたことが判明しております。休暇後には1,2週間程度でもとの水準に戻ってしまうことを考えれば、8週間というのはかなりすごい数字と言えるでしょう。

コツ⑦:自分で計画を立てる

自分で調べて一から計画を立てるか、旅行会社に任せるかは人によって好みがありましょうが、科学的には前者の方がメリットが大きいといえるかもしれません。実際、マサチューセッツ大学アマースト校の2016年の研究では、800人以上の休暇を調査し、ストレス解消に寄与する休暇の過ごし方のポイントを調べてくれております。

その結果、休暇後にストレスを感じにくい人の特徴として、「旅行計画をコントロールできると感じられていること」という要素が認められたんだとか。要するに、自分が行ってみたいと思うところに行き、食べてみたいと思うお店に行き、あってみたいと思う人に会える(と認識している)ことが休暇によるストレスレベル低減効果をブーストする要因と言えるわけですね。

まあ確かに南国に行ってホテルから一歩も出られませんって旅行だったら全く楽しくないですわな。もちろん人からアドバイスをもらうことは否定しませんけど、「言われたから行く」ではなく「自分が行きたいと思ったから行く」と思えるようにしておくのが大事、ということで。

コツ⑧:畏敬の念を感じる

「どんな休暇を過ごすか?」と迷ったら畏怖を感じられる時間を過ごしてみるのもおすすめです。畏怖ってのは、芸術、建築、自然、音楽、宗教などに触れることで感じられる感覚で、単に「いい感じ」なものではなく、言葉を失ったり、鳥肌が立ったり、涙が出たりするようなもの、つまり、世界とその中での自分の位置づけを混乱させるような、通常の枠を超えたものに接することで生じる感覚のことですね(伝わるでしょうか?)。よくいわれるのは「自分がいかにちっぽけな存在か」と認識させられるような体験ですね。

近年畏怖や畏敬の念の効果は様々な文脈で確認されてまして、このような感情を感じることで、

  • 意思決定の質が高まる

  • 他者との強いつながりを感じられるようになる

  • 忍耐力が高まり、タスクに取り組む時間が長くなる

  • 炎症が抑えられる

  • 友情関係、恋愛関係が改善する

  • 心血管疾患、頭痛、胃腸障害等の症状を軽減する

  • 瞑想へのエンゲージメントが高まる

といったさまざまな効果が報告されていまして、私も旅行に行くときには必ず一つは畏怖を感じられそうな瞬間をプランに組み込むようにしています。一般的には壮大な自然や宇宙なんかがサジェストされることが多いですけど、人によっては教会や音楽、絵画等でも十分畏敬の念を感じられますんで、自分に適した対象を見つけていただければと。

コツ⑨:大事な人と時間を過ごす

人間関係が私たちの人生において重要な役割を果たすのは言うまでもないですが、いかに良好な人間関係を構築し、維持するのかは案外難しいところ。特に大人になると学生時代のように朝から晩までずっと同じ部屋にいる、なんて状況は稀ですから自然にグレートな人間関係が作られることを期待するよりも自分からアクションを起こしたほうが賢明でしょう。

で、休暇は他者との絆を強めるうえでかなりナイスな働きをしてくれることが判明しております。例えばパデュー大学などの国際的なチームが行った研究では、家族が一緒に旅行をすることで絆、コミュニケーション、連帯感にプラスの影響をもたらすことが確認されています。休暇は、社会学でいうところの「共有体験」(crescive bond)に当たり、思い出を共有し、日常の活動(学校、仕事など)から切り離された時間を共に過ごすことで、つながりの感覚をブーストしてくれるわけですね。おそらく旅行につきもののトラブルやストレスを共に乗り越える、という体験も寄与してるんでしょうな。

また、家族以外に友人同士で旅行に行った場合でも同様の傾向がみられることが報告されておりまして、特に人間関係の改善などが気になっている方は一人での旅行よりも誰かより仲良くなりたい人を誘ってみるのもありかもっすね。休暇後には相手とのつながりやソーシャルサポートの感覚が強化されることでより長期スパンでポジティブな影響を享受できるんじゃないかと。

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