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何もない街に憧れがやってきた

職場で毎日流れているラジオから珍しいバンドの曲が流れた。

「キケンナアソビ」

珍しいなぁなんて思っていたらラジオパーソナリティがひとこと
「10月に開催される四星球主催のフェスに登場します」

心臓がバクバク鳴り始めた。

どうやら地元で結成されたバンド「四星球」が結成20周年を記念して主催フェスを近所のアリーナで開催するらしい。そこにクリープハイプがやって来る。

四星球の存在はよく知っていた。高校生の時、自分達が卒業する年に校内で開催される、卒業を祝う予餞会に彼らがやってきてくれて体育館でライブをしてくれた。

その時はバンドに興味もなかったのでライブの内容もあまり覚えていない。

彼らはその数年後にメジャーデビューも果たし、今では各地のフェスで「お笑い枠」的な立ち位置で大活躍している。

その四星球が大好きなバンドを地元に連れてきてくれる。何だか不思議な縁を勝手に感じていた。

ホールがない私が住む街、徳島
単独ライブツアーを回るほとんどのバンドにスルーされていく。

愛媛、香川、高知には行くのに、徳島には来ない。
それが当たり前だった。

ライブに行くには遠出が必須だった。

それに加えてバンド音楽を聴き始めたのがコロナ禍直前だった私はクリープハイプの単独ライブはもちろん、フェスにも行ったことがなかった。

こんな機会2度とない。迷わずチケットを購入した。
広くない会場で前から15列目中央の席。

主催の四星球がコミックバンドなだけあってワイワイワクワク楽しませてくれる会場。登場する他のバンドも皆お祝いムードで楽しくステージを終えていく。

次はクリープハイプの出番。緊張で息が詰まりそうになる。

暗いステージにブルーのライトが照らされる。静まり返る会場。彼らがゆっくりと入場してきた。

「思わず止めた最低の場面 出会った夜に言ったセリフは」

思ってもみなかったスタートに全身が震えた。

これまでのワイワイした雰囲気が嘘のようにクリープハイプの世界に包まれていく。ギターの音色が鳴り、演奏が始まる。

あぁ、今目の前に大好きなバンドがいる。生の音を、何度も何度も支えられてきた優しくも力強い歌声を、この耳で聴いている。

今までに感じたことのない不思議な感覚だった。お風呂に入っているような、夢を見ているような、ふわふわと現実味のない心地よい感覚。

自宅から会場までは自転車で10分。普段のライブなら長距離移動が当たり前だったから日常から特別な1日への切り替えができていた。

今回は違う。完全に私の日常に非日常が入り込んできた。

現実だとわかっているのに夢を見ている。夢だとわかって夢を見ている時に似てる。

ずっとそんな感覚のまま過ごした40分間。憧れが目の前で、私の生まれ育った街で、音を奏でている。不思議な時間だった。

私の街は何もない。魅力度ランキングでも常に40位以下。それでも私の憧れはこの街で音を鳴らしてくれた。この街と、クリープハイプを連れて来てくれた四星球を誇りに思った。

クリープハイプのおかげでまたこの街を好きになれた。

クリープハイプの徳島童貞をもらった、と同時に私のクリープハイプ処女を捧げたあの日のことを、死ぬまで一生愛し続ける。

#だからそれはクリープハイプ

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