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感覚を遮断する

日常を生きていると、
携帯に依存した生活を送っているなと常々思う。

友人と飲みに行くと、トイレに行った本の数分の空き時間に携帯を触るし、
電車の待ち時間なんかももちろん携帯を見て時間を過ごす。
海外で3日ほど電車に乗り続けていた時は30分で電車からの眺めに飽きてしまい、数十時間に渡って数独を解いていた。

現代の環境に侵された気がして、少し解放された生活も経験してみたいなと思っていたところ、友人からアイソレーションタンクが良かったという連絡が来た。

アイソレーションタンク。
初めて聞いた名前だったが、簡潔に言うと、塩分濃度の高い水が入った真っ暗なタンクの中で、視覚聴覚を遮断しながら浮かぶらしい。
(フローティングタンクとも言うそう)

ネットで調べてみると名古屋で一店舗だけやっている店を見つけた。
たまたま翌日は休みでやることもなし。善は急げで行ってみることに。

当日の昼過ぎ、なか卯で親子丼と冷やしうどんをかき込み、お店へ向かう。

ビルの中の部屋を貸し切って行っているそう。

店内でまずは説明を聞く。

シャワー室
アイソレーションタンク

初めにシャワーを浴びて汚れを落としてから、耳栓をつけ裸のままタンク内に。そして仰向けに寝ると体が浮かび上がる。

イスラエルとヨルダンの国境にある死海も浮かぶことができることで有名だが、死海は塩分濃度が高い海水のため長時間入っていると痛みを伴うそう。
(死海の痛みは旅をしていた友人からもよく聞いていた)
一方アイソレーションタンクで使用している水は、硫酸マグネシウムという塩を入れており、体には無害だとか。

一通り説明を聞き、シャワーを浴び、ついにアイソレーションタンクへ。
部屋には黒いカーテン、テント内にも扉があるので、完全な暗闇状態。
始める際にベルを鳴らす。そこから1時間の間利用できる。
1時間経てば、終了の音楽が流れる。

早速足をつける。水の深さは30cmほど。地面に足をつけるとぬめりで滑りそうになった。
仰向けになると、体が浮かび上がってくる。

体が浮くことへの違和感があり、どういう体制を維持すればいいのかわからない。特に腕の位置が悩みポイント。

胸の前で腕を組み、セット完了。1時間外部から音も光も遮断される。

何か考えるのがいいのか、逆に何も考えない方がいいのか
特に事前に準備してこなかったので、時間の使い方がわからないまま始まった。
目を開けても暗い。電気を消して寝ていても、カーテンから微妙に光が差し込むことはあるので、完全な暗闇はなかなかない気がする。

まずは無思考状態を作ろうと試みる。
これ以前も何度か試みたことはあったが、何も考えない状態を作ろうと考えてしまい、うまく行った試しがない。
今回も案の定同じループに。
思考しなくていいことに集中してみようと、少し角度を変えて挑戦してみる。
自分の呼吸音をただ意識し続け、思考を止める作戦に。

呼吸をただ感じ続ける。
10秒ぐらいは続いたが、脳内にカービィが突如現れた。
自分の呼吸に合わせて、カービィは収縮をを繰り返す。
息を吸うとカービィは膨らみ、息を吐くとカービィは萎んだ。

スマッシュブラザーズで、カービィを使って戦った記憶が呼び起こされる。
小学校時代はスマブラが強いことが一つのステータスだった。
あの頃はクラス内でもかなり上の位置に君臨していた自分だが、5年ほど前に兄弟対抗のスマブラ対決で最下位になって以来すっかり自信を無くしてしまった。
小学校ぐらいからやっているが、今になっても周りでスマブラを楽しんでいる友人も多い。物心ついた頃から未だに続いているものってすごいなぁ。そういやワンピースも今年で25周年だし凄いな。そういやワンピースの映画早く観に行きたいなぁ。

無思考状態を作ろうとしていたことを思い出す。
自分の意思はこんなに甘いものなのかと絶望した。

もう無理に頑張ろうとするのはやめようと思い、
その場で思いついたことをいろいろ考えていると、自然と少しの間眠ってしまっていた。

目覚めると、水の中で浮かんでいた事を思い出す。
ベッドのような重力も感じず、なんだか不思議な気分。

そのままぼんやりしていると、ドクン、ドクン、と音がする。
徐々に音が大きくなっていく。どうやら鼓動の音らしい。
外部の音が遮断されているので、ちょっとした体から発される音がとても響く。
感覚が研ぎ澄まされていき、鼓動の音だけが響き渡る。

一定のリズムで動く鼓動。少し高揚感を感じるとリズムが早くなる。
出産前、子宮内に居るのってこういう気持ちなのかなと思ったり。

とてもリラックスした状態で、1時間終了の音楽が鳴り。
アイソレーションタンクは終了。

シャワーを浴びて、服を着ると、休憩室に通された。
お茶を飲みながら、お店の人と会話。

休憩スペース

日本ではまだほとんど店舗がなく、東京に数店舗、あとは名古屋、岡山などにいくつがあるのみらしい。
岡山は心療内科の中にあるんだとか。

客層もバラバラで、最近は若い人がどちらかというと多いらしい。

先日、キャップを被りピアスやタトゥーの入ったいかにも若そうなラッパーの青年が来たらしい。ラッパーの師匠が沖縄でアイソレーションタンクに入り、悟りを開いたらしく、勧められてきたそう。
「終わった後、なんと言ってました?」と聞いてみると、入って数分で銅鑼の音が鳴り響いて、世の中の全てが分かったらしい。

仏陀も、今の時代を生きていれば、苦行なんかしなくても1時間で悟りを開けたのかもしれない。

店の方とも色々と話しをして、少し晴れた気分で店を後にする。

友人との予定がそのあとにあったので、駅へ向かう。
ホームで駅を待って居る間、無意識に携帯を開いてしまった。
すぐには現代からは逃れられないらしい。

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