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自分の良さって何だろうと迷ったときに

いつもたくさんの方に読んでいただいており、本当にありがとうございます。noteでは、イタリアンレストランのオーナーシェフである僕が、普段、考えていることをお店のスタッフに語りかけるつもりで書いています。

自分のことは自分がよく知っている

先日、ある会話のなかで「自分の良さって気づきにくいですよね」という話題になりました。

僕は、まわりの人の良いところを見つけるのが得意です!

というのも、人の個性を良いものとするのか、悪いのものとするのかは、考え方で決まると思っています。

たとえば、相手にちょっと短気なところがあったとしたら、「短気って人よりよく気付くってことなんじゃないかな。気づいちゃうからイライラしてしまうんだと思うんです。それなら、気づいたことを相手にうまく伝えてあげられたら、相手のためにもなる。抱え込まずに、うまく伝えることを考えてみたらどうだろう?」という風に、ネガティブに思っているところをポジティブに移してあげると「そうなんだ、俺これでもいいんだ」とかって思えるようになると思うんです。

ポジティブな人は、自分にとって良いことだと思っているので「僕、自分の良さに気づいています」っていうんです。

でもネガティブな人は、自分で気付いていても、それをなんとか直そうと頑張っていることが多いように思います。それは本当の私じゃないと思ったり、こうしなきゃいけないというネガティブな方向に動くんじゃないかと思うんです。

僕自身も昔は、なぜかいつもイライラしていました。怖い人ですよね(笑)。誰からも指図を受けたくないと思うような一匹狼で、全部自分でやらなきゃ気が済まない性格でもありました。今はだいぶ変わってきましたが、いまだにまわりのことで気になることも多いです。

でも、僕自身もたくさん経験をしていくと、相手の秀でている部分に気付けるようになるんです。

一匹狼でいつもイライラしていた若い頃

昔の一匹狼だった僕を知る人からは「丸くなったね」といわれるかもしれません。

それは大人になって、経験を重ねてきたということだと思っています。僕は歳をとることで唯一良いところは、この「経験を積む」ことだと思うのです。

大人になるにつれて「丸くなる」とか「角がとれた」とよくいいますが、むしろ僕は角が増えに増えた結果、「丸く見えてる」だけなんじゃないかと。その増えた角というのが「経験」なのだと思っています。

自分の若い頃を思い出してみると、ただ経験をしていないだけだったんだと気づかされます。何か問題があったときに、どう動いていいかもわからないし、逃げ道もわからない。だから、今思うと本当にちょっとしたミスなのにパニックになって、どうしていいかわからなくて逃げ出してしまう。僕にもそんな経験がありました。

だけど、今だったらそんなことは絶対にありません。いろいろなことを経験してるから、対処法もわかるし逃げ方もわかるようになっています。ただそれだけなんです。

若いスタッフに向けて経験を積んできた僕ができることは、いろいろな考え方があることを伝えること。ネガティブだと思っていることは、じつはネガティブじゃないんだよ。こんなふうに考えればいいんだよっていうことを伝えようと思っています。

でもなるべく主体的に気づいてほしいので(その方が自分のためになる)、「自分でわかっていると思うけど」と、ワンクッションを入れて遠まわしに伝えるようにしています。

良いシェフ、良いソムリエってなんだろう?

歳を重ねていくと自然と経験値は増えていくのですから、今無理に経験値を上げようと頑張りすぎる必要もないと思っています。

ブリアンツァにソムリエ試験を受けようというスタッフがいました。普段の仕事をしながら、すごく勉強していたんです。それこそ寝る間を惜しんで、一生懸命勉強していました。

そうしたら、残念なことに体調を崩してしまったんです。

頑張ることは良いことだと思うのですが、焦ってもいけません。それは、ソムリエにとって知識や技術はもちろん大事なのですが、良いソムリエになるには、僕は他にも大切なことがあると思っているからです。

そのスタッフには「良いソムリエってなんだと思う?」という質問をしました。「お客様にあったワインを提供する」とその子は答えました。もちろん大正解なのですが、僕自身は、それはソムリエではなく、良いレストランサービスのことではないかと思うのです。

では、良いソムリエとはどんなソムリエでしょうか。

僕は、誰も買えないワインを引っ張ってこれる人だと思っています。安くていいワインや、世界に数本しかないワインを買えるのはもちろん、安定してクオリティの高いワインを購入できるパイプがあるというのも、良いソムリエの条件だと思います。

それは、僕が考える「良い料理人」の条件と同じことでもあります。希少性のある素晴らしい食材や、お客様がおいしいと思う食材を安価で取れる人、それが良い料理人だと思っています。そのためには人と人のつながり、信頼関係が必要でもあります。

世界中を見回したときに、良い料理を作れる人はたくさんいます。良いワインを知ってる人もたくさんいます。良い料理、良いワインの知識を求めるなら、勉強ができる人にまかせたら100点満点をとれるのではないでしょうか。

しかし経験によって生まれる人とのつながりは、知識だけでは得ることはできません。

もちろん、まったく知識が必要ないというわけでもありません。相手の考えや価値観を理解するために、農業や畜産のこと、ワインのことを学ぶ必要があります。でも、覚えておいてほしいのは、学ぶことがゴールではないということです。

そういうふうに物事を考えると、ソムリエ試験に焦って合格する必要がないと思えるのではないでしょうか。勉強をコツコツやって知識を蓄積していけばいいし、1回で合格しようとせず、2回や3回、4回にわたって挑めば、より理解が深まるはずです。

明日死ぬわけじゃないんだから、ゆっくり勉強していけばいいと思うよ」。そんな風にソムリエ試験を目指すスタッフには声をかけました。

過去を考えても変わらない。ポジティブに

奥野さんは、みんなから好かれていますよね。どうしてだと思いますか?」と、取材などで聞かれることがあります。僕自身、全然そんなことはないと思いますし、もしそうでも相手があることなので、なぜといわれても難しいのですが……、みんなが一緒にいて楽なんじゃないかと思っています。

それは、子どもの頃と一緒で、一緒にいて楽だし、楽しいから友だちになってくれて「おっくん遊ぼう」と、家のピンポンを押しにきてくれるのと同じことなのだと思うのです。加えて僕自身が、今はあまり人にどう思われているかというのは気にならなくなったのもあると思います。

昔は、自分がどう思われているかを気にしたこともありました。だけど、ありがたいことに今は、スタッフを含めて仲間がいっぱいいて、誰かに嫌われているかどうかを考えるよりも、仲間との時間を大切にして共有していった方がいいと思っています。

だから、もし「嫌われないようにしなきゃ」と臆病になってしまっているスタッフをみかけたら、「今、僕はあなたのことが好きなんだよ。それだけでもいいことなんじゃないかなぁ」って声をかけると思います。

それにネガティブなことって忘れた方がいいんです。忘れることができるのも人間のいいところ。後ろばっかり見てもしょうがないですから。

過去に戻ってもしょうがないし、過去を気にしてもしょうがない。そもそも過去に戻れないんだから。だから僕は、「今が自分史上一番!」と思っています。

後悔するようなことがあっても、それはしょうがない。自分で罪を償うしかない。そういう経験、僕もなくはないですよ。それでもポジティブに考えていくことは、僕らしさだと思っています。

ラ・ブリアンツァ」オーナーシェフ
奥野義幸

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