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未来を描くなかで考えた「ブリアンツァ」の使命について

いつもたくさんの方に読んでいただいており、本当にありがとうございます。noteでは、イタリアンレストランのオーナーシェフである僕が、普段、考えていることをお店のスタッフに語りかけるつもりで書いています。

飲食人の人生とひと口にいっても、いろいろな選択があると思います。

修業先から独立して初めての店舗を構えて少しずつお客様が増えていくなかで、従業員を増やしてもっと多くのお客様に楽しんでいただくようにするか、規模はそのままに料理やサービスのクオリティをあげていくか。そもそも独立をせず、信頼するオーナーのもとで働きつづけることを選ぶ人もいるでしょう。

それぞれが正しいとか間違いではなく、僕はどの選択も素敵なことだと思っていて、飲食人の数だけ選択の数はあると思っています。

それに、選択したなかでも自分が置かれている環境や、周囲との関係、社会情勢によって考えが変ってきます。だからこそ、悩みは尽きないんですが……。

ブリアンツァグループも最初は、僕一人の小さなお店からスタートしました。その後、店舗展開をしていくなかで、僕自身のエゴがもちろんありますが、いろいろと考えが変わってきています。働いてくれているスタッフがさらに活躍できる場所にしていくことを大事に考えていることに変わりませんが、最近は外食業界のなかでの「ブリアンツァ」の使命についても考えるようになりました。

トップレストランで働ける人はひと握り

日本には、外食店がたくさんあります。外食店に上下はないと僕は思っていますが、あえていうなら「ミシュランガイド」や「世界のベストレストラン50」などでも評価が高いようなトップレストランがあります。多くは予約困難な高価格帯の人気店です。

若い料理人やサービス人たちがそこで働ければ、多くのことを吸収できるので将来の選択肢はかなり増えると思います。

しかし、そういったトップレストランで働ける人はものすごく少ない。それは定員が限られているという意味でもありますし、働きつづけることが難しいという意味でもあります。

というのもトップレストランでの仕事は間違いなく厳しいものです。その環境のなかで働けるのは、それだけの努力を肯定的に捉えて、5年後、10年後の自分を見ることができる人に限られます。

厳しい環境ゆえ、働きつづけられない人が出てしまうのは残念なことではありますが、ある意味で仕方がないと思うのです。それに、続けられなかったからといって料理人やサービスマンとして挫折したわけではありません。

一方で極端な話ですが、アルバイトからでも働くことができるファミリーレストランや居酒屋チェーン店のような外食店もあります。社会で働く人たちの生活を支えるお店ですので、トップレストランと同じようにすばらしく価値あるものです。

しかし、そこで10年働いたとしてもトップレストランに就職することは難しいのも事実です。また将来的に自分のレストランを出したいと思うのであれば、調理技術や接客術、経営術などを学ぶための経験は乏しいといえます。

レストランで働きたい、自分の店を出したいという夢をもった人たちに対して、ブリアンツァができることは何かと考えたとき、富士山の七合目ぐらいの店でいることは、もしかしたら意味があることではないかと思っています。

たとえばブリアンツァグループで働ければ、ある程度の知識や技術を学ぶことができます。そしてトップレストランと比べれば仕事は厳しくありませんから、働きつづけやすいともいえます。

手前味噌ではありますが、ブリアンツァで3年働けばトップレストランを目指して、もっと厳しい環境で仕事するための素地はできると思います。さらにもっとカジュアルしたレストランにいけば、きっとバリバリ働くこともできるでしょう。

外食業界で最初に働く人にとって「将来の選択肢を増やせるレストラン」が必要で、ブリアンツァがその役目を果たすレストランであることも重要なのではないかと、最近思っているのです。

パズルは1個ずつピースを埋めていけば絶対に完成する

店舗展開はパズルに似ていると思っています。

1,000ピースのパズルって聞くとちょっと難しそうに感じますよね。子どもにはなかなか難しくて、最初は10ピースとか50ピースからはじめると思います。しかしずっと50ピースだと飽きてしまうので、次は100ピース、1,000ピースと増やしていって、ついには10,000ピースをやってみたいと思うようになります。

パズルっておもしろくて、ピースを当てはめて完成させる行為は、ある種の連動性があるように見えて、実はないです。つまり、1個ずつ確実にピースを埋めていけば絶対に完成する、先を考えてやるものではないんです。

しかも、たまに誰かが通りかかったときに「ココとココあうじゃん」って発見したりする。そんなとき「ひとりでやってるから口出すなよ!」なんていいながらも、「そうか気付かなかった」といって、それがきっかけでピースが次々に埋まっていったりもします。

一つひとつ積みかさねていくことや自分以外の人がピースを見つけてくれること、さらにはピースが増えていくに連れて増していくワクワク感、やってやるぞという気持ちの入り方までも、僕はパズルと店作りが似てる気がするんです。

たとえばブリアンツァのスタッフに対して、食材の組み合わせはまだまだだなって思うところもあれば、これおいしいじゃんみたいな組み合わせもあって、スタッフから気づかせてもらうことが多かったりします。これも、パズルのピースを他人に見つけてもらうのに似ています。

一緒に働いている人から勉強できてるというのはとっても幸せなことです。今まさに10,000ピース以上のパズルをつくっているような感覚で、ブリアンツァの未来を考えています。

ラブホ文化を世界にもっていく?!

現実的に、店舗展開を考えていくなかで、最近は飲食以外の展開も考えています。それは料理人として正しいか正しくないかではなくて、僕はやることによって意義があると思っていますし、自分がやりたいと思っている気持ちも大事にしたいと思っています。

たとえば料理人から経営者になった僕が、100店舗を出店できたらおもしろいと思うんです。さらに上場してIPO(新規株式公開)するのもおもしろいですよね。壮大な夢のためには、やることがたくさんありますが、そのために何をするのかを考えることにも価値があります。

飲食以外の展開では、旅行業に可能性がありそうです。

SNSやインターネットの発達で、日本の裏側にあるような世界のレストランに食べに行けるようになりました。北欧や南米のレストランなど、どうやって行けばいいかわからない土地にも、世界から人を集めるレストランがたくさんあります。

そういったレストランを予約したら、このフライトでこのホテルに泊まって、こう移動するのが一番いいよというようなコースが、すぐにマッチングできるサイトがあったらいいと思うんです。

モノよりも経験や体験が求められる時代になると、ここ10年ぐらいでいわれています。その経験や体験をしようと思うと、旅はかなり大事なパーツだと思っています。

ホテルもラグジュアリーでハイエンドなだけでなく、カルチャーやサステナビリティに配慮したコンセプトの建設が進んでいますが、僕はむしろ“ラブホ”スタイルのホテルがおもしろいと思っています。

ラブホというと誤解されてしまうので(笑)詳しくいうと、好きな部屋をパネルから選べて、素泊まり料金を払うだけ。部屋には自動販売機があって、軽く飲めるような良いワインやスナックが買える。そんな「おしゃれなラブホ」のことです。もちろん内装は開放的で、ラグジュアリーホテルのような居心地の良さがあるようにします。

しかも建てるのは、地方で都会からゲストを呼ぶような人気のあるレストランの近くが理想です。料理を提供せずレストランとの競合はしないのが重要です。

地方の雇用も生まれるし、良いレストランや良いホテルで働くことは、働く人のプライドやモチベーションにもなります。観光業の活性化という点でも、おもしろいんじゃないかと思っています。

良いレストランの近くで、ラグジュアリーホテルの半額の価格でホテル体験ができるちょっと良いホテルを建てる。なにより僕自身が、そんなホテルがあれば、より食を中心にした旅を楽しめると思っているからでもあります。将来的に、「ラブホの文化を世界に持っていこう」なんてことも考えたりしています。

「食」という太い幹で考えていくこと

事業については、店舗展開だけでなく他業種への挑戦などもあり悩み中です。まだまだ答えが出せていませんが、2、3年後ぐらいには決めたいなと思っています。

奥野さんは、レストランをやめるの?」なんていわれるかもしれませんが、「」という幹があったうえで、いろいろな枝葉が生えてくるので、根本に食があることはかわりません。それに食の幹はものすごく太いので、枝葉では何でもできるんですよ。

今、太い幹から枝葉を生やしていくことについて勉強させてもらってるのが、僕の周りのシェフや経営者の方々です。話しをしていくなかで「なるほど」と思わせてもらうことが多いです。

人って思ったより他人に影響されるものです。人の言葉を100%無視できる人間なんていないとはいいませんが、本当に少ないものです。人の言葉に左右されるのがいいか悪いかは別として、聞くと多かれ少なかれ影響を受けるものだと思います。

もちろん僕も人の言葉に影響を受けます。だから、ブリアンツァのスタッフの言葉も心に響くんです。スタッフにはこう言われてたけど、どうしたらいいんだろうって常に気になってしまいます。

僕の周りにいる方々は、本当にすごい人ばかりです。だから素直になれますし、そんな方々と楽しく話せただけでなく家に帰ってから反芻できる材料になるってそんな幸せなことはないなって思います。

実現できようができまいが、そういう夢物語を考えることができるチャンスを与えてくれた方々には感謝しないといけません。

それは、少ししか話したことはない人であったり、SNSで繋がっている人たちも同じです。出会わせてもらったり、いろいろな繋がりをもたらしてくれた人たちに感謝の気持ちを忘れずにいたいと思います。

ラ・ブリアンツァ」オーナーシェフ
奥野義幸

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