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ミニマリスト・パリ

「フランス人は10着しか服を持たない」という本がある。
そのタイトルの通り、フランス人にはたくさん新しいものを買うというよりは、古いものを格好良く大事に使うことに誇りを持っている人が多い。
毎シーズン流行が変わるなんてこともないし(もしかしたらそれって日本かアメリカくらいのものかもしれない)、ヴィンテージを取り入れながら「自分」の色を上手に出していて、パリの街中でそんな人を見かけると格好良くてつい横目で観察してしまう。
そしてその精神はファッションだけではなく、日々の生活の中でも随所に見られる。お店で何かを買った時のラッピングなんかもそうだ。プラスチックバッグを下げている人なんかほとんど見かけない。(これは日本もそうですよね)うっかりエコバッグを忘れてしまった時でも、両手で持ちきれるくらいの量であれば、袋は断って手で抱えて持って帰る。

ところで皆さんはガレット・デ・ロワというお菓子をご存知だろうか。フランスで新年を祝うお菓子で、中にこっくりとしたアーモンドペーストの入っている、サクサクのパイだ。そして、その中にはフェーヴという小さな陶器のおもちゃが入っていて、切り分けられた自分のパイにそれが入っていたら、その年はラッキーという、おみくじみたいなお菓子である。そして紙製の王冠もついていて、フェーヴが当たった人は王様や女王様としてそれを被る。
新年にはどのパティスリーからもこぞってそのパイが売り出される。私もそれが楽しみで毎年(と言っても2年しかパリにいなかったのだけど)どのお店のガレット・デ・ロワを買おうかウキウキしていた。
その年は、近所にあった老舗のパティスリーのショーケースに並んでいた、大きな栗の形のものを買うことにした。お店に行ってこれを一つくださいと言うと、お店のお兄さんが丁寧に説明してくれた。うちのガレット・デ・ロワの王冠の中には種が入っていて、植えるとちゃんと芽がでるんです、とのこと。
なるほどね、こういう遊び心もパリっぽくて可愛いな、と思いながらレジで支払いを済ませ、店を出た。
ほくほくと歩きながら、渡された袋の中を見てはっとした。ビニール袋の中に、何も包まれていないむき出しのパイとレシートがひらりと入っていたからだ。さすがのパリでも、クロワッサンやパンオショコラのようなパリパリ系のものを買った時は、個別に紙袋に入れてくれていた。しかしまぁ、いらないっちゃいらないか。パイのパリパリがビニール袋の中に落ちようが紙袋の中に落ちようが同じだもんね。でも時はコロナ禍である。日本では考えられないその光景に、歩きながらふふっと笑ってしまった。

ちなみに帰宅して夫にそのパイを見せたら「おぼっちゃまくんかよ」と言われました。(昔、頭部が栗のような形をした漫画のキャラクターがいたんです)お味はミニマルとは真逆の濃厚さで最高でした。


#ミニマリスト #パリ #海外生活  



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