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雅楽~音程(1)~狭い隣接音と広い隣接音を図示してみた

雅楽の音の構成を説明します。

三分損益(ピタゴラス音律)というルールで作られた、独特の並びがあります。

旋律楽器である龍笛にとっては、そこから生じる音程(音の隔たり)に、独特の注意が必要です。

*雅楽は「唱歌」で実践的に音感を養います。この記事は補助として、疑問が沸いた時の参考にお使いください。音同士の関係が掴みやすくなると思います。

12個の「律」

雅楽では、用いる音を「律」と言います。律は1オクターブの中に12個あり、それぞれ個別の名前が付いています。これを「十二律」と言います。
また、隣りの音との隔たりを「1律」と数えます。

十二律

「上無は盤渉より2律高い」というふうに表現します。

嬰(#)・変(♭)は使いません。

ちょっと余談で、私の感じ方になりますが、もし「壱越♭」という呼び方があったらその音は、「あくまで壱越が変化したもの」です。

十二律にはそのような概念はなくて、全て価値が等しいもの、と私は受け止めています。

このことは、それぞれ自立した音色のイメージへ、すなわち、平調・双調・壱越…それぞれ鳴らし方を変える…ということにつながるのですが、その話は別の機会にしたいと思います。

1律の幅は2種類ある

構成に戻ります。

音程に着目すると、「半音」という概念がありません。全・半という捉え方はないのですね。あくまで、1律・2律・3律…です。

そして、1律の幅は2種類あります。

現雅楽音高(理論値)の相関図

数値は音程(単位=セント)です。
(筆者作。笙の調律手順や参考文献*を基に各周波数を算出し、音程値を導いた)

狭い1律=90セント
広い1律=114セント

と見ていいと思います。

100セント=西洋音楽での半音です(12平均律の場合)。12平均律の音感がある人が雅楽を聞いたり稽古したりすると、最初は違和感が強いかもしれません。

*大事なことなので繰り返しますが、雅楽は「唱歌」の稽古で実践的に音感を養います。この図は音程について疑問を感じたときに参考にする、という程度でご覧ください。大事なのは唱歌の方です。

注意したい1律移動パターン

龍笛の場合、1律移動というパターンは多くありません。次の3つを押さえておくといいと思います。

■「平調―勝絶」
狭い1律。とてもよく使われます。

■「神仙―盤渉」
狭い1律。ヒイチやトリヒリラで意識する必要があるでしょう。

■「下無―双調」
狭い1律。勝絶から下無へすり上げて双調を出す奏法があります。双調が上ずらないようにするには、管を内側へ戻すのがコツです。

■「平調―断金」
広い1律。皇麞急で出てきます。「音をしっかり下げて」と師匠に注意された記憶があります。


十二律の構成では、「純正な音程」というトピックもあります。
これが分かると、楽曲の中で大事な音関係が見えてきます。

それはまた今度に(^^)


*下記の文献を参考にしました。
▽明土真也 2011 『基本的な統計手法の活用による日本の十二律の推定』 日本統計学会誌 第41巻 第1号 pp.23-50、https://www.terrapub.co.jp/journals/jjssj/pdf/4101/41010023.pdf(2020年4月30日所在確認)
▽鈴木治夫 2005 『雅楽 四三〇サイクルの決定とその背景 押田良久の雅楽への情熱』 日本雅楽会
▽小野亮哉(編)・東儀真太郎(代表執筆) 1989 『雅楽事典』 音楽之友社

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