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不自然な静止の中で身体と対話する

 定期的に、夫のクロッキーモデルをやっています。
 7分×3ポーズ 、5分×4 、3分×7 、2分×7 、1分×5 、4分×5。 計31枚、2時間半くらいのその時間を夫は、絵を描くことの基礎体力づくりとしてコツコツ続けています。

 「1000本ノック」(最近あまり聞かないかも)とも呼ぶそれは、素人モデルの私にとってもなかなかに身体力が必要となります。
 プロのモデルさんのような「映えポーズ」にはならなくても、素描練習として歯応えがあるようにと工夫しています。
 わざと少しバランスを崩した状態でバランスしつづける。動きの途中であるかのように捻ったままで静止しつづける。などなど。

 日ごろは、より楽な姿勢であれるように、より自然に動作できるように、と役立てることの多い身体メソッドをやっていることが、ここでは不自然な静止状態を保つために、おおいに役立っています。

 たとえば、背骨のどこでカーブを作ってどれぐらい捻るか、足先に対して膝の向きをどうしようか、股関節のどこに乗っかるか、傾けた頭の重さをどう支えようか・・・ポーズをハイっととった時から、そういうことが、その形を維持するための監視対象となります。

 さらに、体のあちこちに意識のマークをつけて、相対的な位置関係や距離を測り続けます。
 右手と左足先の関係は? 左肩と左股関節は? 耳と肩は? おへそとおでこは?
 そうすると、楽な形に戻ろうとしたり、重力に負けていきそうになることに、逆らい続ける助けになるのです。

 長めのポーズの場合は、特定の部位に負担がかかり続けないよう、形はそのままに微妙に使う筋肉を変えてみたり、捻ることで息がしにくければ、肺を膨らます方向を探すなど、生き延びる(笑)ためにできることを何でもやります。

 こういう要素を、ほんとうは日常動作の中でも解像度高くありたいのですが、たいてい何か目的があって動いていたり、うっかり考えごとをしていて、身体的にたくさん気づき続けることはなかなか難しいものです。
 その点、静止状態で、しかも楽ではない形では、たくさんのことに意識を向けやすくなりますし、向けざるを得なくなります。その意味で「1000本ノック」は私にとっても、よい感覚トレーニングになっているのです。

 止まっていても、身体の中でずっと何かが動き続けているし何かを探り続けているので、飽きることがありません。
 このごろやっと、あまり照れずにできるようになり、ちょっとしたモデル気分を楽しんでいます。

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