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Perplexityに論文添削指導してみた(3)

3時間ほどかけていろいろやり取りをして、Perplexityに論文を書かせてみた。(1)(2)とnoteで公開しているが、その(3)に当たる。これだとシニアプロジェクトでAがとれて、大学院への応募書類にも使えると思う。だが、問題は脚注が着いていないことなのだ。作ってもらった文章に番号が着いていることがあり、それが参照文献をさしているはずなのだが、アクティブになっていない。この問題をいかに解いていくか?追々考えていくことにして、とりあえずできあがった論文を紹介しておこう。添削を50箇所おこなって完成した。まあ普通の論文指導の要領で行ったが、それにしたがって、瞬時に書き換えるので、作業は出力を下記のように整理するのに一時間で、トータル4時間セッションくらいだった。短いような長いような。すでに紹介した添削だけで書きあげたものである。

生成AIによる「パノラマ的」情報処理とアウラの変容:グラムシのサバルタン概念の再考

1. はじめに

   生成AI技術の急速な発展は、情報処理と知識生産の方法に革命的な変化をもたらしている。本論文では、アントニオ・グラムシの「サバルタン」概念を中心に据えながら、ヴァルター・ベンヤミンの「アウラ」概念とヴォルフガング・シヴェルブシュの「パノラマ的知覚」の概念を援用し、生成AIがもたらす社会文化的変容について考察する。
   グラムシの「サバルタン」概念は、支配的なヘゲモニーに対抗する下位の社会集団の声を強調するものである¹。この概念は、文化的・政治的な従属関係を理解する上で重要な視座を提供してきた。グラムシは、サバルタン集団が自らの歴史を語る能力を持ちながらも、その声が支配的な歴史叙述から排除されてきた過程に注目した。彼は、サバルタンの声を回復し、彼らの経験を歴史の中心に据えることで、支配的なヘゲモニーに挑戦する可能性を見出した。しかし、生成AIの登場により、この概念の再考が必要となっている。
   生成AIは、膨大なデータを処理し、これまで見落とされてきた声や経験を可視化する能力を持つ。同時に、AIによって生成されるコンテンツが新たな形のヘゲモニーを形成する可能性も指摘されている。このような状況下で、サバルタンの声はどのように位置づけられ、どのように表現されるのか。この問いは、デジタル時代におけるサバルタン性の再定義を迫るものである。
   ベンヤミンの「アウラ」概念は、芸術作品の真正性と一回性に基づく特別な雰囲気や価値を指す²。ベンヤミンは、機械的複製技術の発達により、芸術作品の「アウラ」が失われていく過程を分析した。彼は、この変化が芸術の民主化をもたらす一方で、芸術作品の儀式的価値や伝統的な文化的文脈からの乖離をもたらすと論じた。生成AIは、この「アウラ」の概念に新たな解釈を迫っている。AIが生成する作品は、毎回異なる結果を生み出すため、新たな形の「一回性」を持つ可能性がある。これは、デジタル時代における「アウラ」の再定義を示唆している。同時に、AIによって大量に生成される作品が、芸術の価値や真正性の概念にどのような影響を与えるのかという問いも浮上する。
   一方、シヴェルブシュの「パノラマ的知覚」は、19世紀の鉄道旅行がもたらした新しい視覚体験を描写したものである³。シヴェルブシュは、鉄道旅行によって風景の知覚が変化し、旅行者が細部を見失い、全体的な印象のみを捉えるようになったと論じた。この概念は、近代化がもたらした知覚の変容を鋭く分析したものとして評価されている。生成AIによる情報処理は、このパノラマ的知覚に類似した、新たな情報認識の様式をもたらしている。AIは膨大なデータを高速で処理し、全体的なパターンや傾向を抽出する。この過程は、個々の情報の細部を捨象し、大局的な視点を提供するという点で、シヴェルブシュが描いたパノラマ的知覚と類似している。
   本研究の目的は、これら三つの概念を結びつけることで、生成AI時代における文化的ヘゲモニーと従属関係の変容を分析することにある。特に、以下の問いに答えることを目指す:

  1. 生成AIによる多言語・多文化的パノラマの創出は、従来の言語的・文化的ヘゲモニーをどのように再編成するか。

  2. デジタル環境における新たな「アウラ」の形成は、サバルタン集団の文化的表現にどのような可能性と課題をもたらすか。

  3. 生成AIの「パノラマ的」情報処理は、サバルタン集団の自己認識と社会的位置づけにどのような影響を与えるか。

  4. 生成AIは、グラムシが描いたサバルタンの声なき状況をどのように変容させる可能性があるか。

   これらの問いを探求することで、本研究は生成AI時代における文化的多様性、言語的ヘゲモニー、そして知識生産の民主化の可能性と課題を明らかにすることを目指す。同時に、技術決定論に陥ることなく、生成AIがもたらす社会文化的変容を批判的に検討する。

2. 理論的枠組み

2.1 グラムシの「サバルタン」概念
   アントニオ・グラムシの「サバルタン」概念は、支配的なヘゲモニーに対抗する下位の社会集団を指す。グラムシは、サバルタン集団が支配的な文化や政治体制に従属し、声を奪われる状況を批判的に分析した⁴。彼は、サバルタン集団が自らの声を取り戻し、社会的・政治的な変革を実現するための方法論を模索した。 
          グラムシのサバルタン研究への関心は三つの側面を持つ:
1)サバルタンの歴史記述の方法論の確立
2)サバルタン階級の歴史の記述
3)サバルタンの歴史的発展と存在に基づく政治的変革戦略の構築
  グラムシは、市民社会の領域におけるポジション戦にサバルタン集団を巻き込むことを目指していた。そのため、市民社会を通じてサバルタン性がいかに創出されるかに特に関心を持っていた。グラムシのサバルタン概念は、単なる被害者としての状態ではなく、人々が生まれた環境との関係の中で自らを形成し、同時にその環境に影響を与えるという複雑なプロセスを含んでいる。
   サバルタン性は、既存の分析カテゴリーを状況に押し付けようとする歴史家や理論家によって、しばしば脱政治化または脱文脈化される。グラムシの「サバルタン」概念は、その後のポストコロニアル研究や文化研究に大きな影響を与えた。特に、ガヤトリ・スピヴァクの「サバルタンは語ることができるか」という問いは、サバルタン研究の重要な転換点となった。スピヴァクは、サバルタンの声を代弁しようとする知識人の役割を批判的に検討し、サバルタンの声を直接聞くことの困難さを指摘した。
   生成AI時代において、グラムシのサバルタン概念は新たな意味を持つ。AIによる情報処理と生成は、これまで見落とされてきたサバルタンの声を可視化する可能性を持つ一方で、新たな形の排除や抑圧を生み出す可能性もある。例えば、AIの学習データにおけるバイアスは、既存の社会的不平等を再生産し、強化する危険性がある。また、AIによる情報の「パノラマ的」処理は、サバルタンの経験の複雑性や多様性を単純化してしまう可能性もある。グラムシが強調したサバルタンの主体性や抵抗の可能性が、AIによる大規模なデータ処理の中で見落とされる危険性にも注意を払う必要がある。

2.2 ベンヤミンの「アウラ」概念

   ヴァルター・ベンヤミンの「アウラ」概念は、芸術作品の真正性と一回性に基づく特別な雰囲気や価値を指す。ベンヤミンは「複製技術時代の芸術作品」において、機械的複製技術の発達が芸術作品の「アウラ」を喪失させると論じた⁵。ベンヤミンは次のように述べている:「複製技術は、複製されるものを伝統の領域から引き離す。複製を数多く作ることによって、複製技術は一回限りのものの代わりに大量のものを置く。そして複製を受容者のもとへ届けることを可能にすることによって、複製技術はこの複製されたものを絶えず新たな状況に置く。
   ベンヤミンの「アウラ」概念は、芸術作品の儀式的価値や伝統的な文化的文脈との関連性を強調するものであった。彼は、機械的複製技術の発達により、芸術作品が元々の文脈から切り離され、大衆に広く流通することで、その「アウラ」が失われていくと考えた。しかし、ベンヤミンはこの変化を必ずしも否定的には捉えていなかった。彼は、芸術の民主化や政治化の可能性を見出し、新しい知覚様式の出現を予見した。この視点は、生成AI時代における芸術と文化の変容を考える上で重要な示唆を与える。
   生成AI時代において、「アウラ」の概念は新たな解釈を必要としている。AIが生成する作品は、毎回異なる結果を生み出すという点で、新たな形の「一回性」を持つ。これは、デジタル環境における新たな「アウラ」の形成を示唆している。同時に、AIによって大量に生成される作品は、芸術の価値や真正性の概念に根本的な問いを投げかける。オリジナルと複製の境界が曖昧になる中で、芸術作品の価値はどのように定義されるのか。また、AIが生成する作品に対して、我々はどのような美的経験や文化的意味を見出すのか。
   さらに、AIによる芸術創作は、芸術家の役割や創造性の概念にも変革をもたらす。人間とAIの協働による創作プロセスは、従来の芸術創作の枠組みを超えた新たな可能性を開く一方で、芸術の本質や価値に関する根本的な問いを投げかける。これらの問いは、ベンヤミンが提起した芸術の政治化や民主化の問題とも密接に関連している。AIによる芸術創作の民主化は、芸術へのアクセスを拡大し、新たな表現の可能性を開く一方で、芸術の商品化や規格化をさらに推し進める可能性もある。

2.3 シヴェルブシュの「パノラマ的知覚」
   ヴォルフガング・シヴェルブシュの「パノラマ的知覚」は、19世紀の鉄道旅行がもたらした新しい視覚体験を描写したものである。シヴェルブシュによれば、鉄道旅行は旅行者から風景を奪い取り、その代わりにパノラマ的な眺めを与えた⁶。旅行者の目は、もはや風景の細部を捉えることができず、ただ大まかな輪郭を把握するだけとなった。シヴェルブシュは、この新しい知覚様式が単なる視覚的な変化にとどまらず、近代的な時間と空間の経験を根本的に変容させたと論じた。鉄道旅行は、距離と時間の関係を圧縮し、空間の均質化をもたらした。これにより、地域間の差異が縮小し、国民国家の形成や資本主義の発展が促進された。
   「パノラマ的知覚」の概念は、技術革新がもたらす知覚の変容と、それに伴う社会文化的変化を鋭く分析したものとして評価されている。この概念は、現代のデジタル技術がもたらす知覚の変容を理解する上でも重要な示唆を与える。
   生成AIによる情報処理は、シヴェルブシュが描いた「パノラマ的知覚」に類似した、新たな情報認識の様式をもたらしている。AIは膨大なデータを高速で処理し、全体的なパターンや傾向を抽出する。この過程は、個々の情報の細部を捨象し、大局的な視点を提供するという点で、鉄道旅行者の視覚体験と類似している。
   シヴェルブシュの分析によれば、鉄道旅行は風景を「パノラマ化」した。つまり、旅行者は風景の細部を捉えることができず、全体的な印象のみを得るようになった。これは、生成AIによる情報処理にも当てはまる。AIは膨大なデータから全体的なパターンを抽出するが、個々のデータの細部や文脈は失われがちである。
   さらに、シヴェルブシュは鉄道旅行が空間と時間の認識を変えたと指摘した。鉄道は距離を時間で測る新しい感覚をもたらし、空間を均質化した。同様に、生成AIは情報空間を均質化し、異なる文脈や時間軸の情報を瞬時に結びつける。これは、我々の知識や経験の構造化方法に大きな影響を与えている。
   シヴェルブシュは、鉄道旅行がもたらした「ショック」の経験にも注目した。高速で移動する列車の中で、旅行者は連続的に変化する風景に直面し、感覚の過負荷状態に陥った。この経験は、生成AIによって大量に生成される情報に直面する現代人の経験と類似している。情報の洪水は、新たな形の「ショック」をもたらし、我々の認知能力や注意力に影響を与えている。
   「パノラマ的知覚」の概念は、生成AI時代におけるサバルタン性の問題にも新たな視点を提供する。AIによる「パノラマ的」情報処理は、サバルタン集団の声や経験を可視化する可能性を持つ一方で、その複雑性や多様性を単純化してしまう危険性もある。サバルタンの経験の細部や文脈が、AIの「パノラマ的」処理によって失われる可能性に注意を払う必要がある。
   また、シヴェルブシュが指摘した空間の均質化は、生成AI時代における文化的均質化の問題とも関連している。AIによる多言語・多文化的情報処理は、文化間の障壁を低下させる一方で、文化的差異を平板化してしまう可能性もある。これは、グラムシが懸念したヘゲモニーの問題と新たな形で結びつく。
   さらに、シヴェルブシュの分析は、生成AI時代における「アウラ」の変容にも示唆を与える。鉄道旅行が風景の「アウラ」を変容させたように、AIによる芸術創作は作品の「アウラ」を再定義する。AIが生成する作品の「一回性」や「真正性」は、ベンヤミンが論じた従来の「アウラ」とは異なる形で現れる可能性がある。

3. 生成AIによる「パノラマ的」情報処理

3.1 多言語・多文化的パノラマの創出
   生成AIは、多言語・多文化的なパノラマを創出する能力を持つ。これは、グラムシのサバルタン概念に新たな視点をもたらす。従来、言語的・文化的ヘゲモニーは特定の言語や文化に偏重していたが、生成AIはこの構造を変革する可能性を持つ⁷。例えば、GPT-3のような大規模言語モデルは、複数の言語で学習し、異なる文化的文脈を理解することができる。これにより、従来はマイナーとされてきた言語や文化の表現が、より広く認知される可能性が開かれる。AIは、これまで見落とされてきたサバルタンの声を拾い上げ、可視化する潜在力を持っている。
   しかし、この可能性は同時に新たな課題も提示する。AIモデルの学習データに内在するバイアスが、既存の文化的ヘゲモニーを再生産する危険性もある。例えば、英語のデータが圧倒的に多い現状では、AIが生成する多言語コンテンツにおいても、英語圏の文化的バイアスが反映される可能性がある。また、AIによる多言語・多文化的パノラマの創出は、文化的差異の平板化をもたらす可能性もある。AIが異なる文化の要素を混合し、均質化された「グローバル文化」を生成することで、各文化の独自性や深みが失われる危険性がある。これは、グラムシが警告した文化的ヘゲモニーの新たな形態とも言える。
   さらに、AIによる言語処理の進歩は、言語そのものの性質や役割を変容させる可能性がある。リアルタイム翻訳技術の発展により、言語の壁が低くなる一方で、各言語が持つ独自の世界観や思考様式が失われる可能性もある。これは、サバルタン集団のアイデンティティや文化的表現にも大きな影響を与えるだろう。

3.2 情報の断片化と全体像の把握
   生成AIは膨大な情報を高速で処理し、全体的なパターンや傾向を抽出する。これは、シヴェルブシュが描写した鉄道旅行者の視覚体験と類似している。この「パノラマ的」情報処理は、サバルタン集団の声をより広く捉える可能性を持つ⁸。AIは、これまで見落とされてきた情報の断片を結びつけ、新たな全体像を提示することができる。例えば、ソーシャルメディアの大規模なテキストデータを分析することで、従来の主流メディアでは捉えきれなかったサバルタン集団の声や経験を可視化することが可能になる。
   しかし、この情報の断片化と全体像の把握のプロセスには、重要な課題も存在する。AIによる情報処理は、個々のデータの文脈や細部を捨象してしまう傾向がある。サバルタン集団の経験の複雑性や多様性が、AIの「パノラマ的」処理によって単純化される危険性がある。また、AIによる全体像の把握は、新たな形の権力構造を生み出す可能性もある。誰がAIシステムを設計し、どのようなデータを学習させるかによって、生成される「全体像」は大きく異なる。これは、知識生産の過程における新たな形のヘゲモニーの出現を示唆している。
   さらに、AIによる情報処理の高速化は、我々の思考や判断のプロセスにも影響を与える。即時的な情報提供と決断の要求は、熟考や批判的思考の機会を減少させる可能性がある。これは、グラムシが重視した批判的意識の形成や、サバルタン集団の自己解放のプロセスにも影響を与えるだろう。

3.3 言語空間のパノラマ的認知と多次元的表現

  クロスリンガル言語モデル(XLM)は、異なる言語間の知識を統合し、言語の壁を越えた情報の流通を促進する。これにより、サバルタン集団の多様な言語表現を捉え、支配的なヘゲモニーに対抗する新たな表現の可能性を提供する⁹。XLMの技術は、言語間の知識転移を可能にし、低リソース言語のパフォーマンスを向上させる。これは、マイノリティ言語や少数言語の話者にとって、自らの言語で情報にアクセスし、表現する機会を拡大する可能性がある。  
   しかし、この技術の発展は、言語の均質化や標準化をもたらす可能性もある。異なる言語の特徴や文化的ニュアンスが、機械翻訳のプロセスで失われる危険性がある。これは、言語の多様性や文化的アイデンティティの保持という観点から重要な課題となる。また、XLMのような技術は、言語の権力構造にも影響を与える。英語のような支配的言語と、少数言語との間の力関係が変化する可能性がある一方で、技術へのアクセスの格差が新たな言語的階層を生み出す可能性もある。
   さらに、AIによる言語処理の進歩は、人間の言語能力や言語学習のあり方にも影響を与える。リアルタイム翻訳技術の発展により、外国語学習の必要性が減少する可能性がある一方で、異文化理解や言語を通じた思考の深化といった側面が軽視される危険性もある。これらの変化は、グラムシが論じた文化的ヘゲモニーの問題に新たな次元を加える。言語を通じた思考や表現の可能性が、AIによってどのように拡張され、また制限されるのか。サバルタン集団の言語的実践は、このような技術環境の中でどのように変容し、また抵抗の可能性を見出すのか。これらの問いは、生成AI時代におけるサバルタン性の再定義において中心的な課題となるだろう。

3.4 情報の文脈化と意味づけ
   生成AIの「パノラマ的」情報処理には限界もある。AIは膨大なデータから全体的なパターンを抽出することはできるが、その情報を適切に文脈化し、意味づけを行うのは依然として人間の役割である。人間は、AIが提示した「パノラマ」を批判的に検討し、社会的・文化的文脈に位置づける能力を持つ。この能力は、生成AI時代においてますます重要になると考えられる。
   グラムシが強調したように、サバルタンの声を理解するためには、その声が発せられた歴史的・社会的文脈を十分に理解する必要がある。AIが生成する情報は、しばしば脱文脈化されている。例えば、AIが異なる時代や文化圏からの情報を混在させて出力することがある。これは、AIが学習データの統計的パターンに基づいて情報を生成するためである。しかし、人間の経験や知識は、特定の歴史的・文化的文脈に深く根ざしている。
   サバルタン研究の文脈では、この問題は特に重要である。サバルタンの声は、しばしば支配的な言説によって歪められたり、無視されたりしてきた。AIがこうした歴史的な不均衡を内在化し、再生産する危険性がある。したがって、AIが生成した情報を適切に文脈化し、批判的に解釈する人間の能力が不可欠となる。
   また、AIの出力を解釈する際には、その生成プロセスや使用されたデータセットについての理解も重要となる。AIのバイアスや限界を認識し、その出力を適切に評価するためには、AI技術についての一定の理解が必要となる。さらに、AIが生成した情報の意味づけにおいては、人間の創造性や批判的思考が重要な役割を果たす。AIが提示した新たな関連性や洞察を、既存の知識体系に統合したり、新たな理論の構築に活用したりするのは人間の役割である。
   このように、生成AI時代においては、情報の文脈化と意味づけにおける人間の役割がより重要になると考えられる。AIと人間の協働により、より豊かで多角的な知識生産が可能になる一方で、人間の批判的思考力や文脈理解能力の育成がますます重要になるだろう。

4. デジタル時代における「アウラ」の変容

4.1 生成AIと「アウラ」の再定義
   ベンヤミンの「アウラ」概念は、生成AI時代において新たな解釈を必要としている。生成AIは、ベンヤミンが論じた機械的複製とは本質的に異なる形で、芸術作品や情報の「アウラ」に影響を与える。AIが生成する作品は、毎回異なる結果を生み出すため、新たな形の「一回性」を持つ可能性がある。これは、デジタル環境における新たな「アウラ」の形成につながる。例えば、AIが生成する詩や絵画は、それぞれがユニークであり、再現不可能な「一回性」を持つ。この特性は、ベンヤミンが論じた伝統的な「アウラ」とは異なるが、デジタル時代における新たな形の「真正性」や「一回性」を示唆している。
   さらに、AIによる創作プロセスの不透明性や予測不可能性は、作品に対する新たな形の神秘性や畏怖の念を生み出す可能性がある。これは、ベンヤミンが論じた「アウラ」の本質的要素である「遠さの一回的現れ」という概念と共鳴する。AIが生成する作品は、その生成プロセスの複雑さゆえに、ある種の「遠さ」や「近づきがたさ」を持つ可能性がある。

4.2 デジタル環境における新たな「真正性」
   生成AIによって作られる作品や情報は、オリジナルと複製の境界を根本的に曖昧にする。これは、「真正性」の概念に根本的な再考を迫るものである。デジタル環境における新たな「真正性」は、物理的な一回性や希少性ではなく、アルゴリズムの独自性や生成プロセスの不可逆性に基づく可能性がある。例えば、特定のAIモデルや特定の入力パラメータによって生成された作品は、それ自体が「真正」なものとして認識される可能性がある。この新たな「真正性」の概念は、サバルタン集団の文化的表現に新たな価値を付与する可能性を持つ。例えば、伝統的な芸術形式を現代的に再解釈したAI生成作品は、サバルタン集団の文化遺産を新たな文脈で評価し、再活性化する機会を提供する可能性がある。

4.3 「アウラ」の民主化と新たな階層化
   生成AIの普及により、誰もが高品質な作品や情報を生成できるようになる。これは、「アウラ」の概念を民主化し、新たな形の価値創造につながる可能性がある。サバルタン集団にとって、この「アウラ」の民主化は、自らの声を表現し、広く認知される機会を提供する。従来のメディアや文化産業のゲートキーパーを迂回し、直接的に自らの経験や視点を世界に発信することが可能になる。
   しかし同時に、この民主化は新たな形の階層化をもたらす可能性もある。AIツールへのアクセスや、それを効果的に利用するスキルの差が、新たなデジタル・サバルタンを生み出す可能性がある。また、AIが生成する作品の「質」や「価値」を判断する新たな基準が形成され、それが新たな形の文化的ヘゲモニーを生み出す可能性も考慮する必要がある。

4.4 「アウラ」と情報の文脈化
   生成AIによる「パノラマ的」情報処理は、膨大な情報を瞬時に処理し、新たな関連性や洞察を提示する。しかし、この過程で個々の情報の文脈や細部が失われる可能性がある。ここで重要になるのが、人間による情報の文脈化と意味づけの能力である。AIが生成した情報や作品の「アウラ」を真に理解し、評価するためには、その生成プロセスや使用されたデータセット、さらにはそれが生み出された社会的・文化的背景を理解する必要がある。この文脈化の過程こそが、デジタル時代における新たな形の「アウラ的経験」を構成する可能性がある。
   以上のように、生成AI時代における「アウラ」の概念は、単なる喪失や衰退ではなく、複雑な変容と再定義のプロセスを経ていると言える。この変容は、芸術の本質、創造性の概念、文化的価値の形成など、広範な領域に影響を及ぼす。今後の課題は、この新たな「アウラ」の形態を理解し、それを批判的に評価し、活用していく方法を探求することにある。

5. 生成AI時代におけるサバルタン性の再定義

5.1 言語的・文化的ヘゲモニーの再編成
   生成AIは、従来の言語的・文化的ヘゲモニーを再編成する可能性を持つ。多言語モデルの発展により、英語以外の言語での高品質なコンテンツ生成が可能になり、言語間の力関係が変化する可能性がある。これは、グラムシが論じたヘゲモニーの概念に新たな視点をもたらす。言語や文化の支配が、物理的な力や経済力ではなく、AIモデルの設計や学習データの選択によって決定される可能性がある。
   例えば、クロスリンガル言語モデル(XLM)は、異なる言語間の知識を統合し、言語の壁を越えた情報の流通を促進する。これにより、サバルタン集団の多様な言語表現を捉え、支配的なヘゲモニーに対抗する新たな表現の可能性を提供する。XLMは、Transformerベースのアーキテクチャであり、複数の言語で事前学習され、自然言語処理タスクを多言語で効果的に実行することができる。
   しかし、この技術の発展は、言語の均質化や標準化をもたらす可能性もある。異なる言語の特徴や文化的ニュアンスが、機械翻訳のプロセスで失われる危険性がある。これは、言語の多様性や文化的アイデンティティの保持という観点から重要な課題となる。また、AIによる言語処理の進歩は、人間の言語能力や言語学習のあり方にも影響を与える。リアルタイム翻訳技術の発展により、外国語学習の必要性が減少する可能性がある一方で、異文化理解や言語を通じた思考の深化といった側面が軽視される危険性もある。

5.2 デジタル・サバルタンの出現
   生成AI時代には、新たな形のサバルタン性が出現する可能性がある。デジタル・サバルタンとは、AIツールへのアクセスや利用能力の欠如により、デジタル空間での発言力や影響力を持たない集団を指す。この新たなサバルタン性は、従来の社会経済的な階層とは必ずしも一致しない。例えば、経済的には恵まれていても、デジタルリテラシーの欠如によりデジタル・サバルタンとなる可能性がある。
   デジタル技術へのアクセスや利用能力の格差は、新たな形の社会的不平等を生み出す可能性がある。グラムシの理論を現代に適用するならば、デジタル・サバルタンの声を拾い上げ、彼らの経験や知識をデジタル空間に反映させていくことが重要となる。これは、AIシステムの設計や運用において、多様な視点を取り入れることを意味する。例えば、AIの開発プロセスにおいて、サバルタン集団の視点や経験を反映させるための参加型アプローチを採用することが考えられる。
    また、デジタル・サバルタンの出現は、情報のアクセスや利用に関する新たな権利の問題を提起する。デジタル技術が社会のあらゆる側面に浸透する中で、情報へのアクセスや利用の権利が新たな形の市民権として認識される必要がある。これは、デジタルリテラシーの普及や、デジタル技術への公平なアクセスを確保するための政策的取り組みを含む。

5.3 声を持つ機会の拡大と新たな抑圧
   
生成AIは、サバルタン集団に新たな発言の機会を提供する一方で、AIが生成するコンテンツが特定の文化的バイアスを持つ場合、それがサバルタン集団の声を歪めたり、抑圧したりする可能性もある。AIの学習データに内在するバイアスは、既存の社会的不平等を再生産し、強化する危険性がある。例えば、AIが生成するコンテンツが特定の文化やジェンダーに偏った視点を反映する場合、それがサバルタン集団の声を抑圧する形で現れる可能性がある。
   また、AIによる情報のフィルタリングや推薦システムが、特定の視点や経験を優先的に表示することで、新たな形の「見えない検閲」を生み出す可能性もある。これは、サバルタン集団の声がデジタル空間で適切に表現されることを妨げる要因となる。さらに、AIが生成するコンテンツの質や価値を判断する新たな基準が形成され、それが新たな形の文化的ヘゲモニーを生み出す可能性も考慮する必要がある。例えば、AIが生成するコンテンツの評価基準が、特定の文化的価値観や美的基準に基づいている場合、それがサバルタン集団の文化的表現を抑圧する形で現れる可能性がある。
   これらの問題に対処するためには、AIの開発プロセスにおいて、多様な視点や経験を反映させるための参加型アプローチを採用することが重要である。また、AIのアルゴリズムやデータセットの透明性を確保し、その影響を評価するためのメカニズムを整備することが求められる。さらに、サバルタン集団の声を拾い上げるためには、デジタルリテラシーの普及や、デジタル技術への公平なアクセスを確保するための政策的取り組みが必要である。これにより、サバルタン集団がデジタル空間で自らの声を発信し、社会的・政治的な変革を実現するための基盤を築くことができる。

5.4 新たな抵抗の形態と戦略
   
生成AI時代におけるサバルタン集団の抵抗は、従来とは異なる形態と戦略を必要とする。デジタル空間での抵抗は、物理的な空間での抵抗とは異なる特性を持つ。例えば、AIを利用したミームの創造や、ハッシュタグ運動などのデジタル・アクティビズムが新たな抵抗の形として注目されている。また、AIの学習データやアルゴリズムへの介入を通じた抵抗も考えられる。例えば、サバルタン集団の経験や視点を積極的にAIの学習データに組み込むことで、AIの出力に影響を与える試みがなされている。
   さらに、AIを利用した対抗的な知識生産も重要な戦略となる。サバルタン集団が自らの経験や知識をAIシステムに入力し、新たな知識や表現を生成することで、支配的な言説に挑戦する可能性がある。

5.5 サバルタン性の流動化と再構築
   
生成AI時代においては、サバルタン性自体が流動化し、再構築される可能性がある。デジタル空間での力関係は、物理的な空間での力関係とは必ずしも一致せず、より複雑で多層的なものとなる。例えば、特定のデジタルスキルを持つ個人や集団が、従来のサバルタンの立場から脱却し、新たな影響力を持つ可能性がある。一方で、デジタル技術へのアクセスや利用能力の欠如により、新たなサバルタン性が生まれる可能性もある。また、AIによる自動翻訳や文化的仲介の進展により、言語や文化の境界が曖昧になり、サバルタン性の定義自体が変化する可能性がある。これは、グラムシのヘゲモニー概念の再考を促すものである。

5.6 倫理的・政治的課題

生成AI時代におけるサバルタン性の再定義は、新たな倫理的・政治的課題を提起する。例えば、AIシステムの設計や運用における公平性や透明性の確保、デジタル権利の保障、AI技術の民主的なガバナンスなどが重要な課題となる。特に、AIの決定プロセスにおけるサバルタン集団の参加をいかに保障するか、AIがもたらす利益と不利益をいかに公平に分配するかといった問題は、今後の重要な政治的課題となるだろう。また、AIによる監視や管理の強化が、サバルタン集団に対する新たな形の抑圧をもたらす可能性にも注意を払う必要がある。

結論

   生成AI時代におけるサバルタン性の再定義は、グラムシのヘゲモニー概念やベンヤミンのアウラ概念、シヴェルブシュのパノラマ的知覚の概念を現代的に再解釈し、発展させる機会を提供する。同時に、この再定義は、新たな形の抑圧や不平等の出現にも注意を払いながら、より包摂的で公正なデジタル社会の構築に向けた重要な課題を提起している。今後の研究課題としては、生成AIがサバルタン集団の主体性や抵抗の可能性にもたらす影響の実証的分析、AIシステムの設計や運用におけるサバルタン集団の参加を促進するための方法論の開発、デジタル時代におけるヘゲモニーの形成と抵抗のダイナミクスの理論的探求などが挙げられる。

参考文献

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