新作ミュージカル「Irreplaceable」NYCリーディング公演(前編)
去る2024年9月9日、ニューヨーク・チェイン劇場にて開催された「スパークシアターフェスティバルNYC Fall2024」(主催:Emerging Artists Theatre)の初日に、私たちの新作ミュージカル「Irreplaceable, A New Musical」をリーディング形式で上演いたしました。
私個人にとっては研修成果にも当たるものですので、我々がニューヨークでどうやって新作ミュージカルを立ち上げて、まずはリーディング公演まで漕ぎ着けたのかについて、少し細かく書いてみたいと思います。
そもそもの始まりは
今回の公演の前説でも日本語と英語で交互に少しお客様に説明したのですが、そもそもは私がまだ日本にいる2023年の夏頃、女優の内田靖子ちゃんが別件で劇作家・演出家の須貝英さんを紹介してくれたのが始まりでした。
その席で、なにかの流れから「ミュージカルを書くことに興味ありますか?」というような話になり、意気投合しコラボレーションが始まりました。
そしてその場に最初から一緒にいたやっちゃんは、もともと私とは一緒に自主公演をやったり、ミュージカルライターズジャパンというNPOの運営も手伝ってくれていたり、他の団体でもたくさんの企画、運営、ライティング的なことに手腕を振るっている人なので、ごく自然に3人のチームとなりました。
また、この時に私が英さんに確認したこととしては、
・私は今回、「アメリカンミュージカルの伝統的な書き方」を学びながら創作を進めたいのだけど、一緒に学んでくれる気持ちはあるか。
・ミュージカルのブックライターはストレートプレイの劇作家と比べて、はるかに再構成やリライトなどの協調を迫られる回数が多く、普段の筆致そのままという訳に行かないかもしれないが、問題ないか。
・普段の日本での創作と違い、時間をかけてゆっくりゼロから話し合いながら徐々に進めていきたいが、それで大丈夫か。
というような話をしたことを覚えています。
そして私はNYCへ
そしてその後も日本で3回くらい打ち合わせを進めたのち、私はこちらNYCへやって参りました。
そこで私は、新たなコラボレーター岡田あゆみさんを仲間に誘います。
あゆみさんはNYCで活動するシアターとコンサートミュージックの作曲家で、BMIワークショップという権威あるミュージカルライティングワークショップのメンバーです。BMIでは2年間みっちりミュージカルライティングの基礎を学ぶことができ、多くの名だたる作家がここの出身者なのです。
私は彼女のナリッジがこのプロジェクトには必要不可欠だと思い、そこまで3人で練ってきたプロットを見せてコラボレーターになってもらいました。
定期ミーティング、ライティングの日々
そこからはだいたい月に1回くらいのペースでミーティングを繰り返しながら、全体プロットやシーンごとのスクリプト、歌詞や楽曲を日本語で書いていきました。
またこちらでは、私たちのようにディベロップメントを続けている作品を応募できるコンペティションが大小さまざまにあるので、そういったもののリサーチも同時に続けており、そんななかから次第に、今回公演を行った「スパークシアターフェスティバルNYC Fall2024」への応募に照準を合わせていきました。
アダムがチームに加わる!
そしてその後我々は、これを英語にしてくれるネイティブスピーカーのライターを仲間にしなくては、と動き始めます。
私たちが考えたのは、ただ訳す人ということではなく、ミュージカル脚本の知識もあり、歌詞を書くこともできる人、それも相当の才能と経験があって、さらにはこのプロジェクトを楽しんでくれるような人でなくてはという事でした。うーん、なかなか難題…。
もちろんニューヨークには、たくさんのミュージカルライターやライター志望者がいる訳ですが、こちらももちろん誰でもいいわけでもないし、ですが才能ある人は当然すでにご自身の抱えているプロジェクトで忙しい。
そんななか、あゆみさんのBMIの仲間のアダム・マサイアスさんが候補にあがりました。アダムは、現在BMIのモデレーターを務めているライターで教育家やドラマターグとしての経験ももちろんながら、ドラマデスクアワードの受賞経験をはじめとして作家としての経験も豊富で評価も高い人です。もしやってもらえたらこれは百人力に違いないと思いましたが、うーん果たして興味を持ってもらえるだろうか、と不安が募りました。
なので時間の許す限り、まずは私たち4人でプロットを練り込み、いくつかのシーンやデモ曲をブラッシュアップして、我々がこのプロジェクトでどんな展開をイメージしているか、何を大事にしているか、企画書のようなものも用意してアダムにアプローチしました。
その結果、幸運にもアダムは脚本にも音楽にも好反応を示してくれて、一度ミーティングをしようということになり、その際にいくつかのクリエイティブ上の根本的な確認を行ったのち、コラボレーターになってもらうことに成功したのでした!
アダムとの創作過程
アダムは教育家としてのキャリアも長いので、指摘してくれることがいちいち興味深くて、発見の連続で、チームに新たな燃料をくべてくれるかのような感じでした。
「プロットは後からでも変更したり書き直したりいくらでもできるから、心配ないよ。それよりもストーリーはなんだ?キャラクターの変化はどこだ?ステークスはじゅうぶんか?」
と、基本の大事なところを改めてクリアにしてくれて、皆で認識や問題点を共有する作業をギリギリまで(きっとまたこれからもずっと)時間をしっかり使って行っていきました。
また曲に関しては、今回は私がまず日本語で作詞→作曲して、それを元にあゆみさんが翻訳チャートを作成してくれて、アダムはそれを使って英詞を創るという流れで進めていきました。
この作業については、それだけでまたゆっくり書かないといけないくらい重要な話だと個人的には思っていますが、とにかく誰もやったことのないことをしているので方法自体が試行錯誤。そして創作は今もまだ継続中なので、これからもしばらく試行錯誤は続きます。ですので、もう少しいろいろ検証を行ったのちに改めてまとめたいと思っています。
ただひとつ言えることは、アダムが英詞にしてくれて戻ってくると、歌詞の中身はあまり変わっていないはずなのになんか毎回ミラクルなことになっていて、数倍もエキサイティングな曲になっていて、毎回ワクワクします。これはなんとも新鮮な体験でした。
フェスティバルへの参加が決定
そんななか、無事にフェスティバルへの参加が正式に認められます。
この「スパークシアターフェスティバルNYC」というフェスティバルは、ミュージカルだけでなく様々なスタイルの舞台作品に対して、ディベロップメント中から最終プレゼンなど色々なフェイズでのパフォーマンスに門戸を開いている歴史あるものです。
参加希望団体は諸々の資料を送り、審査のうえ参加団体として選ばれれば、約一ヶ月に渡るフェスティバルのうちのどこかの日時にパフォーマンスができるというシステムです。
我々は今回このフェスティバルにて、3曲の歌を含む30分のリーディングパフォーマンスを行うことにしました。
「リーディング」というのは、役者が動き回らず、台本や譜面を見ながら、照明やセットなども基本的にはなく、ト書きを読んで説明しながらストーリーを進めていく、というスタイルのパフォーマンスです。
こちらでは新作ミュージカルはだいたいすべてリーディングから始まり、とつぜんフルプロダクションで公演ということはまあほとんどありませんので、役者も観客もこのスタイルに慣れてくれています。
しかし実際書いていくと、30分というのがとにかく短くてカットに次ぐカットで大変でした。(私の曲が当初の予定よりも、少しずつ少しずつ長くなっていったのも影響してます。すみません。)
ナレーションというのは観客にとってあまり楽しいものではないので、極力減らす方向で、でもいろいろと伝えたいプロットはあるし、という感じでしたが英さんとアダムが中心となってうまくまとめてくれました。やっちゃんはハイパー人間なのでテキレジ案とか即座に出してくれてすごいし、あゆみさんはすぐさまこれを翻訳してアダムに渡してくれる。この件については、私は尺を延ばすだけでまったく役立たずの人でありました…。
会場Meet&Greet
8月上旬に入り、フェスティバル参加団体に対しての会場下見&顔合わせ、Meet&Greetが開催されました。
会場となるチェイン劇場は、客席数99席の「オフオフブロードウェイ」という分類に入る劇場で、マンハッタンのかなり真ん中、タイムズスクエアのちょっと下あたりに位置しています。
裏動線や楽屋周りを確認したり、照明音響でできることできないことなど、諸々の説明を受けました。この辺りの話は日本とそこまで変わらなかったので、私はちょっと安心して聞いておりました。
それにしても、あまりにシアタ−711に似てません?(笑)
私はおもしろくなってしまって、このあと日本の知り合いの演劇関係者に写真を送りまくりました。
キャスティング
この辺りから、あゆみさんはプロデューサー業でも忙しくなっていきます。
キャスティングに関しても、あゆみさんが主導して進めてくれました。まずキャスティングの方向性についてみんなで話し合ったのち、イメージに合いそうな俳優(何人かは私も共通で知っていたり観たことのある人)を挙げていき、資料を見ながらみんなで決めて実際にアプローチしていきました。
こちらでは、先ほど書いたように「リーディング」というプレゼンテーション方法が広く知られていることもあって、光栄なことにアプローチしたどの人もとても好意的に反応してくれました。こういうひとつひとつが我々にとってはとても嬉しいことです。
また、こちらでは多くの俳優はAEAというエクイティ(ユニオン)に加入しており、今回のような有料公演を行う際にはエクイティに対して、「ちゃんと規定通りに進めていますよ」とか、「労働環境も良い状態に保っていますよ」とか、そういった諸々の報告書を提出していかなくてはなりません。
今回はあゆみさんがプロデューサーとしてすべて担ってくれましたが、これらは俳優にとってはしっかりと権利が守られる良いシステムであると同時に、お願いするこちら側にとっては(特に今回のようにどこかの団体や劇場が間に入っている訳ではなく、自分達で進める場合は)なかなか手間が掛かるものなのだと知りました。
9月、メンバー次々とNYC入り
そして9月、リライトやテキレジや微調整の作業が延々と続く最中、いよいよ日本から英さんとやっちゃんがやってきました。(トランジット地から台本が送られてきたり、機内とメールのやり取りをしたり、ひと通りバタバタしました)
そしてこのあと、いよいよ歌稽古→全体稽古→本番となっていきます。
それはまた後編に!