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余計な一言【短編小説】

頭の右上がじんわりと震えていた。
カフェの隅っこの椅子に座りながら。足を組み、ただジッと視線の先の宙を眺めていた。
少し空気が生温かい。
心地悪い温かさ。
満員電車で得体の知らない誰かの体温を感じ続けなければならないあの状態に似ている。

この土地を離れることは既定路線で、その猶予期間の今はただ、もどかしさばかり感じる。
気が緩んで余計なことを口にして、少しだけ悔やんだ。
けど、そんなことすらどうでもいいことになることも知っている。
土地を離れるとはそういうことだ。

もっと、楽しいことを考えよう。

ただ、上空にヘリコプターが旋回し、横で道路工事が行われ、廃品回収の車がアナウンスを流した状態で放置され、バイクが何台も左右から飛び跳ね、15匹の犬が遠吠えする横で6ℓの水を持たされ踏切が開くのを待っているような状態で「楽しいこと」を、考えるのはなかなか修行がいる。
そんな気分でもある。
愚痴の1つや2つ出てもいいだろ。

そうだな、出てもいいだろ。
と、自分の余計な一言を許すことにした。

「……」

次は黙っていよう。
この土地を離れたあとの為に。

その為の余計な一言だったんだ。





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