サヨナラ【短編小説】
「サヨナラ」
と、彼女は言った。
時間は午後の4時を過ぎた頃。
少し雲が多めの空に、比較的涼しい風が吹いていた。
白いワンピースに、花柄の模様がついていた。
どこか古めかしい感じもしたが、その服はとても似合っていた。
そのことはちゃんと伝えた。
「似合ってるよ」
と言うと、
「ありがとう」
と、笑ってくれた。
とても素敵な笑顔だった。
僕は「サヨナラ」の意味がわからないまま途方に暮れた。
その足で静岡へ行き、山に入った。
山の中で何も食べず、ただひたすら痩せこけてく自分に、このまま死んでしまうかもしれないと思った。
「サヨナラ」とはこのことだったのだろうか?
そんなとき、鹿が現れ、木ノ実を僕の周りに置き始めた。
僕は木の実に手を伸ばし、食べた。
そんな日が1ヶ月続いた。
お気に入りの大木が出来てそこで日光を浴び、風を感じ目を瞑る。
ふと、身体が浮いているのに気づいた。
浮遊。
心地よい。
そういえばと10/20のことを思い出す。
とても不愉快な気持ちにさせられた。
あと、10ヶ月我慢しようと思っていたのだけれど、明日にもどこかへ行こうと思った。けれど、踏みとどまって、休みもいっぱいとって3月ぐらいを目安に適当にお茶を濁して、去ろうと考え直した10/20。
「サヨナラ」
と、僕も思っていた。
あの日。
もう無理だな。
よく頑張ったな。
酷い扱いだったな。
屈辱だったな。
浮遊しながら鹿と森を歩く。
こんな未来が待っていたのか。
わからないもんだな。
森を出て、町に戻ると彼女が僕を見つけた。
「お帰り」
「ただいま」
色々「サヨナラ」な物事が過ぎ去り、僕は帰ってきた。
町では浮遊できなかったが、心はウキウキだった。
それでよい。
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