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大河内健志短編集

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#ケータイ小説

心は、あの頃のままなのに(小説『天国へ届け、この歌を』より)

香田美月が、このマンションに来たという痕跡を全て消し去った。 土曜日に、単身赴任をしてい…

7

嵐のあとに(小説『天国へ届け、この歌を』より)

心地よい寝息が聞こえる。 このまま余韻に浸りたい。 眠っている美月に降り注ぐ月の光を眺め…

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武蔵の微笑み(時代小説『宮本武蔵はこう戦った』より)

武蔵は思い悩んでいたのだった。 小次郎に勝てるという自信がなかった。 今まで数々の試合を…

7

たそがれ(『天国へ届け、この歌を』より)

帰りの地下鉄は、混み合う。 特に淀屋橋から梅田方面に行こうとすると、京阪の乗り換え等で降…

2

あの人の思い出と現実 (『夕暮れ前のメヌエット』より)

ポケットの中に手を入れて携帯電話を取り出そうとした時、田中の家族は小津さんであることを改…

8

『饗宴』

突然、光を浴びせられた。 目の前に、顔を半分覆い隠す黒光りするマスクに、黒いゴーグル。 …

9

あのメロンパンをもう一度

焼きたてのクッキーの香りが、部屋中に漂う。 香ばしくて、鼻の奧が生クリームで満ち溢れるような甘い香り。 手作り感あふれる細かい格子もよう。 その模様の一つ一つが結晶みたいに盛り上がっている。 表面に振りかけられている砂糖の粒は、ガラスの粉をまき散らしたように細かい光をまき散らす。 においと美しさに負けた。 思わず一口。 クッキーの香りが鼻一杯に拡がる。 メロンパンが自分から私の口に入って行くような感じ。 クッキー生地のサクッとする歯触りの中から、バターの風味

異形のサムライ(小説『宮本武蔵はこう戦った』より)

父、無二斎より、小倉藩の権力争いのごたごたを収める意味も含めて、「佐々木小次郎」なる剣術…

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身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ(『宮本武蔵はこう戦った』より)

「こだわりを捨てよ」 武蔵は、 自分に言い聞かせた。 大地と一体化するのだ。 自然の声を…

5

どうか助けてください! (小説『夕暮れ前のメヌエット』より)

クラブハウスのある方へ顎で示した。 若社長は、悪戯を親に叱られた子供のように急いで、逃げ…

5

「もう大人に騙されるな!」

若者に告ぐ! 「もう大人に騙されるな!」 私は、この世に再び現れて驚いた。わが目を疑った…

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小説『スカイフック』第13話 虚しい展覧会

昼前には、遺体も処分し、蚤の市のように校庭に並べられた機体の破片や戦利品も、粗方トラック…

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