少子化論の矛盾の渦 最終章 ~少子化の原因とは結局はなんなのか?~
従来の少子化論に関して、前章まで様々な面を見て疑義を提示してきたが、少子化の原因はなんなのか?色々な理由があることは違いないが、確実にこれだという個別具体的なものはないかもしれない。
だが、個別事情を一つ一つ見たうえで判断するに、端的に言えそうなものはある。それは
「人間の欲望」
ではないだろうか。
人間の欲望というのは際限がない。色々なものを欲するものだし、一度手に入れたものというのはなかなか手放したくないというのが常である。
やりたいこと、欲しいものは手に入れられるようにしておきたいし、やりたくないことやつらいこと、我慢することといったものはできれば避けたいものである。
欲望をかなえるために、個人としても集団としてもよりよく幸福になろうと頑張り、不幸を避けようとする。ごく自然な感情があったからこそ、人類は発展してきたといっていい。
幸福追求のための行為や欲求によって物事を最適化するはずが、ある事象では逆に悪くなることもある。少子化関連にはそれが見えてくる。
1 子供を育てるというコスト
近年の少子化論で、お金がかかることを指摘していることは多い。大学に進学する子供は昔より多くなっているのはご存知の通りだろう。
大学進学までの費用などを考えたうえで、お金の面こそが少子化対策として取るべき政策であるという話があるのはすでに書いた(疑問点も既に示した。)。原因の一つかもしれないが、お金はせいぜい問題の一面でしかない。一つ見落としがちな子育てを困難にしている原因に「時間」という点はないだろうか?
誰かに時間を取られるということは、自分の時間が減ってしまうことにほぼ直結する。子育てもその一つになりうるものであり、これから紹介するがその負担はかなり大きいものだといえる。
(1)キャリア形成と子育てへの不安
キャリアを積みたい女性にとっては、特に子供をいっぱい産むというのはかなり難しい。
妊娠出産を多く繰り返せば、育児の多くの他の人で代替してもらったとしても、時間を取られる分だけ仕事のキャリアやスキルに遅れが出ることは言うまでもない。
キャリアやスキルを優先することを考えただけでも、子供を産みたいと思っても抑制的にならざるをえない。下記の話を見ただけでもよくわかる。
【女性のキャリア】女性管理職の6~7割が子どもを持たない〜「キャリア」と「出産・育児」の両立の難しさ〜
https://www.onecareer.jp/articles/466 より
https://courrier.jp/news/archives/98925/ (魚拓) より
国内外の事例を少し見ただけでも、子供に時間を割くということに大きな懸念を抱いていることがわかる。子育てというのは経験している人たちはもちろんわかっているだろうが、子供の世話というのは手間がかかるし、特に小さい時というのは子供から目を離すのは難しい。
(2)時間はいくら残せるのか?
子育てに関する時間の懸念として、以下の現実も興味深い。
子育て時間は週平均で37時間、女性に限れば53時間
http://www.garbagenews.net/archives/2066913.html より(魚拓)
平均的に見ても36時間以上も週に子育てに費やすわけではあり、特に女性については53時間も子育てに時間を当てるというわけではある。
1週間は168時間である。 睡眠時間を平均6時間として計算し、先の53時間を加えると残った時間はもう1週間の半分もない。 仕事そのものを40時間と計算すると、ほとんどあまった時間は残っていない。
上記の計算は子育ての平均的な数字などを単純に当てはめただけだから、すべての人に当てはまることではなく、より仕事の時間が多い事情や、子育て時間が平均よりも少ない人もいるだろう。子育てにとられる時間、特に妊娠、出産してから子供が小さい時というのは特に子供に対して時間を割く必要性が出てくる。
子供が2人3人と増えていけばもちろん子供に使う時間が増える。子供が増えれば増えるほど、別のことをすること自体が難しくなっていく。キャリアのことを考えたりすると、子供を増やしていけるのだろうか?という不安は当然ついてくるのは先に挙げた調査の通りだ。
(3) 勉強もキャリアetc 時間をいろいろなものに割いていく。
時間という価値を今一度思い起こすと、私たちは色々なことに時間を費やしてきたことがわかると思う。
中学、高校、大学と勉強だけでも何時間も毎日それに費やしてきただろう。難関大学や難関の学部ともなれば、勉強時間というのはより多くなる。仕事をするのだって必要なスキルを身に着けるために、時間を費やすものだ。通勤時間中や自宅に帰ってからも色々なことを学んだりするだろう。顧客のために、時間を使って接待をするようなこともある。
他にも人と出会ったり遊びをしたりと色々な時間を人は費やしている。時間がいくらあっても足りないという人もいるかもしれない。
では、今まで使ってきた時間がもし何らかの形で使えなくなってしまったらどうだろう?
ひとつ参考となるものを出したい。 高校から難関大学に合格した現役性の平均的な勉強時間である。
難関大現役合格者 学校以外での勉強時間平均6時間2分!!
http://www.toshin.com/news/topic/1305_1.php より(魚拓)
現役合格者の平均時間だけを見ても1日6時間平均(もちろん休日も含めているため、日によって勉強する時間のばらつきはあるといっていい。)
高校1年から3年までの勉強時間も4000時間以上とかなりの勉強量をしてきたといっていいだろう。もちろん中学やあるいは小学校レベルでもかなりの勉強量をやってきた人もいるだろう。上に行くためにはこれほどの時間をかけているのだ。これが何らかの原因で時間を使えないとなったらどうなるでしょう?
勉強以外のことだって同じことである。他のことに時間を費やさなくてはならないという障害があったとき、頑張って得たいものを得る自信や、自分や他人のための時間を作るスキルは皆様持っているのだろうか?
(4)子供の存在が収入に影響する?
上記の論を証明するかの如く、子供を持っている人とそうでない人の収入データを示したもある。
(18. 男女間の賃金格差 19分 "出産・育児による不利益"など、世界各国に存在する男女間の賃金格差を生み出す文化規範をヒラリー・クリントンとアン=マリー・スローターが語る。世界の"今"をダイジェスト | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト が出典とのこと。)
当然と言えば当然の結論なのかもしれないが、家族の誰かが子育てをしなければならないとなった時に、産む人・育てる人が負担をする。
日本であると、妻が専業主婦、パートになったりすることによって以前よりも収入が落ちるようなことになるケースがわかりやすいだろう。その分子育てに時間を割くわけである。
子育て支援や仕事復帰の支援、時間に対する労働の付加価値を上げるといったことを現実的に行ってきたのであろう。その結果がうまくいっているものではない。と、この統計は示してもいるのである。
限りある時間の中で、多くの時間を割いてまで子供を多く育てる、仕事もしっかりする、プライベートも充実させる。すべてをこなすことができる人間は世の中にいくらいるだろうか?
2 男性パートナーに対する欲求
(1)自分が動けないときなどの保障となるかどうか
少子化論の中では、男性パートナーに対して、女性側の欲求が上方婚を志向していることも、結婚についてよりハードルを上げているという指摘がある。
https://heikinnenshu.jp/tokushu/kekkon.html より
https://cancam.jp/archives/442587 より
統計を見て、あまりに現実的ではないというような話は尽きないわけではある(理想年収を給与所得で得ている人は特に若い年代ではわずかだから)。統計結果に関して夢見がちだとか、現実的に将来に必要な計算したうえで考えたというだけでもない。
女性にとってパートナーの選考が上方婚になりがちなのは、自分の子供を十分に育てる力があること、特に働いていないときにはこれほど大きな保険となる面が大きいだろう。
下手に収益のないパートナーと一緒になった時、貧乏になれば今後の生活が悪くなってしまったときには、色々な我慢をしなくてはならない。妻自身が仕事をできない、もしくはしたくないとき、生活水準の質を落とすこともある。
なるべきよりよい環境で生活していくことを考えると、保障はできれば安定していて、幅が大きい方がいいのである。
(2019年12月29日追記)
これに対して、収入が多い女性をもっと増やせば、婚姻率が上がるに違いないという反論があるだろう。だが、現実の数値は以下のとおりである。
(出所 就業構造基本調査より2107年と2012年の年収別生涯未婚率の比較より グラフは荒川久作氏作成 より)
一目瞭然ではあるが、男性は収入が低い人ほど未婚率が高く、逆に女性は収入が高いほど未婚率が高い。収入を増やせば結婚しやすくなるというのであれば、この数字にはならないのは一目瞭然である。
女性がかつての男性のように甲斐性を持って働くという傾向があれば、おそらくはこうなってはいないだろう。子供を旦那に任せて女性が働けばいいわけではあるが、専業主婦と比べると割合は少ないといえるだろう。
(ちなみに平成26年度では妻が専業主婦の世帯が約687万にたいして、男性の専業主夫は約11万人である。)
どうしようもない非対称性があるのだが、リベラル側からの是正の声はほとんど無に等しい。
(令和3年5月29日追記)
また、既婚者の年収別のパートナーの年収がいくらかという調査もあるのだが、データにおいては下記のように明らかに男女でパートナーの年収に傾向があることが読み取れる。(総務省 就業構造基本調査 2017年 より)
ここでもやはり、女性の年収が高くなればなるほど、パートナー男性の年収が同等以上である割合が高い状況になっており、上昇婚思考の補強になってる。年収が上がれば男性も上昇婚から解放されるというような反論はあるが、各種データを見るにそんな状況にはないと言えるだろう。
(2)地位の位置保全的な側面
収入面というのは、階層の維持としても機能している。
有名な話ではあるが、東京大学でも親の収入が多い人が入学しているという割合が多いというのは知られた事実であろう。
東大生の親の6割以上は年収950万円以上https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/09/6950.php より
理由は簡単で、いい教育を受けるには、それだけ大きなお金を投資しているということである。少しでも上の大学を目指すためには、質のいい教育と環境が必要であり、更に多くの時間を使って勉強をさせることによって、高い地位を言うものを獲得しているのである。
特に上位にいる女性としては、自分自身が今の状態があることや、それを維持するためには必要なものだと知識的にも肌感覚としても知っているはずだ。自分の子供についても自分たちと同じようになってほしいと考えるのであれば、必然的に収入が多い人の方が維持しやすいということがいえよう。
他者との付き合いの面でも、金銭がかかるといってもいいだろう。服やバックなども相手に合わせていかないといけない。子供の教育だってどこのだれがどんなことをしていたかとか、習い事に関しても他者に対する体面や見栄といったものに含まれる。
もちろん、これらの準備や維持にだって時間は必要である。
富裕層がそこまでお金に困るようなことがあるのだろうか? と疑問に思う方もいるかもしれないが、その疑問に返答の一つとして、高所得者層でもカードローンを利用している割合についてのデータがある。
高収入・高所得者でもカードローンを利用する人が3割もいる理由
https://money-lifehack.com/cardloan/10245 より
生活費に関しては、基本的に年収が少ない世帯の方が高い傾向があるが、高所得者層がキャッシングを利用する理由として、交際費や娯楽の割合が低所得者と比べると高い傾向にある。生活費と答える世帯もあるが年収400万円未満の世帯と比べると格段に低い傾向にあるのだ。
年収別のカードローンの利用者割合というのも興味深い。
(ジャパンネット銀行が2013年に実施をしたカードローンの利用調査に関するアンケート結果 より )
https://www.card-loan-tuu.com/erabikata-nennsyuubetu.html より
年収が普通あたりの方がキャッシングを利用する割合は高いわけではあるが(あまりに少ないとかえって減る)、年収が高めの傾向の人も一定数存在する。(世帯年収別だと、カードローン利用者数は年収が一定以上だとそこまで変わらない。)
絶対的に収入が高い人というのはそこまで多くはないのだが(年収1000万円以上レベルの人は全体でも1割はいない)、グラフでは年収1000万円以上お人の利用割合がおおよそ6%もある。(700万円以上の方でも結構な割合がいる。)年収が高くてもそれなりに借金をしている人の割合は高いのでは?という示唆でもある。
高所得者においても、付き合いなどで人間関係を維持するのもそれだけ大変だということだ。地位の保全のためには、少しでもお金が多い方がいいという側面は必要な事なのだろう。
(3)男性性の解放もなおざりになっていたのではないか?
男性としても、自分の生活に色々な我慢を多く強いることを耐えきれるものばかりかといえば疑問も多く、男性自身がジェンダーロールに縛られているような側面からも結婚を敬遠しがちになってしまう面もあろう。
男女平等が進行しているとはいえ、先の求める年収の件も男性は稼いでこそという価値概念が色濃く残っているといっていい。家庭的な面にコミットする男性というのがもてはやされているといっても、統計的にそこまで求められているとは言い難い。
http://www.garbagenews.net/archives/2099258.html より
海外でも似たような事象を求めているケースも存在しており、この傾向は教育や思想で簡単に取り除けるほどではない。
離婚の一番の原因は「浮気」でも「性格の不一致」でもなかった…ハーバード大学の研究結果
http://labaq.com/archives/51872681.html より
Harvard Study: Biggest Factor in Divorce is Husband's Employment Status (元ソース)https://www.reddit.com/r/science/comments/4v2av9/harvard_study_biggest_factor_in_divorce_is/
本当なら男女平等の理念に背理しているといわれても仕方のない事実ではあるが、そういった面はあまり顧みられてはいなかった。特に日本では、男性のみの空間や特権を取り除きながらも、時代に逆行するかの如く、女性専用車両や女性専用サービス等のような事例が出現する。性という面がより強化される動きすらある。
平等と性役割のはざまで嫌気が指してしまった男性たちが、結婚そのものを避けるような話まで出てきている。いたずらに男性へ重荷を増やすような行為も、結婚や子供に対しての忌避感情にもつながっている。
忌避する理由が多くあるが、当然、男性にだって他にも趣味や付き合いなどやりたいことも多いだろうし、束縛はできれば避けたいという人もいることも付け加えておく。
(4)やりたいこと、結婚、子育てを並行してできますか?
基本的に結婚や勉学、男女の間の関係性を中心にここまで述べさせてもらいました。すべては挙げられませんが、その他にも色々なことを皆様出来る世の中になり、娯楽や趣向の多様化、人権意識の拡張など、様々な面を現代日本では享受しているものかと思います。
ここで読んだこと、皆様が今享受しているものを踏まえたうえで、読んでいただいている皆様には確認のために、今一度聞いておきましょう。
我々には様々なことをするための時間やお金、エネルギーといったものが足りているのでしょうか?
3 この悩みを回避する方法はあるのか?
女性が少しでもキャリアと育児を両立し、少子化問題を解決するためには、どのような対策を立てるのが望ましいのだろうか?
母親が育児負担を移民に代替させる手段という考えもあるだろう。しかし、すでに欧米が手を出した手段ではあるが、近年の移民問題のようなことが起こる原因でもある。その欧州ですら少子化の根本的な解決に至っていないのは数字を見れば明らかだ。
移民の代わりに拡大家族に回帰するという手段もありうるかもしれないが、左様な保守化を求めることはほぼ不可能であろう。
先の上方婚の件を考えても、女性側が意識改革を伴ってより幅広く結婚をする範囲を広げるということもあるだろうが、現代思想が超克するビジョンをどうやって示してくれるだろうか?
生活水準や仕事水準などといったものを落としてまで、子供を産み育てることをしたいのかといえば、皆が皆そうではない。金銭面的な部分が解決をしたとしても、時間という得難いものまでも犠牲にしてまで色々なものをなくすことは能うとは到底思えない。
男性の収入を増やすという案もあるだろう。未婚率を見ればその方が効果的なのは考えられそうだ。だが、そういったことを主張すると、今度はリベラルの方々から曲解を含めて強烈な拒否反応を示されるだけである。
数多くある欲望と少子化問題という解決しがたい課題というのは、いかような手段を講じたとしても是正は困難なのではないだろうか?皮肉にも色々な人々が自身の幸福を追求した結果こそが、少子化問題を取り除くことができない原因ではないだろうか?
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