6 セカンドレイプ論と言論封殺 

具体的な事件においても支障が出るほど性犯罪事件というのはかなり難しい扱いを迫られるものなのだが、性犯罪の取り扱いをより難しくしているものの一つとしていわゆる「セカンドレイプ」というものも大きな影響を与えていると考えられる。

セカンドレイプ論に関しては、性犯罪関連でよく見かけるような論理ではあるが、ここではどのような論理であるかを紹介しつつ、この論理の危険性に関して紹介していきたい。


(1)セカンドレイプ論の本来の役割

セカンドレイプというものの定義については、下記のようなものとなっている

レイプなどの性的暴行を受けた者に対して、第三者が、性被害の苦痛を思い出させるような言葉を投げたり、被害を受けた原因の一端が被害者自身にもあったというような中傷めいた発言をしたりして、精神的な苦痛を与えること。

Weblio

この言葉は元々性犯罪における申告率の低さの改善とともに、性被害者が苦痛を受けることをより防止するために設けられている話である。

性犯罪においては元々言い出しにくい面があり、被害を訴えないことや秘匿されやすいこともあって、他人の好奇心を煽ってしまう面や心もとないことを言う面もあるのだが、そのことでさらに被害者が苦痛を受けるだけではなく、訴え出ないことを助長しないだろうか?

ということで本来の役割として、できる限りセカンドレイプ論は被害者を守ろうという声を出すためのものとして掲げられてきた。

もちろん、この論に関しては一定の理解はするのではあるが、状況によってはかえって性被害防止を阻害するような結果になる場合や、言論の自由も妨害することにつながっている側面も否定できない。

場合によっては両立しえない矛盾した関係もはらむこととなるだろう。

(2)セカンドレイプ論における言論封殺

セカンドレイプ論は使い方によっては確かに有用かもしれないが、同時に扱いきるには困難な代物である。

性犯罪であろうとなかろうと、本来事実認定において不可思議な点や事実認定が難しい側面のある点などがある場合、当然複数の人間から反論されるわけなのだが、こういったことも大変難しい。

具体的な冤罪事件でもいくつか出てきたのだが、明らかに映像に犯行をした様子がない場合や、明らかに加害者にアリバイがある場合など、こういった言動も相手を疑う行為や相手を委縮する効果だってあり得る。

本人達としては、事実追及をした結果としてこのような行為を行ったに過ぎないのであり、何も彼女たちを悪く言うために行っているわけではない。

しかし、相手からすれば不当に被害者を誹謗中傷する相手であり、真実の追及を邪魔する人物に捉えられてしまうだろう。


先に紹介したが、阪神淡路大震災の件も記者などは事実追及をしただけの話を、相手方はまるで事実を隠蔽される行為だったという表現をしており、追及自体を不当に貶められたものかのように語っている。

もし、セカンドレイプ論で彼らの言及や追及がなかったらどうなっていただろうか?と考えると、性犯罪において冤罪や不確実な言論がはびこる大変恐ろしい環境を是正できなくなってしまうだろう。

セカンドレイプ論とは一見すればいいようにも見えるが、その実かなり大きな危険もはらんでいるのだ。

(3)真面目な研究も批判対象になるケースも

セカンドレイプ論における言論封殺は何も単なる反論権だけではない。

時に真面目な研究ですらセカンドレイプ論によって圧殺されそうになるのだ。

その事例として挙げられるのが下記の研究であろう。

この実験は実際に臀部を手、指、カバンのひもなどといったもので触ってもらい、被験者がどのようなもので触られたのかということを感じる実験を行ったものである。

研究結果としては、手のひら全体で触られたと正しく回答できた人はわずか4割しか正解しなかったもので、臀部の部分で何かを触られたとしても、服を着ている状況では正しく認知することは難しいという結果になった。


画像はNHKで放映された際のキャプションより

研究結果としてはいたって真面目な内容であり、検証結果としては実に有意義なものだと言えるのだが、これをNHKの番組で紹介したところ、下記のような炎上騒動になった。

しかし、すでに指摘したとおり、内容はいたって真面目な検証結果を報告するものであり、被害者叩きをしているものではない。

実際に実証事件を行ってどのように感じられるのかというようなことに過ぎないわけだが、こういった実証実験自体でも、抗議活動や謝罪、放送中止に追い込もうとして封じること自体が、言論封殺になるのではないかという指摘があっても不自然ではないだろう。

また、実験結果も半数以上が勘違いを生んでしまうという結果も彼女たちの心情に余計に火をつけてしまったことは想像に難くない。

ただ、こういった声をいたずらに認めてしまっては、正しい研究結果すらも彼女たちの都合によって打ち消されてしまう懸念があることを指摘しなくてはならない。

(4)時には啓発ポスターですらその対象に

彼女たちの暴走は止まらず、時に犯罪啓発ですら彼女たちがもつ牙の対象になる。

炎上する広告 ― ジェンダー観からみる多様化社会の課題ー
https://www.j-mac.or.jp/oral/fdwn.php?os_id=184

駅などでたまに見かける知見や盗撮などの犯罪防止啓発ポスターについてであるが、この手のポスターも何度か炎上の憂き目にあっている。

だいたいの内容は下記のような感じであり、主だって被害者側に何らかの負担を求めているのを非難するケースや表現内容に関するクレームが多い。

・被害者に何らかの自衛を求める行為
・マンガなどの表現によって深刻さを理解してもらえない
・女性側にも服装の自由があり、性犯罪を誘発するなどということを女性に求めるのはおかしい
・加害者が悪いのであって被害者を悪く書くようなことはおかしい

など

まとめるとおおよそこのような発言が中心になっている。

しかし、これらに関する発言も少し考えればおかしい側面があるのは否定できない。

他の犯罪において被害者になりそうな人に対して何かを行おうというようなことを啓発するポスターがあったとしても、炎上するようなことはまず見ない。

試しにいくつか啓発ポスターや呼びかけなどを調べてみれば、下記のような自衛策を展開することは何ら珍しい話ではない。


https://www.hchs.ed.jp/campus/sendai/079384.php
https://www.pref.ibaraki.jp/kenkei/a01_safety/security/furikome_type.html

しかし、これを見たからと言って被害者を責めているとか、加害者が悪いのだからと言ってポスターや呼びかけを炎上させたいと思う人は、いったいどれだけの人間いただろうか????

普段ポスターそのものがなかったとしても、戸締りはするだろうし、盗まれないように警戒することそのものもごく自然と行っている。

誰もそのようなことをするのに疑問を思わないのである。もちろん盗むやつがいなければそんなことする必要はないのだが、そう思ったところでやる人はやるのだからしょうがないという風に皆思っているだけなのだ。

他の犯罪でも同様であるのだが、まるで性犯罪だけが浮世離れしているかのごとく、かような炎上を起こしているのである。

また、啓発自体を行えないことや防犯自体を意識させないようにせよと下手に訴えることは、かえって防犯そのものを意識することも難しくなりそうではある。

そうなったときにはいったい誰が得をするのだろうか。

防犯意識という面でも、セカンドレイプ論は弊害になりかねない問題をはらんでいる。



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