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男性差別と日本におけるホームレス事情 ~特異さといびつさの狭間~


 ホームレス問題というのも、男性差別問題に関わる一論点である。男性差別問題に関する具体的事例集においても、一カテゴリーとして取り上げていた論点であり、軽くではあるがなぜそのように考えられるかも指摘させてもらった。

 なぜ差別というのかという結論から言えば、その根拠の多くはホームレスの男女比によるところが大きいだろう。詳しい内容はこれから書くところではあるが、このあたりが今回のnoteの中心として論じていく部分である。

 男女比に関しては、他国の状況や定義といったものも比較させてもらうこととなるのだが、調査を進めていくについてより日本におけるホームレスにおける男性差別問題はいびつなのではないかということを確認することができた。それは、単なる比率の問題だけではない。





1 近年のホームレスの傾向に関して

 本題に入る前に、まずは日本におけるホームレスの現状を紹介したいと思う。

(1)ホームレスの関しては、基本的に減少傾向にあるが。

 近年における日本のホームレスの人数に関しては、一貫して減少傾向となっている。平成31年度の調査を元に色々と参考にさせてもらう。


 ホームレスと確認された人数については4555人となっている。基本的には都市部にホームレスとなっている人々が多く、東京都、大阪府、神奈川県と言ったところが今回の調査によって発見されたホームレスの大半をこの3つで占めている。

 2007年くらいには18000人以上いたのではあるが、それに比べるとかなりの数が減っているものであり、ホームレスの人々はだんだんと数が少なくなっている。理由に関しては様々な論考がされているが、それはこれ以降に少しずつ述べる。

(2)ホームレスの定義に関して
 
 ホームレスの定義に関しては、ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法によって、以下のように定義づけられている。


第二条 この法律において「ホームレス」とは、都市公園、河川、道路、駅舎その他 の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者をいう。

 定義としては、一般の方でも想像ができるような感じだと思うが、基本的には家を持たず外の空間や公共交通機関などの人々の往来が多い場所に寝泊まりしているようなイメージである。
 この定義は必ずしも各国共有とされているわけではなく、国によっては定義が若干異なることがある。
 日本でもこのあとにも取り上げることとなるが、ネットカフェ難民などと言ったような統計に表れない部分が指摘される。定義上は、路上などで寝泊まりしている人々を専ら対象にしているのではあるが、定義や調査から漏れている部分に寝泊まりしているところまでは調査に含まれず、実際にはもっと数値が多いのではないかとも言われている。
 もちろん、行政や民間の支援によってホームレス自体が減っているようなケースもあるので、簡単に支援の差があるわけではないことも、しっかりと留意する必要がある。

(3)大きく開く男女比の問題

 ここが今回問題となる中心部分であることは冒頭で説明させてもらった。同調査においてホームレスの男女比というのが記述されているのであるが、男性が4253人に対して、女性は171人で残りは不明という状況となっている。男性が圧倒的に割合としては多く、割合としては不明となっている人を除いても、約96:4と圧倒的な差で開きがある状況となっている。
 ここまで大きな差を考えると、支援などに大きな差があったりするのではないかと言うことが当然に考えられるのだが、日本だけではなく世界のホームレスの事情を考えると、それがより顕著にうかがえるのである。

2 各国の調査におけるホームレスの男女比


 さて、ここからが本題なのであるが、早速世界のホームレスに関する資料をいくつか紹介したい。資料に関しては以前に具体的事例集に挙げたものだが、ここであらためて資料を提示したいと思う。



フランスのホームレスの10人中4人が女性だということに驚きました。フランス国内では広く認識されていることなのでしょうか?



 韓国国内で合計1万7500人余りいることが分かった。彼らのうち、男性と女性の比率は7対3程度で、大概は病気や障害、離婚、家族解体のような問題で野宿をすることになったことが調査で分かった。




 性別で見ると成人男性が全体の73%を占め、女性は約27%の10万人と男性に比べればまだまだ少数ですが、2011年から3%ほど増加しています。




この2011年の調査では、初めて、18歳以下のホームレス状況も調査された。約400人が該当し、51%が女子、49%が男子だった。そのうちの35%が外国生まれだった。




統計によると、ヘルシンキには約900人のホームレスの女性がいます。彼らは若くなり、ますます多くの問題を抱えています。(中略)
 全国で1,500人以上のホームレス女性がおり、女性のホームレスは減少しているものの、長期的なホームレスは増加しています。
(ちなみに、2017年は合計7,112人のホームレスがいることになっている。括弧書きは筆者追記)





こちらの統計では、おおよそ6対4の割合で男女比が構成されている。



こちらの調査でのホームレスの男女比は男性56%、女性44% (オーストラリア 2006年)



2006年において「深刻な住居剥奪状態」にある者の人数には、男女差は見られなかったが、路上生活者に限ってみると、男性が女性より幾分多かった。

 余り数が多くなると良くないので、これくらいにしておこう。

 各国の数字を集めてみたところ、基本的には男性のほうが、女性よりもホームレスになる割合は大きいと言って良いだろう。国や条件によっては、男女差がほとんどないようなケースも存在する。
 しかし、海外の事例ではおおよそ3割前後から4割くらいは女性のホームレスがいるだろうというような数値に比べると、日本と世界の差は圧倒的に差があると言って良い。
 
 もちろん、ホームレスの定義というのは各国によって異なる部分も大きく存在しているのは先にも述べたが、それを考えたとしてもここまで書いた段階でも異様な数字だろう。
 ここまでの差があるのなら、男性に対する支援を優先した方がいいのではないだろうか?という考えが出てきてもおかしくはない。だが、これに待ったをかけるかの如く反論を立ててくる人々が存在している。

3 男女比に対する異論とその反論に関して


(1)女性のホームレスは隠れている


 今から紹介する記事に関しては、女性ホームレスを研究している丸山里美(まるやま・さとみ)/京都大学大学院文学研究科准教授をインタビューしたものである。氏は長年女性ホームレスを研究している人であり、ライフワークとしている人である。長年調べたことをここ最近で報告し始めているようであり、この記事もその一部を紹介しているのである。

 女性ホームレスについて詳しい実態調査やホームレスになった経緯などが書かれているが、詳しい内容は記事に譲るとして、この記事の本質的な内容として、女性ホームレスは普段見えないところに隠れているのであり、そのことを原因として数字は低くなっているというのである。

彼女たちは危険を避けるために物陰に隠れるように暮らしているので、なかなか目にとまりません。厚労省の「ホームレスの実態に関する全国調査」の2021年版によれば、全国の野宿者3824人のうち女性は197人。わずか5.2%です。

「ホームレス」の定義によるところも大きいと思います。日本でホームレスというと、一般的に路上生活をする人を指します。しかし、もっと解釈を広げ、「家のない状態の人」と定義し、インターネット・カフェやファストフード店、知人宅で夜を過ごすといった人もカウントすれば、5.2%よりずっと多いです。

 ホームレスの定義などによって、女性のホームレスは実態に出てこない暗数が存在しているという主張であり、もっといろいろなところに調査させることによって、女性のホームレスは多くいると考えているようだ。

 確かに、考えとしてはわからない話ではない。後で紹介するが国によっては住居を失う恐れが一定の期間内にあり得ることが認められるような人も、ホームレスに入るようなケースもあるため、日本とは数字が変わってくると言うのもわからなくはない。

 そして、人から見えておらず支援も得らない人々を救済しなくてはならない。という観点を考慮することができるなら、より多くの関心や支援を求める契機にもなるだろう。

しかし、この研究には疑問点が多いと考える。

(2)複数の疑義、不足する研究

① 安全性に関して

 正直なところ馬鹿馬鹿しいとも感じるだろうが、ホームレス生活が安全というようなものは、普通は考えられない。
 もともと体の調子が悪い者がいることや高齢者の者も多く、襲撃されれば抵抗する能力に乏しいことからも、通常よりも危険性があることは言うまでもない。もちろん、セキュリティーが万全でも何でもないようなところで生活しているのだから、普通に暮らしている者よりも安全性を確保できるわけもない。
 
 にもかかわらず、まるで女性だからこそ危険性がと訴えているのだが、そもそも海外では安全だから、女性のホームレスも数字として表れるというような推察をするのもおかしなことだ。日本だけが女性が危険で隠れているという特別な事情がどこにあるといえるのだろうか?これから紹介するが、普通に危険な目にあっているホームレスの話を聞けば、異様な意見というのはすぐわかるだろう。

(ア)日本におけるホームレスの暴行被害について
 
 日本において、犯罪被害に遭ったかどうかと言う調査も捜索すると見ることが可能である。例えば下記のものが挙げられる。


 襲撃被害の有無について、347名の野宿者へのアンケート調査を行ったものである。アンケートの回答者の内、4割もの人が襲撃された経験を持っているという回答が得られている。
暴力の内容としては、若い人が集団で襲ってくるようなケースが多く、色々な道具や等も使われるケースもあるという。

 比較として、平成31年の暗数調査に関する報告を挙げるわけだが、暴行脅迫に関する被害に関して、過去五年間にそういった被害を受けたかどうかの調査を取り上げるとする。

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過去5年間に被害に遭ったことがあると答えた人は,3,709人のうち,52人(1.4%)であった。

より

 双方の犯罪被害の期間に関しては、過去にいつあったのかという年数は異なるのだが、それがあるとしてもかなり大きな差があるのではないか。
 彼らの地位や立場に関する卑下や蔑視など様々な要因があるだろうが、暴行被害一つとってもこれだけ大きな差があると言って良いだろう。

 もちろん、暴行以外にも犯罪に巻き込まれるケースを考えると、基本的に安全性が確保されているとかいないというような話も語るまでもあるまい。

(イ)海外の事例に関する報告

 先ほど、フランスのホームレスの割合に関して紹介した記事があるのだが、こちらの記事には女性のホームレスが犯罪に合っている被害が報告も記述されている。



 ホームレス受け入れ施設で働いている職員はこういう。
「ここにくる女性たちは、100%レイプなどの暴力を受けています」
 彼女たちは、すでに路上に出る前に伴侶や家族からの暴力にあっている場合も多い。しかし路上で生活することはさらにレイプというリスクが日常的につきまとう。夜一人で歩いていると怖いと感じることはないだろうか。女性のホームレスはそれを一日中感じて生きているのだ。


 
 まあ、当たり前なのだが海外でも当然こういった危険性があるのは当然のことである。文字通り一人でいることに対するリスクは大きいのは海外でも言うまでもないことだ。なのにもかかわらず、海外では日本とは比べものにならないくらい数値が違うのである。

 少し調べてもホームレスであることは、基本的に他人から襲われやすい要素を含んでいることが、日本や海外の話でも確認することが出来る。ホームレスの人数に差があるのは被害を恐れているようなことだけでは説明がつく理由に乏しい。

(ウ)追記 日本と世界との安全比較

 本当に本当にこんなことをいちいち書かなくてもいいと思っているのだが、本気で理解できない人がいるようなので書かなくてはならない。

 どうしても、女性の安全性が確保されていないから、ホームレスになれないという言説を強行に押す人がいるようだが、そんなことは少し数字なり参照すればいいのに、どうしてもできない人がいる。

 しょうがないので、複数の指標なりで安全性を比較しようと思うのだが、まずは世界平和ランキングというものを参照しよう。このランキングは24項目からなる指標でランキングされており、内線・対外戦の有無やその死者数、殺人などの犯罪件数、難民の数、武器の入手のしやすさなどとなっているが、日本はその中で上位に入るレベルで安全とされている。

そして、気になる2017年度の世界平和ランキングでの日本の位置はといいますと、10位にランクインしています。


日本は常に世界平和ランキングの10位以内に位置しており、世界から見ても治安のいい、平和な国と言えます。

より

 また、性犯罪に関しても、暗数が多いのではないか?とも言われているが、レイプに該当しないが、そのほかの性犯罪に該当するケースを考えても、やはり日本は諸外国と比べても申告しないケースや件数自体も少ないと考えられないだろうか?とも考えられているわけで。(まあもっとも、後にも出るが、暗数の定義に関する違いがあることや、比較する意味のあるものだと思わない面もあるが。 下記は参照)

 その他にも、東京では世界と比べても女性が暮らしやすさ上位(性被害のあいにくさはトップ)であるというような話や犯罪率自体がOECD諸国と比べて最低水準といったように、どう比べても日本は安全性が比較的高い国だといえる。


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 日本の治安はこれほどまでによく、本当に女性に危険性がある故にホームレスが少ないという言論が出るのなら、もっと多くてもいいはずであるが、実態は全くと言っていいほど真逆である。

 そんな程度の比較すらしないで、教条的に女性の被害者性をPRすること自体、馬鹿馬鹿しいにもほどがあるわけである。


② そもそもホームレスはどこにいるのか?

 先ほどもホームレスに関しては、野宿をしている人を中心とする統計の取り方を考えてきているものであり、ネットカフェや24時間営業のチェーン店、他人の家に寝泊まりしている人などを考えると、もっとホームレスの人はいるのではないだろうかという点は指摘されていることは紹介した。
 それ故に、ホームレスの統計に女性という点は出てこないのではないか?と考えられる。しかし、これも本当に正しいかと言われれば大きな疑問が残ると言って良い。

 一つそういった調査をしたものを紹介しよう。東京都がネットカフェ難民に関して実際に調査した結果のものである。


さらに住居のない人363人を対象に年齢を調べたところ、「30~39歳」が38.6%で最多となり、次いで「50~59歳」が28.9%、「40~49歳」が17.4%と続いた。男女別の割合は、男性が97.5%を占めた。

 ネットカフェに寝泊まりしている人を都が調査したものであるのだが、その中で住居がないものを調査した際のものではあるが、ここでも男性が圧倒的に多く、ホームレスの男女比とほとんど変化のないような数字になっている。
 ネットカフェ難民などに、女性のホームレスが隠れているというのだが、この調査を見ていると彼女が考えているほどの数値は見ることは出来ないのである。

また、同調査では

 ネットカフェなどの他に寝泊りするために利用する場所を聞くと、一番多かったのは「路上」で43.8%。以下、「ファーストフード店」が40.5%、「サウナ」が30.9%と続いた。

 となっており、ネットカフェ以外のところでも住居がないものが寝泊まりしているところを転々としていることが多くいることがうかがえる。おそらく、ネットカフェ以外のところで寝泊まりしている失業者を調べても、同様の結果が出ると考えられる。

 もし、女性の安全性が確保しにくいというのであれば、少しでもプライベートな空間や少しでも人の目がつきやすいような空間があるところにもっと集中していても良いだろう。数字にも表れる側面があって良いはずだ。だが、調査内容はそのことを示していない。

 こういった調査を見ているのかわからないのだが、この時点で従来の定義から外れた人間の中に、女性が多く隠れているだろうという論理には大きな疑義が生じているのである。
 しかし、先の研究ではこういった情報に触れられている形跡はない。

 また、簡易宿泊所のようなところで住んでいる人が、ホームレスの定義に当たるかどうかのも欲しいところなのだが、言及されているように見えない。


③ 定義の違いか?

 ②の論点とも被るところもあるが、各国の定義の違いによって違う場合というものも考えられる。日本の研究では、基本的に野外に出ているものを判断している人物が中心になっていることが多い故に、隠れている人物がまだまだいるのではないかというような言説がある。
 なら、日本において女性がその定義から離れているケースもまだあるだろうという考えもあろう。

 例えば、いくつかの海外のホームレスの定義を紹介しよう。Wikiからいくつか拾えたのでそちらを引用する。

アメリカの場合においては


マッキニー・ヴェント法(McKinney-Vento Homeless Assistance Act)においては、「固定され定常的で十分な機能を持つ夜間の宿泊場所を持たず、夜間の主たる宿泊場所が、1.公的主体又は民間主体により運営されている一時宿泊施設、2.収容することが必要な者に一時的に宿泊場所を提供する各種施設、3.人間が定常的に寝起きする場所としてデザインされていない、または、通常使用されない公共及び民間施設のいずれかの者」をいう。

イギリスの場合においては


2002年のホームレス法(Homelessness Act 2002での定義も変わっていない。ホームレス法では「占拠する法的権利を有し、アクセス可能かつ物理的に使用可能で、継続して居住することが合理的である宿泊場所を有さないもの」と定義されている。なお、「56日以内にホームレスになる恐れがある人」もホームレス法の対象となる。

※2021年10月24日現在の記述を元に記載する。

 日本の法律と比較すると、アメリカのようなケースだと、いわゆる一時的なシェルターのようなところに寝泊まりしている人も、ホームレスの対象となっていることもあれば、イギリスのように日数が明示されているようなケースもある。
 日本の法律と比べると、ホームレスの定義としては広いこともあるから、男女の違いがあるのではという考えも出るだろう。

 だが、先に紹介したネットカフェ難民の事例を考えても、かなり考えにくい事情もあれば、その他にもそうではないような事情も考えられる。

 例えば、シェルター利用に関しては、そもそも女性のホームレス自体が少ないものであるから、シェルター利用者から女性の方が多いというようなことを探ることすら難しい。
 厚生労働省の調査ではシェルターのことに関して、認知・使用をしたことがあるかどうかを質問したものもある。
 女性に関しては、男性に比べるとシェルター利用に関して実際に利用したことがないとの結果があるのだが、そもそもの調査母数が54人と少ない。それでも、男性と女性の利用者比率はおおよそ2:1になっているわけではあるが、男性側だとこの調査での母数は1351人となっているが、おおよその利用したことがある人数を算出すると、男性では270人くらいで女性では5人くらいといったところだ。平成31年のホームレスの統計と照らし合わせても、割合として男性は850人くらい、女性はせいぜい20人もいればいいくらいと絶対数で大きな差が出てしまう。ここからではシェルターの利用者自体が男性に偏在している状況は変わらないと見受けられる。

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ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)の分析結果


より

 また、ニュージーランドの事例を先ほども紹介したわけではあるが

2006年において「深刻な住居剥奪状態」にある者の人数には、男女差は見られなかったが、路上生活者に限ってみると、男性が女性より幾分多かった。

 となっている。もちろんニュージーランドと日本では定義に違いがあるのだが、狭い定義に限定するような部分を勘案したとしても、日本とはるかに差があるといっていいだろう。
 ほんの少し比較できる部分を取り上げたとしても、数値面で異様な差を確認できるのだが、そのほかに何か日本が海外のような比率になるものを探ることはできるのか?といわれると、非常に疑問点が多い。


(3)暗数論の焼き直しか?

 こちらで調べられるようなものではあるが、彼女の論理は大きな疑問があることは十分な理解ができると思われる。

 しかし、少し考えることや調べることをすれば、私のような調査レベルでもすぐにわかるはずなのに、なぜこのような解釈を重ねてしまったのだろうか?研究をしているのであれば、こういった定義の違いや数値で分かるような面は調査し、比較を行うというのは当然のことのはずである。
 しかし、私が明らかにした部分ですら、しっかりと比較することなくこのような形になってしまうのだろうか?

 ひとつ思い当たる節があるとするのなら、性犯罪における暗数論理が、こちらにも焼き直される形で応用されているのではないかと考えられる。

(ア)性犯罪の暗数について

 性犯罪における暗数に関しては、説明する必要なないのかもしれないが、敢えて説明をしよう。

 性犯罪における暗数の多さの根拠はその申告率の低さである。通常の犯罪の申告と比べても、性犯罪を申告するものは低く、第3回犯罪被害実態(暗数)調査結果概要によると性的事件で犯罪を申告した人は13.3%となっている。その他の犯罪と比べてもかなり低いといえる状況である。

第3回犯罪被害実態(暗数)調査結果概要


より

 だが、暗数というのは①そもそも客観的数値として比較することが、暗数の性質上不可能であること②暗数にはその他にも犯罪に該当する行為そのものを認識していないケースや、犯罪に該当する行為にあっても犯罪だと本人が思っていないケースを考慮していない③そして、暗数に関して比較することそのものがしっかりできていない及び暗数の多い少ないという明確な基準が存在しない。

 という問題点がある。比較検討が困難であるゆえに、従来なら暗数理論は使用できないことを指摘させてもらった。


 本件でも、この暗数論理の批判点が当てはまる部分が多くあるのではないか。

(イ)女性は訴えにくいだろうという応用とバイアス

 

 ホームレス女性に対しても、性犯罪と同じような論理展開をしている部分をもう一度見てみてみよう。


 
彼女たちは危険を避けるために物陰に隠れるように暮らしているので、なかなか目にとまりません。厚労省の「ホームレスの実態に関する全国調査」の2021年版によれば、全国の野宿者3824人のうち女性は197人。わずか5.2%です。

「ホームレス」の定義によるところも大きいと思います。日本でホームレスというと、一般的に路上生活をする人を指します。しかし、もっと解釈を広げ、「家のない状態の人」と定義し、インターネット・カフェやファストフード店、知人宅で夜を過ごすといった人もカウントすれば、5.2%よりずっと多いです。

 女性だから危険な目にあいやすいのではないか?そういった危険性があるから訴えにくいのではないか?見えないところにいるのではないか?だから、実態としては数字が低くても、隠れた人々がいるのではないか?
 先に紹介した女性ホームレスに関する記事にもこんな感じのことが書かれているではないか。なるほど、こういった訴えにくいだろうという状況は確かに性犯罪において、女性は被害に遭ったことの羞恥心などから、訴えたりすることが少ないだろうという面と一致している。
 だが、彼女の研究は比較できるところもあっても比較しているような形跡もない。見えない部分も女性の方だけは見ているが、男性について見えない部分を考えているように見えない。もちろん、暗数を推測できるような状況を客観的に証明するようなこともしていない。(というか出来ない。)

 比較がない、客観性がない。でもなんだかそれらしい状況と照らし合わせることによって、直感的に何かその状況が存在しているかのような前提が、さも当然の如く存在しているかのように主張されているようである。

 性犯罪における暗数理論と同じような疑問点や批判点がほぼそのままホームレスの問題に輸入・応用されている。

追記 ホームレスになる理由について

ちなみにホームレスになる理由として、念のために取り上げることとするが、厚生労働省のデータを用いることとする。

厚生労働省が2022年に発表した資料では、男性が路上生活をするようになった理由として最も多かったのは「仕事が減った」が23.8%、次いで「倒産や失業」が22.2%「でした。
また、「人間関係」が18.3%、「病気・けがや高齢」が13.9%の割合となっていました。

なぜホームレス状態の人が生まれるの?その原因、対策方法とは? (gooddo.jp)

たまに自発的にホームレスになっただの、支援はいらないだのわけのわからないことを言っている者もいるが、これを見てそうせざるを得ないというのであれば、はっきり言って偏見の塊と言わざるをえないだろう。

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