好きな歌詞#1 「せめて僕だけは」

≪綺麗な映画を見た後にふと君を思い出した≫

このフレーズから始まるmol-74の“エイプリル”。しっとりと柔らかいボーカルの歌声と、ピアノとベースの低くずっしりした響き、ギターとドラムの軽やかなリズムが耳馴染みの良い音を形成している。暖かい空気の中で、吹く風に少し冷たさも感じる春のような雰囲気の曲だ。

綺麗な映画を見た後に、その充足感の中でふと思い出す人。
それはきっとその人にとって大切な人なのだろう。大切な人を表現する言葉として、これ程までに間接的でいてこんなにもしっくりくる言葉に初めて出会った。映画を見た後、無自覚の緊張から解放されてそれと同時に多好感に包まれるあの時間。素朴な日常の一コマに価値を見出しているからなのか、フィルムのようなイメージのなかに身近な感情や思い出が重なって歌詞の世界観に入り込みやすい。歌い出しだけで綺麗な情景が浮かんでくる。その後の歌詞でも

≪弱く春風が包む 曖昧に≫

≪強く春風が揺らす心≫

と、春や心情の描写が丁寧でまさに綺麗な映画を見ているようである。
全体を通して、手紙や日記を彷彿させるこの歌詞。「等身大」な言葉が多くて、誰かとの別れから経過した時間の中で変わっていく自分たち、というのが切なくひしひしと伝わってくる。ただ鬱々とした雰囲気は一切なく、むしろ清々しく柔らかい空気を纏っている印象がある。そんな“エイプリル”の中で最も好きな歌詞がこちら。

≪誰かの幸せを願うほど僕は優しくなくて
せめて僕だけはと思うのは可笑しいのかな≫

自己本位的に映るかもしれないけれど、自分の幸せを願えるということは素敵だと思う。私は逃げ癖のある人間だから、すぐに自分の将来を悲観してしまう。否定してネガティヴな言葉を吐いて、それで楽になるわけでもないのに一生懸命に自分の不幸を想像している。だからこそ、この歌詞にとても憧れた。「せめて僕だけは」と自分を救ってあげられるような考え方ができたらもっと息がしやすいのかもしれない。淡く心地好い雰囲気の中にある、この人間らしく生々しい感情が私はとても好きだ。

まだ肌寒いがもうじき春が来る。
春には必ずこの歌が聴きたくなる。
もう少し暖かくなったら映画を見に出かけよう。

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