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親知らずトンチキ抜歯記録

 生まれつき歯並びが悪い。どれだけ悪いかというと、下の歯並びのあだ名がリアス式海岸になるくらい酷い。
 今回は下の歯並びを咽び泣きながら直した時の記録を残そうと思う。
 このクリスマスも近づいてきた日に、私の苦悶の抜歯記録をあげるのもどうなのか?とは思った。それでも、将来抜歯で同じ末路を辿る仲間がいるかもしれないので書くことにする。(ただし役に立つことは多分ない)だいぶ長いけどよろしくお願いします。



歯並び激悪、発覚

 そもそも私は幼少期に矯正もどきをしたことがある。当時、上の前歯が後ろに引っ込みすぎて、口を閉じた時に下の歯が前に来てしまう…というトンデモ歯並びをしていたからだ。
 それを治すため、削った割り箸を自分の前歯に押し当てて、物理的に押し出すとかいうこれまたトンデモ矯正を強行した。正直二度とやりたくない。実際やりたくないってゴネて家の外に叩き出されたし。
 そのトラウマもあってか、明らかに歯並びが悪いのを私は隠し続けていた。しかしあまりにも隠し方がガバガバすぎて爆速でバレた。

私「なんか歯茎腫れてない?見て欲しい」
母「わかったわかった、ちょっと見るわ」
「あんた歯並び悪ッ!??奥歯横向きやん!?」
私「ァ!!!!!!」


絶望の抜歯宣告

 流石に歯並びが悪すぎて怒られたのでウン年ぶりにかかりつけの歯医者に来た。どうして歯医者はこんなに行きたくなくなるんだろう。歯医者に限った話じゃないけれども。
 すごく、マジで、今すぐ帰りてぇ〜、本当に逃げたいこの場から…と激渋の顔をしながら診察してもらう。

私「痛くなかったらなんでもいいです。本当に。具体的に言うと抜歯とか抜歯とか抜歯、あと抜歯」
先生「すごい怖がるな……」

一通り見終わった先生が一言。

先生「ウーンこれは…保護者さん呼んできて」

 オイオイオイオイ死んだわオイオイオイオイ。と思ってからあまり記憶がない。おそらく厳しい現実から逃げるために意識を飛ばしたのだろう。呼ばれて出てきた母が愉快そうにニヤニヤしていたのは覚えている。なんだかムカついてきた。
先生「怖がってたokomeさんには申し訳ないんですけど、これ、抜歯ですね…親知らず抜歯です」
私「ワッ…!!!わァ…!!」

 
先生によると、中々に親知らずがクレイジーな生え方をしているので、この先の矯正を考えるなら矯正歯科にもう今から通い、そこで詳しい抜歯関連の説明を受けてくれとのこと。私は泣きながら紹介状を受け取り、近くの矯正歯科の予約を取った。歯関連が不健康すぎる。


大学病院行き

 前回いつもの歯医者さんで受けた説明だと、私の下の歯並びの悪さは親知らずが変な生え方をしているせいらしい。しかも、一番最初の謎の歯茎の腫れは、親知らずが出てこようとしているから起こっているようだ。それも、横向きに。とんだグロ画像すぎる。助けて欲しい。
 初めて来た矯正歯科は緊張よりも一連の説明のせいで絶望が勝った。先生秘蔵の県内厳選激悪歯並びアルバムを見せられながら、私もこのコレクションの一員になるのか…と、レントゲンやら写真を撮られながら気が遠くなる。
先生「そもそもokomeさんの顎が狭いのに、更に親知らずが押してるせいで、歯がバラバラにずれていったんでしょうね」
 そんなことある?あった。
 
私はめでたく下の左右の親知らずの抜歯、しかも最悪の場合、顎のサイズに合わせて更に歯を抜くことになってしまった。抜歯はここでは行えないので大学病院行きだという。歯医者のたらい回しとか経験したことないんですが。
先生「これだけ噛み合わせが悪かったら、体育とかで苦労したんじゃないんですか?」
母「いや、元々の運動神経の悪さだと思います」
私「酷くない?」
 
矯正することで噛み合わせが治り、よく食いしばれるようになって運動の成績が上がるパターンも多いらしいので、運動してる学生の方は矯正を検討しても良いかもしれない。私の50m走10秒台も改善して欲しかった。


いざ、関ヶ原(大学病院)

 大学病院での治療の初日はレントゲンと目視による診察だった。色んな科を行き来して資料を作ってもらい、いざ抜歯してくれる先生とご対面。
 お爺ちゃんお婆ちゃんと一緒に並びながら待っていると、女性の声でどうぞ〜と呼ばれた。白い扉から入ると、女性が座っている。なんというか、華やかで、都会の街並みが似合いそうな綺麗なお姉さんだ。スラッとしたモデル体型で、もうとにかく美人。遊ばせた毛先がふわふわしていて美人ながらも可愛いのが私をドキドキさせる。
 そんなおっさんみたいなことを考えながら、座って説明を待つ。
先生「親知らずの抜歯をどうやってするかなんですが、今はまだ親知らずが埋まっているので、単純には抜けません」
私「そうですね」
先生「ですので、まず歯茎を切ります」
私「切…?」
 先生が手で鋏の動きをする。ちくしょう、可愛い。
先生「で、出てきた歯を砕きます。」
私「粉砕……?」
 
見た目と声と雰囲気にそぐわない言葉が飛び出し続ける。説明中の絵面は綺麗だが中身は刃●じゃないか。
先生「歯のかけらを掘って出します。あとは縫合して終わりです」
私「アッなるほど掘削」
 
ここら辺で考えることをやめた。こんな最新機器が揃い、コンピューターが何台も稼働している近未来的空間で、こんな脳筋理論が語られるとは。心なしか先生の腕がムキムキに見えてきた。
先生「麻酔もありますし、術後は痛くなってしまうので鎮痛剤も出します」
 
やっぱり粉砕するし、切開は切開なので術後は(人によりけりだが)かなり痛いらしい。私は前回の説明の時点で諦、いや覚悟していたので平静を保った。
 更にトントン拍子で話が進み、来週には左から抜歯ということに。しかし、あの綺麗なお姉さんが本当に掘削作業をするのだろうか?
 とりあえず今言えるのは私の反応を見て少し笑った先生がすごく可憐であったということだけである。


抜歯 本番

 
 麻酔の注射、嫌だな〜って思ってる全国の我が心の友!!突然ですが朗報です!
 麻酔の注射、実質ない!!

 と言うと勘違いされそうだが、ゴ●ゴよろしく麻酔なしで治療したわけではなく、麻酔の痛みがとにかく軽減されていた。
 麻酔を染み込ませたガーゼを患部に押し当て、10〜分くらい経つとほぼ感覚がなくなるので、そこに注射して完全に麻酔する。表面麻酔っていうらしい。

麻酔薬を歯茎(正式には歯肉と呼びます)に塗って表面の感覚を麻痺させる方法です。(中略)表面麻酔を行った後で注射をすると「痛みをとるための麻酔が痛い」がずいぶんとラクになるのです。

https://www.jda.or.jp/park/trouble/index23.html

 表面麻酔を開発した人に‪𝑲𝑰𝑺𝑺‬…♡したい。救われた命がここにあります。
 そんなこんだで、気持ち的にかなり余裕をもって施術の開始を待てた。ありがとう表面麻酔の人!
 麻酔がガッツリ効いた頃、先生が相変わらずの軽やかな声で、「じゃあ始めますねー」と言って器具を取り出してきた。
私(来るぞ……)
 実はこの時、本気でこの後レポを書こうと思っていたため、施術の様子を覚えておこうと意気込んだのは覚えている。覚えている、が、全く、初めの方の記憶がない。
 というのも途中で、
カンカンカンカン!!!ガンガン!!!ガリガリガリ、ガンガン、ゴッゴッゴッ…

イメージ画像 いらすとやさんより

刀鍛冶の方?
 
金床の気持ち入門編。麻酔のおかげで痛みこそないが、衝撃がすごい。何が起こってるのか確認しようにも、手術の様子が見えないようにと布を被せてもらっているせいで何もわからない。もしかして使ってる器具ってノミだったりしませんか?
 しばらくして、バキッッ!と明らかにしたら駄目な音がしたところで金床タイムは終わった。まだ顎の余韻がすごい。人力で顎関節症になるかと思った。
 次の行動を固唾を呑んで待っていると、
先生「フンッッ!!どっせいッ」
 先生のイメージが完全に筋骨隆々になってしまった。
 
おそらく手を突っ込んで砕けた歯を取り出したのだろう。先生の見た目のイメージに合わない逞しい掛け声が聞こえたのは幻覚だということにしたい。先生の力が強すぎて顎を持ってかれそうになったのも幻覚だ、そうに違いないよきっと。
 何回か私が軟弱すぎるせいで顎の位置を調整してもらったのだが、美女に顎をクイクイしてもらう、というご褒美シチュエーションが全然ご褒美じゃなかった。
 何回かゴリゴリと豪快に掘削され、最後にチクチクと縫われ、手術が終了。
 長いように思っていたが、実際の時間は20分程度だった。先生は凄腕だ。あと𝑷𝑶𝑾𝑬𝑹。
 麻酔と血止めで詰め込まれたガーゼのせいでうまく喋れないので、フガフガ言いながら先生による安否確認に答える。そして、今後の注意事項等全ての説明が終わったところで、
先生「あ、これどうぞ」
 
渡されたのは何か暖かいジップロック入りのもの。よく見ると、
バッキャバキャに砕けた私の歯だった。
 
まだほんのり温かいのが生々しい。更に、綺麗に3分割くらいになっているのが先生の腕の良さを物語っている。
母「臍の緒を出産記念に渡してもらうやつみたいやな!」
 実際、現在私の歯は臍の緒と一緒に仕舞われている。なんでだよ。


正直一番しんどい術後

 というわけで、私の美人お姉さんへの幻想は歯と共に砕けたものの、抜歯は問題なく終了。痛みもなかったので怖いものなしの無敵状態で病院を出た。
 異変が起こり始めたのは帰宅後数時間である。

私は、ジクジクと地味にキツイ痛みに苛まれていた。
 
 
痛い。地味に痛い。もんどり打って転がるレベルの痛みじゃないけど、どんな作業も痛くて集中できないし寝るのは辛いレベルだ。しかし、困ったことはそれだけではない。
 問題は夕食である。
 
痛みは鎮痛剤でなんとかなるとして、ご飯は食べられるのか。(一応普段通りに食べていいことにはなっている)
 実は縫合の影響で、口が半開き以下レベルにしか開かない。じゃあゼリーとかで済ませりゃいいじゃん、という話だ。だけどこの日の夕食はオムライス、口が開かないとかいう矮小な理由で食べないなんて勿体無い。
 特大の広告をして申し訳ないが、そんな私を救ったのがこのスプーンです!!

 無印のこのスプーン、丸い部分が小さい上に婉曲も小さく、大変口に入れやすい。親知らずを抜く人で、ゼリーはあまり…という人は是非揃えてから挑んで欲しい。これがあるだけで抜歯直後もご飯が食べられる。最高。
 こんなシチュエーションじゃなくてもこのスプーンは使いやすく、我が家では抜歯からしばらく経った今でも現役である。ヨーグルトが食べやすい。

 ご飯問題はこれでなんとかした。あとは就寝だが、これもしんどい。
 何せ、術部を下向きにした瞬間痛みが走るからだ。当然っちゃ当然だけれど、普段横を向いて寝る私にはとてもつらい。体が癖で勝手に横向きになる。
 どうしようもないので、タオルケットを巻いたももので体を両側から固めてミイラのように寝た。かけるタオルケットがなくなったのでお腹を壊した。
 
 最後に補足、この抜歯は夏休みのタイミングで行ったのだが、なんでそんなことをしたかというと、めちゃくちゃ腫れるからである。祖母曰く「アンパンマン」。鼻は腫れてないはずなんですけど…。
 
しばらくおたふく風邪のようになってしまい、ちょっと人前には出られなくなってしまった。途中から全てがめんどくさくなってマスクつけてスーパー行ってたけど。

 抜歯中の大きい悩みはここら辺だったと思う。これから抜く人は対策して挑むと楽かもしれない。ご飯を食べたい人は無印のスプーンを買おう。内容がうっっすいのは記憶があまりないからです。


抜歯生活のおわり

 抜歯は割と短かったように思う。そりゃこの後に年単位の矯正が待っているのだから、所詮一、二ヶ月程度の抜歯は短いのだが、それにしても抜歯の印象はほぼ施術中にしかない。どれもこれも、あの綺麗な先生が凄腕だったのが理由な気がする。

 軽く調べてみると、縫合で変なところまで縫われたり、麻酔が失敗したりするなど失敗談も多いようだ。普段使う部位というのもあって、多分抜歯での失敗は本当にキツイと思う。
 そのリスクを加味しても、口内炎ができなくなった、歯軋りがなくなった、歯茎の腫れがマシになった等々、メリットはいっぱい!是非歯並び悪いマンは検討してみてほしい。

  • 親知らずの抜歯は保険適用されます!

  • なるべく腕のいいお医者さんがもちろんいいです

  • 痛み止めは我慢しないで!

  • 麺類 スプーンで食べられるものは楽 ゼリー安定

  • 抜歯は八割掘削


抜歯すげーよ、やってみな!

 上は矯正前後の上から見た前歯のイメージ画像、抜歯ってすげー!
 ここまで読んでくれてありがとうございました!本当はアドカレだけのアカウントにしようと思っていたけど、意外と楽しかったので今後も好きゲーム紹介とか色々しようかなって思います。ここまで読んでくれた人たちがいい歯ライフを送れますように!



オマケ・矯正編

 私は今も矯正歯科に通っている。もう今は月一回程度でいいレベルの通院だが。やっぱり当然というか、歯を抜くだけじゃなくなく、矯正することで歯並びはよくなるのだ。
 オマケなので飛ばしていくが、矯正歯科に行って一番悲しかったのはご飯が制限されることである。黄金色のきなこが粉雪のように振り掛けられたお正月のお餅も、程よい塩とパリパリとした軽快な噛み心地の海苔も、ムチっと弾力があって食べ応え最高のパンも、全部禁止だ。今年も私は家族に出されたお雑煮を歯噛みして見ている。お雑煮を食べるあなたも見ている。いいなあそのお餅。
 飲み物も、清涼飲料水には特に気をつけないといけない。
虫歯になったら馬鹿にならない値段の矯正器具を外してもう一回付け直さないといけないから。その点、私はほぼお茶しか飲まないし大丈夫だと思っていたのだが、
矯正先生「okomeさん、普段何飲んでます?」
私「お茶だけです!(ドヤ) お茶しか持って行ってないですよ」
先生「その持って行ってるお茶、水に変えようか」
私「エッッ!?!?」

先生「茶渋がね、ついてるんだよ」

 今日も私は水筒にお水を入れて行っています。悲しいです。ジュースしか飲まないよ、って油断してる方、こうならないように…。


 あるかわからない次回!超長期戦と地味な制限で襲いくる矯正!私の運命やいかに!?お楽しみに。


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