三度目の殺人(20191026)

果たして、三度目の殺人に救いはあったのだろうか――。

是枝監督、福山雅治主演、役所広司、広瀬すず出演。
第74回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門への正式出品作品。

是枝監督は元来好きな監督ではあるが、この作品は見ていなかった。
「家族」をテーマにすることの多い是枝監督が「殺人」とはまた物騒な、と思ったのもあり・・・実際はこの作品と是枝監督が結びつきが弱く、ミステリーものかなと思ってあまり食指が動かなかったのが正直なところである。
そんなところ、たまたまテレビで放映されていたので見る機会を得た。

あらすじはざっとこうである。
「勝ち」にこだわる弁護士重盛(福山)は、解雇された工場の社長を殺した容疑で起訴されている三隅(役所)の弁護を担当することになる。三隅は自供しており、このままだと死刑が確定する。
「負け」が決まったような裁判だったが、無期懲役を実現するために重盛は動く。そんななかで、三隅と殺された社長の娘、咲江(広瀬)には以前からつながりがあったことを知る。そして咲江が重盛らにあることを話したことにより、新たな展開が生まれていく――。彼はなぜ殺したのか?本当に彼が殺したのか?「真実」はいったい何なのか?
そして、最後に重盛がある決断をし、物語は帰結を迎える――。

いろいろな感想がある作品である。モヤモヤして分かりにくい、傑作だ、司法制度の問題を突いている、等々。確かにキネマ旬ベストテン入りされていたが、周りの評判はそれほど聞かなかった。毀誉褒貶の激しい作品である。

個人的にはいろんな意見や感想、そのどれもが正しいと思うし、それが狙いだったのではないかと思う。
昔の映画は奥深さがあり、議論する楽しさもあった。しかし今の映画は一種の清涼剤のような、カタルシスを得て終わりの映画が多いと思う。「感動しました!」「とても泣きました!」というコメントを宣伝に使う映画などその象徴に感じてしまう。
今回の映画はそれに対してのアンチテーゼのように感じている。議論を求めているわけではないと思うが、映画はわざと色んなところに論点をばらまいて、それをスッキリ回収させない。それがこの映画の一番の思惑なのだと思う。それを福山雅治主演映画でやってしまうところが面白い。

そういうところを含めてこの作品のテーマは「真実とは」であると思う。
一つの事件、一人の証言、これを解釈するのは他人だということ。
つまり、「事実から”真実”を規定するのは他者」であり、それも他者の都合や思惑のもとに行われるということである。
要するに「真実はいつもひとつ」ではないということだ。コナン君には申し訳ないが。

今の世の中、物事をハッキリ白黒つけたくしたり、単純化させる風潮があるが、その結果として生まれてくるものが必ずしも真実とは限らない。手っ取り早く結論付けてしまうことで、色々な見方を失ってしまっているのではないかと思う。

だからこそ、この映画は何度か見て、咀嚼しながら味わう映画なのだ。
見るたびに新しい言葉が気になり、新しい”真実”が生まれるような気がしてならない。

たまには、苦労して映画と向き合うのもいいのではないだろうか。
それは、他者と向き合うこと、問題と向き合うことに通じているはずだ。


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それにしても、役所広司はすごい。今回は「役者をする役者」ってことを完璧に表現している。殺人者という役ではなく、この映画のメッセージを届ける役者として。

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