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静嘉堂@丸の内「特別展 明治美術狂想曲」感想と見どころ


1.概要

静嘉堂@丸の内で開催されている「特別展 明治美術狂想曲」を観てきました。先週の「重要文化財の秘密」に続いて明治美術三昧です(笑)。

江戸幕府が倒れ、西洋文明が流入した明治時代は「美術」が産声を上げた時代でした。
政治体制・身分制の改革、西洋風の建築やファッションの普及など、社会の面でも、文化の面でも、人々の生活と意識に大きな変化がもたらされました。
「美術」という言葉が誕生し、博覧会が開催され、美術館が初めて設置されたのもこの時代です。油彩画が普及し、欧米好みの華麗な工芸品が輸出され、博覧会では絵画や彫刻が並びました。社会全体が西洋化する一方、古美術品の再評価や保護、日本美術史の編纂も、明治時代の重要な出来事です。

本展では、現代の「美術」につながる諸制度・文化が生まれた明治時代を立脚点として、静嘉堂のコレクションを展観します。初めて重要文化財に指定された近代美術の一つである橋本雅邦「龍虎図屛風」、論争を巻き起こした黒田清輝「裸体婦人像」など、岩﨑家とゆかりが深く、当時としてはセンセーショナル、しかし現代でも色あせない明治美術の魅力をお楽しみください。

※国宝《曜変天目(稲葉天目)》も出品いたします。

展覧会公式HPより

2.開催概要と訪問状況

展覧会の開催概要は下記の通りでした。

【開催概要】  
  会期:2023年4月8日(土)~6月4日(日)
開場時間:10:30-17:00(入館は16:30まで)
     金曜日は18:00(入館は17:30)まで
 休館日:月曜日
一般料金:一般 1,500円
     大高生 1,000円
     障がい者手帳をお持ちの方(同伴者1名〈無料〉を含む) 700円
     中学生以下無料

展覧会公式ホームページより

訪問状況は下記の通りでした。    
【日時・滞在時間】
土曜日14:00~入場の日時指定チケットを購入して伺いました(予約時に各入場枠の残数が表示されるようになっており、空いてる時間帯を把握できるのが親切です。美術館スタッフの方のご対応も丁寧でした)。コンパクトな展示で30分ほどで一通り見終えることができました。

【混雑状況】
割と空いていてゆったり鑑賞することができました。

【感染症対策】
入り口で手指の消毒がありました。

【写真撮影】
エントランスの展示作品のみ撮影可でした。

【ミュージアムショップ】
なかなかファンキーなラインナップでした。どういったところがということは後ほど触れたいと思います。

3.展示内容と感想

展示構成は下記の通りでした。

第1章 「美術」誕生の時 -江戸と明治のあわい
第2章 明治工芸の魅力 -欧米好みか、考古利今かー
第3章 博覧会と帝室技芸員
第4章 裸体画論争と高輪邸室内装飾

出品目録より

明治時代の美術品が時代を象徴するトピックごとにまとめて展示されていて、様々なジャンルの作品を楽しむことができました。美術という概念の導入に始まり、「ジャポニズムの流行」、「好古利今」といった潮流、「内国勧業博覧会」、「帝室技芸員」などの制度の整備、また「腰巻事件」といったトラブルを経て「美術」がどのように日本社会に根付いていったかが伝わる内容でした。

「好古利今」は「明治時代以前の美術を鑑賞し制作に役立てる」(展覧会キャプションより)という考え方とのことで、明治初期からの行き過ぎた日本美術軽視とそれに対する揺り戻しを経た上で伝統的な工芸品が存続していることが分かり、興味深かったです。「明治工芸には精緻な工芸技術による作品が多く、その超絶技巧は江戸時代に培われた技術が底流にある」(展覧会キャプションより)という解説がありましたが、第2章、第3章の展示品を見ていると明治超絶技巧は一時の過剰な技術偏重の傾向ではなく、日本文化の連なりの中で捉えられるものということが伝わりました。「帝室技芸員」に任命された作家を見ていると当時は卓越した技術が正当に評価されていたことが分かったのも面白い点でした。

「腰巻事件」とは、黒田清輝が白馬会展に出品した「裸体婦人像」が公序良俗に反するとして下半身に布を巻いた状態で展示された騒動とのことで、事の顛末はもとより名称のショボさも黒田にとっては許しがたかっただろうなと思ってしまいました。とかなんとか思いつつ展示室を出てミュージアムショップを回ったところ、やけに存在感のある図録が目に飛び込んできました。よくよく見てみると「裸体婦人像」の表紙に「腰巻事件かくありき!!」と書いた帯が…。製作者のユーモアが炸裂しており、ここまでやれば黒田も笑ってくれるのではと愉快な気分で会場を後にしました。

4.個人的見どころ

個人的に印象に残った作品は下記の通りです。

◆河鍋暁斎「地獄極楽めぐり図」1869~1872(明治2~5)年 静嘉堂文庫美術館
今回の目当ての作品の一つでした。商家の旦那から14歳で亡くなった娘の供養のために制作を依頼されたという背景があるそうです。仏様も閻魔大王も鬼も人面猫(?)も混在した非常に賑やかな世界が描かれていて、「この世もあの世もつながってるから悲しいことなんかねーぜ!!」といった店主、そして亡くなった娘さんへのエールが込められているように思いました。描き込みの細かさもさることながら、扇形の御簾や骸骨の蠟燭台などエッジの立ったデザインセンスもインパクトがありました。当時の社会の風俗であったり死生観が表れているという点ではまさに重要文化財なのではと思うのですが、いかがでしょうか?

なおミュージアムショップでは本作を完全再現した画帳がグッズとして販売されていました。本編はもとより柴田是真による外箱のデザインまで再現されていて、美術館渾身の一作だと思いました。

原寸の80%縮小複製『とことん鑑賞 地獄極楽めぐり図』
ミュージアムショップにて撮影

◆柴田是真「柳流水蒔絵重箱」江戸~明治時代 静嘉堂文庫美術館
一つの場面が色分けされた五段の重箱に描いており、ドラマティックな印象を受けました。琳派の流れを汲んでいるのではないかと思いましたが、さらにメタリックなカッコよさが加えられているように感じました。

◆海野勝眠「天燈鬼・鉄鉢鬼・龍燈鬼」1901(明治34)年 静嘉堂文庫美術館
配置が絶妙で思わず勢ぞろいしているところを撮影したくなります!日本人って昔からフィギュアが好きだったんだな~と思わされるものがありました。

海野勝眠「天燈鬼・鉄鉢鬼・龍燈鬼」1901(明治34)年 静嘉堂文庫美術館

◆菅原直之助「刺繡額 鞍馬天狗」1907(明治40)年頃 静嘉堂文庫美術館
目の前に鞍馬天狗がいるのではないかと思うような迫真感でした。思えばお面の髪の毛や衣装、鳥の羽のなどの質感の表現は絵具より糸の方が向いていそうで、刺繍絵にしか表せない世界があると気づかされました。

菅原直之助「刺繡額 鞍馬天狗」1907(明治40)年頃 静嘉堂文庫美術館
※グッズの絵ハガキを撮影

5.まとめ

作品数は控えめでしたが、ストーリーが立った展示で楽しめました。随所にスタッフの遊び心を感じるのも好印象でした(笑)。

6.延長戦

静嘉堂@丸の内を出た後、銀座まで足を延ばしてSASAI FINE ARTSで開催されている「花のうてなに座る 石川幸奈・福田季生・宮﨑優」を観てきました。宮崎優さんのファンなので生の作品を見ることができて眼福でした!レースの立体的な描写にうっとりです。

※会場配布のポストカードを撮影



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