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東京ステーションギャラリー「佐伯祐三 自画像としての風景」感想

東京ステーションギャラリーで開催されている
「佐伯祐三 自画像としての風景」を観に行きました。

展覧会の概要と訪問状況は下記の通りです。

大阪、東京、パリ。3つの街で、画家としての短い生涯を燃焼し尽くした画家、佐伯祐三(1898-1928)。2023年に生誕125年を迎える佐伯の生涯は、多くのドラマと伝説に彩られています。彼が生み出した作品群は、今なお強い輝きを放ち、見る人の心を揺さぶらずにはおきません。
1898年に大阪で生まれた佐伯祐三は、25歳で東京美術学校を卒業し、その年のうちにパリに向かいます。作品を見せたフォーヴィスムの画家ヴラマンクから、「このアカデミック!」と怒声を浴びたことが、佐伯を覚醒させます。2年間の最初のパリ滞在中に、ユトリロやゴッホらからも影響を受け、佐伯の作品は大きな変貌を遂げていきます。1年半の一時帰国を経て、再渡欧したのは1927年のこと。このとき佐伯は29歳になっていました。パリに戻った佐伯は、何かに憑かれたかのように猛烈な勢いで制作を続けますが、結核が悪化して精神的にも追い詰められ、1年後にパリ郊外の病院で亡くなりました。
佐伯にとってパリは特別な街でした。重厚な石造りの街並み、ポスターが貼られた建物の壁、プラタナスの並木道、カフェ、教会、さらには公衆便所までが、傑作を生み出す契機となりました。また、多くの画家たちや作品と出会い、強い刺激を受けたのもパリでのことです。一方で、生誕の地・大阪、学生時代と一時帰国時代を過ごした東京も、佐伯芸術を育んだ重要な街でした。本展では3つの街での佐伯の足跡を追いながら、独創的な佐伯芸術が生成する過程を検証します。

展覧会公式ホームページより

【概要】  
  会期:2023年1月21日(土)~4月2日(日)
 休館日:月曜日[3/27は開館]
開場時間:10:00~18:00
     ※金曜日20:00まで開館
     ※入館は閉館30分前まで
  料金:一般1,400円、高校・大学生1,200円、小中学生以下無料
     ※障害者手帳をお持ちの方は100円引き(介添者1名は無料)

展覧会公式ホームページより

【訪問状況】    
   日時:日曜日午後
 滞在時間:14:00~15:30
 混雑状況:次々にお客さんが来てましたが
      混雑しているというほどではありませんでした。
感染症対策:入口で検温、手指の消毒
 写真撮影:不可

展示構成は下記の通りでした。

プロローグ 自画像
1ー1 大阪と東京:画家になるまで
1ー2 大阪と東京:〈柱〉と坂の日本―下落合と滞船
2ー1 パリ:自己の作風を模索して
2ー2 パリ:壁のパリ
2ー3 パリ:線のパリ
3 ヴィリエ=シュル=モラン
エピローグ 人物と扉

出品作品リストより

佐伯祐三というと「夭折の天才画家」というイメージから儚げな作風を想像していったのですが、実際の展示を見ると怒涛の制作ペースと作風のスクラップ&ビルトの速さに圧倒されました。まさに「描かずにはいられない!」という強烈な創作意欲を感じました。

佐伯祐三がフォービズムの画家・ヴラマンクに作品を見せに行ったところ猛批判されたというのは有名な話ですが、その後新たな画風を模索して度々ヴラマンクのもとを訪れていたということは初めて知りました(最終的には「色彩は優秀」と褒められたとのこと、ヴラマンクも案外面倒見のいい人だったのか?)。壁が立ちはだかると、逃げるのではなく正面からぶつかっていく人だったんだなと思うエピソードでした。

展示全体を通して、佐伯祐三は壁を乗り越えることより壁にぶつかること自体を望んでいたのではないかという印象を受けました。そう思うと一時期建物全体よりも壁を正面から見た絵ばかり描いていたのも象徴的に感じられます。「自画像としての風景」という展覧会タイトルが示す通り、風景を描くという行為の中で壁にぶち当たってへこんだり傷を負ったりすることによって自分自身の輪郭をつかもうとしていたのかなと思いました(顔を塗りつぶした自画像や作風の移り変わりの速さを見ると、少々パンチドランカー気味だったのではないかという気もしますが…)。

佐伯祐三の作品はパリの街並みを描いたものが多いことからおしゃれでアンニュイな雰囲気をイメージしていましたが、むしろ荒々しさや勢いが印象に残りました。やはり作家の生き方が表れていたように思います。作品個別の感想は下記の通りです。

◆佐伯祐三「立てる自画像」1924年 大阪中野島美術館蔵
私がパンチドランカー気味だったのではと思ってしまった絵です。見失ってしまった自分を最終的に見つけたと思えたのか気にかかるところです…。

◆佐伯祐三「壁」1925年 大阪中野島美術館蔵
壁の絵を集中的に描いていた時の作品で、キャプションによると自信作だったようです。署名すらデザインの一部になっているようで、タイポグラフィーへの興味も強かったのかなと思いました。そうであればグラフィックデザインの分野で活躍していたとしてもおかしくなかったような気もしますが、絵の具の厚塗りであったりひっかいてはがしたりといった絵肌へのこだわりを見るとやはり一点物の絵画であることが大事だったんだなと感じました。

佐伯祐三「壁」1925年 大阪中野島美術館蔵
※グッズの絵ハガキを撮影

◆佐伯祐三「オプセルヴァトワール附近」1927年 和歌山県立近代美術館蔵
この頃の作品は画面全体を線が埋め尽くしていることから「線のパリ」と紹介されていましたが、私には張り巡らされた線が有刺鉄線のように見えました。ポスターや広告の文字がびっしり描かれた作品も情報の洪水に飲まれているようで、いずれも閉塞感や焦燥感のようなものを感じてしまいました。線を描いていても表現されているのは物体というより空気というか…。

◆佐伯祐三「煉瓦焼」1928年 大阪中野島美術館蔵
こちらはパリを離れ写生旅行に出かけた時の作品とのことで、また画風が一新されています。小屋の中で燃えている炎の力強さが伝わるようで、こちらは一転して生命力に溢れたものが感じられました。

展覧会の趣旨に反するかもしれませんが、私は風景画よりもシンプルながらモデルの特徴が伝わる人物画に好感を持ちました。風景を描く中で自分と向き合うよりも、案外人と向き合っていた時の方が肩の力を抜いて描けていたのかもしれません。

◆佐伯祐三「米子像」1927年 三重県立美術館蔵
奥さんを描いた作品なのですが、迷いのないキレのある描線が印象に残りました。奥さんの芯の強さが表れていて、妻への愛というより信頼が伝わる作品でした。

◆佐伯祐三「靴屋(職人)」1927年 大阪中野島美術館蔵
職人の頑固で実直な人柄が一発で伝わってきました。

グッズコーナーで「かわいい絵だな、展示されてたっけ?」と思った作品があったのですが、後期展示の「人形」という絵でした。今回見れなかったのは残念だったのですが、とりあえずクリアファイルはゲットしてきました。

鮮烈な生き様に、「画家というのは選ばれた人というより選んだ人なんだな」と改めて思わされる展覧会でした。会期まだありますので、興味ある方は是非!

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