松坂屋美術館「ミュシャ展 マルチ・アーティストの先駆者」感想と見どころ
1.概要
松坂屋美術館で開催されている「ミュシャ展 マルチ・アーティストの先駆者」を観てきました。ミュシャの展覧会は過去3回ほど観に行きましたが、今回もまた新しい切り口でとても楽しめました。
2.開催概要と訪問状況
展覧会の開催概要は下記の通りです。
訪問状況は下記の通りでした。
【アクセス】
松坂屋自体が地下鉄名城線矢場町駅と直結になっています。私は上前津駅で降りて歩いたのですが、一直線で迷わずに済みました。
【日時・滞在時間・混雑状況】
祝日の13:30頃訪問しました。それなりにお客さんは入っていましたが、展示スペースが広くゆったり鑑賞できました。映像コーナー、グッズ売り場も回って15:00頃会場を後にしました。
【写真撮影】
全点撮影可能でした。
【グッズ】
アクリルチャームなどおしゃれなものが揃っていました。ポストカードはやや少なめでした。
3.展示内容と感想
展示構成は下記の通りでした。
ズデニェク・チマル博士はミュシャ作品の熱心なコレクターで、ミュシャゆかりの人に直接会いに行くこともあったそうです。チマル・コレクションで構成される今回の展覧会は有名なポスターのほかにも油彩画、水彩画などのオリジナル作品、またミュシャの手紙や制作の資料に用いた写真なども展示されていて、今まで知らないミュシャの側面が見える貴重な内容でした。
第1章から第3章は書籍の表紙、挿絵から始まり、ミュシャの代表作であるポスター、そしてパッケージデザインなど、展覧会のテーマ通りミュシャのマルチ・アーティストとしての側面を伝える展示でした。有名なポスターを改めて見ると輪郭線の強弱のつけ方であったりベースになる色を決めているところであったりと、新しく気が付くことがありました。挿絵、ポスターともお題があって制作するものですが、都会的なもの、東洋的なものなど多岐にわたり、あらゆるリクエストを消化してミュシャが画風を拡げていった様子が伝わりました。創作図案集も展示されていましたが、音符を連想させる形状のものもあり、ミュシャ作品の心地よさは音楽につながるものもあるのかなと思いました。ミュシャ作品が各種商品、パッケージに水平展開されたことを示す展示も見どころでした。時計、壺など立体作品まで制作されていたのは意外でした。ただカレンダーは日付が小さすぎて読めず、こうなるとミュシャが商品に絵をつけているというより人気が沸騰しすぎてミュシャの絵に何かが付随している感じだなと思いました(笑)。
以降の章では人間としてのミュシャに触れられる内容でした。第4章では初恋の人のイニシャルを象ったデザイン原画、学生時代のノートに記した素描など、ミュシャの原点が感じられました(授業中に「オレが将来有名になったらこんなサインを書こう」とか考えていた様子を想像すると微笑ましいものがあります)。その一方でモデルや娘を作品の構図通りに映した写真からは幻想的なミュシャの作品の骨格には正確なデッサンがあることが分かり、興味深かったです。
第5章では挿絵の原画、オリジナルの油彩画、水彩画など多彩な作品が展示されていて、とても見応えがありました。オリジナル作品はエッジの立ったものがあり、ミュシャがパブリックイメージを維持しつつも異なる画風を模索していたことが伝わりました。その一方で友人に贈った油彩画、人々の生活を描いた素描など素朴な作品も含まれており、絵画とはミュシャにとって自分を伝えるものであったり、人と触れ合うものでもあったんだなと思いました。
4.個人的見どころ
今回初めて見る作品も多く、特に下記が印象に残りました。
◆アルフォンス・ミュシャ「メデイア」1898年 チマル・コレクション
サラ・ベルナールの演劇ポスターの中でも一番中二心をくすぐるものがあります(笑)。
◆アルフォンス・ミュシャ「花」(ホーム=デコ社)1894年 チマル・コレクション
◆アルフォンス・ミュシャ「パリスの審判」1895年 チマル・コレクション
ミュシャの作品というと流麗な曲線に縁どられた装飾的で華やかなものを思い浮かべますが、この2点は古典絵画のような趣がありました。「花」はパステル画のような淡い色彩で、いわゆるミュシャ様式とはまた異なる神秘性を感じさせました。「パリスの審判」はクリアな色彩で人物、背景とも立体的に描かれていて、ミュシャがデザイン性だけでなく画力という点でもずば抜けていたことが伝わりました(オリエンタルな額縁もインパクトがあります…)。
◆アルフォンス・ミュシャ「ヨハン・バウアーの肖像」1882年 チマル・コレクション
◆アルフォンス・ミュシャ「カタリナ・バウアーの肖像」1882年 チマル・コレクション
ミュシャが22歳の時に描いたとされる肖像画で、黒のシックな表現と写実的な描写が印象的でした(こちらも黒に金の装飾を施した額縁がカッコよかったです)。ただこれだけの技術がありながらその後肖像画家としてブレイクしたわけでないことを考えると、画家というのは技術だけでなくオリジナリティを発揮するまでが勝負なんだなと改めて感じさせられました。
◆アルフォンス・ミュシャ「鏡を持つ少女」1898年 チマル・コレクション
金色の月、少女の黒髪と赤い髪飾りのコントラストの強烈さなど、クリムトを思わせる退廃的な魅力がありました。ポスターなどで独自路線を切り開きつつも、ミュシャも同時代の世紀末芸術の影響を受けていたのかなと思わされました。
◆アルフォンス・ミュシャ「ヒナゲシ」1904年 チマル・コレクション
こちらは現代のデジタルアートにも通じる不思議な感覚の作品でした。植物が毒々しさすら感じさせ、ミュシャの意外な一面を見た気がしました。
5.まとめ
ミュシャの多彩な側面を観ることができ、ますますファンになってしまう展示でした!会期残りわずかですが、興味のある方は是非!!
余談
美術館に併設されている「松坂屋資料館」も見学してきました。今回は「女性経営者・宇多とその時代」という企画だったのですが、そこに高田郁さんの色紙が。
松坂屋呉服店10代目の当主・宇多が「あきない正傳」の主人公・幸のモデルだったそうです。「あきない正傳」は全巻読破したので得した気分でした(番外編の惣二のエピソードは泣けます!)。
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