【小説】いつも傍に居てくれる君へ6

放課後になり、楓が雫に詰め寄った。
移動教室等で時間が作れなかったことと、五分・十分では解決しないと踏んだ楓が我慢をしていたのだ。

「あいつは何なの?」

「僕にもわかんない」

「でもお昼に二人で席を立ったでしょ?」

「いや、それ割とよくあるよね?」

問題勃発を防ぐ為、雫は闖入者が現れるととりあえず連れ出すことにしている。
緊張で何も喋らなかったり、逆にやかましく騒ぎ立てたり、と何かしらの問題行動を起こすことが多いのだ。
その点陽介は珍しく、自然に入り込んで来たので違和感を覚えたのかもしれない。

「…………そういえばそうかもしれない」

「でしょ?」

「でも一緒に戻ってくるのは初めてよ」

「楓が食べようって急かすからだよ」

「……私のせいなの?」

「いや? 悪いのは全部岩城ってヤツだと思うけれど」

「そう、よね……」

責任転嫁完了。
実際に邪魔だったのは間違いないので、この表現は間違いではないかもしれないが、雫は見事追求から逃れた。
こういう素直な点は本当に助かる、と帰り支度をしながらぼんやり考える。

―――ヴヴッ、ヴヴッ

マナーモードにしていた携帯が震える。
雫はとても嫌な予感がしたので無視を決め込む。

「………………」

「出ないの?」

楓に問われれば仕方ない。
携帯の液晶には『岩城』と陽介の名前が記され…………ていたので、すぐに切る。
一仕事終えたかのように「ふぅ」と雫は一息入れた。

「よかったの?」

「うん、重要だったらまた掛かってくるからね」

「そっか」

「それじゃ僕は帰るよ」

「うん、じゃぁね、雫」

「気を付けてね楓」

普段ならもう少し先まで一緒に歩くのだが、今日は友達と一緒に本屋と雑貨屋廻りの用事があった。
ついでに言えば、もうこれ以上追加で新しい問題はいらない。
いくら対人関係に大らかな雫でも、今日はもうお腹一杯。
是非とも厄介ごと…………陽介と楓とはおさらばしたかった。



―――ダンッ!

机を叩く音が周囲に響き渡る。
何事かと衆目が向く中、その視線の先には岩城 陽介が居た。
場所は一年二組、時間は昼休憩になったところ。
いくら彼が昨日一度このクラスに来たとは言え、騒ぎを起こすのはまた話が違うだろう。

「何で出ない?」

「あぁ、昨日は用事があってね」

「だったらそう言ってくれよ。
 こちらはずっと待ってたんだ」

「そう、それは悪いことをした。
 でも自分の都合を押し付けるのはおかしくないかな?」

叩かれた机を気にも留めず、シレっとした顔で受け流す雫。
別におかしなことをしてるわけでもなし、文句を言われる筋合いはない。
事前に約束でもしていたら別だろうが。

「…………そうだな、すまん。
 でも、できれば何か反応が貰えると助かる」

「気を付けるようにするよ」

「そこで『もうしない』って言わないところが皇らしいな」

「あんたうるさい」

「あ、すまん。気付かなかった」

割り込んできた楓への返答が『それ』とは思いやられる。
人に怒る前にもう少し良いところを見せたらどうか、と雫はそんなことを思っていた。
雫に連絡を取ったところで、どうせ目的は楓なのだから。

「帰れバカ」

「俺へのアタリきつくね?」

「自業自得じゃないの」

「おっかしいなぁ……変なこと言った覚え無いんだけど」

「押しつけがましい」

「ぐぅ……」

言い負かされる陽介を眺めながら弁当を広げる。
雫の中ではいつもと同じ光景が広がっていた。
いや、少し違ったのは陽介の手に弁当が無かったことだろうか。

「学食ならあっちだよ?」

「……二人も行かないか?」

「「いや、いい」」

「そっか……」

トボトボと一人教室を出ていく陽介。
残された二人は見送ることもなく食事を始める。
ちなみに楓は総菜パンを開けていた。

「何でまたあんなのに詰め寄られたの?」

「昨日掛かってきた電話無視したからだよ」

「帰り際の?
 え、それだけで机叩かれたの?」

「メールか何かで返信くらいしとけば良かったかなって今なら思うけどね」

「めんどくさいヤツ……」

それっきり二人は黙って食事を続ける。
そんな中、カバンに入れっぱなしだった携帯にひっそりと着信が刻まれていた。


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