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南暑寒岳

日程:2002年9月1日
メンバー:Kさん、Fさん、ぼく

 土曜日、天気予報は、雨。
Kさん、Fさんと暑寒別岳を主峰とする増毛山塊へと出かけてきました。
 めざすは、南暑寒岳1,296m。(みなみしょかんだけ)
ぼくたちは、この秋に計画している日高ペテガリ山行の打ち合わせも必要でもありました。
 すでに札幌のS口さんも前夜から登山口で泊まり待っていました。
久しぶりの再会。
日頃の激務の中で、春から初めて休暇がとれたと云うS口さんは、そのまま登らずに登山口に待機するとのことで、別段、それらはぼくたちにとって予想するに簡単なことでもありました。
そのくらい、ぼくたちというのは、以心伝心なのでしょうかね。

 ポツポツと空が泣き出す中、雨具を着て、3人で登山口から続く林道を歩いてゆくと吊り橋が現れ、そして登山道はぺちゃぺちゃドロドロの山路となって続いていきます。
やがて、その路上から膨大な水塊が放物線を描く水瀑「白竜の滝」をのぞき込む地点を過ぎ、再び歩を進めると、トリカブトの紫花の群落を過ぎて、2つめの吊り橋を渡ります。
ここから濃霧に包まれた尾根とその向こうにある台地へと滑りやすい路を登っていくと、その台地は湿原へと移ろい、快適な一本の木道に迎えられます。
 どこまでもどこまでも白い霧の中に、果てなく果てなく寂しい光景が浮かんでいます。
ここが、山岳高層湿原である「雨竜沼湿原」(うりゅうぬましつげん)です。
大小百数十の池塘が点在し、整備された木道が続いていきます。
秋の群青色をヨコヤマリンドウが、猫じゃらしのようなチシマワレモコウが、池の中にはミツガシワが、枯れ色の湿原景観の中に、小さな命を彩っています。
 湿原では、水たちがじっとたまり、流れに遊び、深くたたずみ、見えない底で何かをささやき、仲良くつながり往き来し、ときに沈み、まさしく湿原というのは「水たちの揺りかご」のように思えます。
 こうして、ただ白い世界の中にいると、気持ちも白く沈殿してきます。
左耳に風の声がします。
・・・・風を聴け・・・
そんな気持ちになってきます。

 何だか、心地よくなってきます。
 頂上まで行く気力が以心伝心でなくなっていることを確認しあえるぼくたちは、約900m地点にある展望台から湿原が広がっているだろう空間に何も望めないまま、ゆっくりと休憩をとって、気持ちのまま来た道へと下山しました。
 再び、てくてくと木道に、自分の足音をカタカタと響かせてゆきます。
 湿原からさよならして、沢合いの森の中へと降りていきます。
 行きの車中でデジカメを購入することに一心だったKさんは、すでに魅力的なキノコたちを採ることに今度は心を奪われ、眼を輝かせているのでありました。

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