利尻岳 北稜
利尻岳北稜
日程:1991年3月21〜23日
メンバー:Kさん、Fさん、ぼく
3月20日
午後からものすごい吹雪の中、網走から稚内へと一人車を走らせる。やっと稚内に近づいてからFさん宅への入口の目印「メ◯マ」という怪しいホテルかなんかの看板を探す。21時30分頃、吹雪の中、懐中電灯で合図してくれたFさんを発見。
Fさん宅でKさんと合流。これからの予定や山の話をする。
明日、吹雪は止むだろうか。止んでも波は高いだろうからフェリーは欠航するだろうか。
(冬季間は稚内〜利尻は1日1往復8時30分のみ)
なるようになるさ、と床につく。
3月21日
朝6時30分起床。隣で寝ていたKさんの腹筋トレーニングで目が覚める。Kさんは気合が違う。
晴れだ。しかし、まだ風は収まっていない。
フェリー乗り場に電話で確認、出航するとのこと。3人でカップラーメンの朝食後、Fさんの知り合いにターミナルまで送ってもらう。外は吹きだまりの街中とシャリシャリと聞こえる除雪車が働いている朝である。
フェリーターミナルは前日欠航したせいか、とても混雑している。片道1850円の乗船券を買い、乗り込む。
酔い止めを飲んでも効果がないくらいの揺れに閉口。閉口したいが胃が上がってくる感じ。船室で横たわっていて見る窓に海面が見えるだろうか。船が木の葉のような、それくらい揺れた。
10時50分、ようやく鴛泊に着いた。利尻岳はほとんど見えない。
近くの交番に計画書を出して、てくてく市街地を歩いて神社へ向かう。
神社の横を通り、除雪されていない北麓野営場への道を山スキーをつけて進む。12時30分、野営場を通過。その後、小沢をつめてゆくが、東寄りに過ぎてしまい台地に出てしまう。すぐに方位を南南東にとる。
午後の日差しの中、雲も切れてきて前方に北稜が見え隠れする。真っ白な斜面である。
森林限界の標高約500mを超えてから北西風が強くなってくる。
クラストしてきた斜面をつめてゆき、雪庇を利用してエスパースゴアテックステント2〜3人用を張る。15時45分。
天気図をひいて、コォーと音をたてるストーブが暖かいひととき。
Kさんが宮沢りえの話をしだす。
18時定時、礼文島に暮らすHさんの奥様と無線交信成功。
移動性の高気圧の勢力に期待しつつ、シュラフにもぐり込んだ。
3月22日
4時起床。テントの周りの除雪から始まった。
晴れだ!マイナス10℃以下、かなり寒い。
6時30分出発。晴れている稜線に雪煙がたなびいている。すぐにスキーは使えなくなり、アイゼンに履きかえる。
標高700mくらいからカリカリの雪面状態である。長官山から伸びる北稜へ出るのにジグザグにステップを切ってゆく。風が強い。稜線上に出るとさらに西風が強く、耐風姿勢をとりながら少しずつ進む。軽いぼくなんかちょっとした弾みで宙に飛ばされそうになるくらいだ。
8時50分、幻日を見た。輝く太陽かと思ったら、それは本当の太陽ではなく青空に映ったショーだった。
9時30分、長官山に着くも避難小屋は雪に埋もれていて確認すらできない。それほどの積雪量なのである。利尻岳のピークがばっちり見える!
素晴らしい、真っ白なのだ!
山腹をトラバースしてコルへ出ると、風の通り道であり、顔が痛い。風も乱れている場所。標高約1400m付近で風をやり過ごすためツェルトを被って風の収まりを待つ。
10時30分から1時間くらいした頃、うとうとしだしていたぼくたちにシュルルルと上の方から音がした。あの同じく船で渡ってきた単独の方が今、東稜をやってピークを踏み、ここへ降りてきたのだった。
「今、頂上は無風だよ」と言って、130cmのショートスキーで華麗なシュプールを残して下りてゆくその姿は、3人にとって神様に見えた。ツェルトを撤収して、ピークをめざす。
もし天候が急変し、この辺りで迷うと大変なのっぺりした斜面だ。慎重にルート旗をつけてゆく。右側は切れた断崖になっている。高み高みへとつめてゆく。
小さいルンゼ状を通り、東側から回りこんで、ようやく頂上!13時15分。
本当に風がない。眺望はすべて真っ青な海。眼下には利尻島の海岸線が円になる。聳え立つ真っ白で巨大なローソク岩。
3人で大喜びする。利尻のピークは本当に「てっぺん」という感じがする。真っ白な頂上を踏みしめた。
13時45分、下山開始。慎重に下りる。ひけ腰のぼくはKさんにいろいろ教わる。ルート旗を回収しながら、長官山から下りはゆっくり楽しみながら下りる。
礼文島も軍艦か空母のように横たわっている。
Kさんが帽子を風に飛ばされ、沢まで追いかけていった。
もう春の夕方だった。
15時45分、B.C到着。無線交信成功。泊。
3月23日
5時起床。静かな夜だった。除雪から始まる。スコップで除雪中、Fさんの大事なテントを傷つけてしまった。ごめんなさい。
今日も快晴。礼文はもちろん、樺太まで見える。
7時40分、B.Cを撤収して出発。
シールを外して、昨日の神様を思い出して滑ってみたが、転ぶだけ。安全第一、転ばぬよう滑る。すぐに左の沢に下りて、沢を使ってゆく。ポン山西麓へ向かう。
登るときには見つけられなかった甘露泉水を見つけた。ザックを降ろしてひとときを過ごす。コーヒーを沸かす。
最近、何かにつけ「かんろ、かんろじゃ」というEさんにおみやげとして水筒に水をたっぷり入れた。
9時15分、再出発。途中、スノーモービルのトレースに乗っかって快適に滑る。
振り返って見る利尻岳は青空の下、まぶしく見え、下山したぼくの心に限りない充実感を与えてくれた。
10時15分、フェリーターミナルに着き、Fさんとカレーライスを食べた。下山後にはカツ丼を食べることを常としているKさんは別の食堂を探しに出て行った。
その後、おかだやというみやげ屋で雑談してから帰路のフェリーに乗った。あの単独、東稜、ショートスキーのカッコいい神様も乗船されていて、少しだけ話をしてくれた。
フェリーは旅立ちの季節でもあり、希望を胸に島を後にする人たちへの紙テープがたくさんなびき、その向こうに太陽の日差しを一杯に浴びた白い秀峰の利尻岳が輝いていた。
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