サクラマス masu salmon
ーサクラマスとの出会いー
しばらく雨が降っていない9月中旬、晴れの午前中、流程87kmの河川の上流域へ魚の観察に行きました。
まだ、ここまではサケマスたちが遡っては来ていないよね、なんて思いつつ偏光グラス越しに川面を見下ろして観察してみると、川岸の浅瀬に大きな魚影が数匹、くるりくるりとしているのが見えました。
サクラマスだ!
サクラマスはヤマメの降海型、生まれて2年目の春に、銀色の身体となって海をめざし、数年、海で成長してから産卵のために川にやってくるのです。
春の季節に海から川に入り、淵などに身を潜め、めぐり、秋にかけて川の上流域へと遡上します。
ぼくの服装は、カーキ色のジャンパーにモスグリーン色の胴付き姿。
そっとそっと川岸へ近づいてみます。
体勢は寝ころびながら、じりじりと匍匐前進をします。
泥だらけになっても構いません。
手には2003年に発売されたコンデジCanon IXY200aに、水中ハウジングをかぶせたもの。水中のサクラマスの写真を撮れるかしら。
頭さえ上げずに匍匐前進をしていたからなのか、川岸の浅瀬に3匹はいると思われるサクラマスたちは、どうやら逃げません。掘り作っている産卵床があるからでしょうか。
そーっと、両手を水中に伸ばしてシャッターを切ってみると、そこそこに写っています。
産卵床にいるメスの後ろ側から撮影してみました。
大きな尾びれ、とがった尻びれ、斑点も確認できます。
サクラマスの尾びれには斑点があったのですね。
上流側には、婚姻色で薔薇色に染まったオスの姿が見えます。
メスが尾びれを使って、産卵床を掘っています。
ヒトの手ではシャベル数回分かと思われる産卵床を、メスは数日かけて掘り続けます。
やはり、石や砂礫のサイズ、伏流水など様々な条件が必要なのでしょうか。
サクラマスは水の匂いを覚えているのでしょうか。
懸命に尾びれを使って掘っています。
その傍らには、大きなオスの姿。
3匹に見えたのは、メス、強いオス、弱いオスだったようです。
メスを見守りながら、他のオスが侵入してこないように、強いオスはパトロールしています。
オス同士の攻撃は、すばやく、そして、ときに口で噛み合うほどの力強さと勇ましさです。
だんだん水中に入れている手がかじかんできました。伸ばしている腕も痛い。
きっとこの姿、もし別の人に見つかったら、川岸で人が倒れているんじゃないかと通報されそうです。
産卵床の仕上げも、もう少しのようです。
メスが尻びれを沈ませ、卵を埋め込む深さや位置を確認しています。
オスは身体を震わせながら、メスにすり寄り、産卵を促しています。
それでも、まだメスは産卵床をまだ掘り続けます。
いつになったら、産卵かな?、その瞬間は見られるかな?と観察と撮影を続けました。
しかし、ナント、そこでカメラのバッテリーが切れてしまったのです。
どうしよう・・・時間は正午過ぎ、産卵までまだ時間はあると思う。
意を決して、ずるずると匍匐後進をします。
街にバッテリーを買いに行き、充電をして、観察ポイントを上から見てみると、残念ながら産卵は終わっていたようでした。
メスだけが、一匹、真新しい砂礫をかぶせた産卵床を守っていました。
オスたちは、もういません。
産卵を終えたサクラマスは、やがて、その生涯を終えるでしょう。
ぷちぷちと光がはじけるような透明感溢れる秋晴れ、そしてしばらく雨が降っていなかったおかげで澄んだ水の条件、川岸の浅瀬で産卵床を作ったサクラマスとの出会いは、心象に残る、とても特別な物語でした。
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