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そらいろ

どんよりとした低い、
低い雲の隙間から明るい光が差し込み始める。
「これなら晴れるかも。」
私は手早くスケジュールを確認すると、
今日の日付を探す。
「うん、明日の昼までは大丈夫。」
出かける時にいつも持っていくお出かけセットを押し入れから引きずり出し、車に積み込むと私は家を飛び出した。

「この角度だとこっちか。」
私は町の地図を頭に描きながら、
光の差し込む方向からベストなポジションを探る。この季節、この時間、このタイミング!
ドコだドコだドコだ!?
「まぁ、こんなもんでしょ。」
再び車に乗り込むと、これまでとは一転してノロノロと走り出す。
「今日の空は良かったな。」

曇った空から差し込む光はカーテンのような、気付けば消えてしまう、儚き光の気まぐれが見せる景色。
車を海岸線が望める秘密の場所に止めると、私はそのままシートを倒して横になる。目の前にドーンと海が広がる眺望も好きだがここは、横になっても空と海の青が繋がって見える。

「あら、上手な絵ね。この町のものかしら。」
「うん。そうだよ。」
私は頭をくしゃくしゃとされる。
これが実は好きだ。しかし好きな時間と言うのは得てして長くは続かないものだ。
「またね。」
私はそう言って病室を出る。

《え?病室!?なんで!?》
私は何を見ているの?

私は毎日家の近くから見える景色を絵に書いて病院へ通うと言う日を繰り返した。
その度に頭をくしゃくしゃにされてご機嫌で帰って行った。
《そうか、これは夢。きっと夢なんだわ。》
ある時、私が病室に行くとそこに姿が無い。看護士から別の病室に移った事を聞き、 急いでその場所へ向かう。

「あら、いらっしゃい。」
ハァハァと肩で息をしながら私は駆け寄り、いつもの様に絵を見せる。いつもの様に頭をくしゃくしゃとされながら
「このお空の色、好きだなあ。」
絵と実際の空とを交互に見ながら言った。それから、この色について少しお話をして私はいつものように帰っていく。
「またね。」

それから数日後、いつもの様に絵と好きだと言ってくれた色を持って病室に向かう。
ベッドの上では相変わらず、でも私を出迎えてくれる。私は絵を見せて好きだと言っていた色を見せる。
「ねえ、この色は何て言う色なの?」
「この色はね、そらいろって言うの。」

車から見える景色は相変わらずの曇天。今日の曇った空では、好きだと言っていた空の色には程遠い。いや、でも。。。曇った雲の向こう側にはきっと青空が広がっている。
そう、思う事にしよう。
私は手にしていた『そらいろ』の
絵の具を鞄にしまうと、車のエンジンをスタートさせ走り出した。

~終わり~

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川口知夏(@peeeenuts0726)さんへ
貴女に送る物語。
『そらいろ』

彼女の天真爛漫な澄んだ『青』のイメージ。
笑顔の絶えない彼女に贈るショートストーリー。
『そらいろ』と言うタイトルだけはすぐに浮かんで
目を閉じイメージした創作。

川口知夏の『夏』はこれからはじまる。
様々な季節を越えて、舞台を経験して、
色々な事を知り、蓄えていく。
その先にあるのは『知夏の夏』なのだろか。

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