~プラネタリウム~

「ねぇ今度の休み、プラネタリウム見に行かない?」
「プラネタリウム~?」
目の前の椅子に座り、ニコニコと微笑みながら唐突に切り出される話題に俺は面食らい、すっとんきょうな声を上げてしまった。小さな町のオープンカフェの一席。

幸い周りに客はおらず、俺達のとぼけたやり取りは聞かれる心配はない。
「いいじゃ~ん。行こうよ、ね。」
「あ~、しゃあない。行くか。」
「やったぁ♪」
プラネタリウムだぞ、プラネタリウム。そんなにテンション上がるものなのか?部屋の中でアナウンスに従いながら投影された星を見る。

ただそれだけだろ。女ってホントわかんねぇ。自転車を押して歩きながら通学路を帰る俺達。二人でいるこの時間が大切なんだよ。と君は言う。何を話しても互いに笑い合い、やがて別れる。お互いに帰宅後はあまりメールや電話等のやり取りはない。

《勉強、頑張ってる?》とか《おやすみ》とか、そんな事は連絡を取り合ってはいるがそれ以上は望まないのが2人のルール。どうしても寂しくなるときには、30分だけ電話をするか、画面越しに話をする。それが2人のルール。だからこそ、通学路を一緒に歩く時間は大切なのだ。

帰るのが惜しくてカフェに寄るのも週に2回まで。これも2人で話し合って決めたルール。
「あ、見て。ひまわり咲いてる。」
「お、ホントだな。昨日まではここに無かったのに。誰かがこの花壇に植えたのかもしれないな。」
「夏休みの自由研究だね。」
「ひまわりの成長日記か?」

「それ、アサガオでやったよね。」
物凄く他愛も無いことで笑い、2人で帰った道。俺の方の家庭の事情で今日が最後の帰り道。
「ねぇ、やっぱり、ヤダよ。」
「・・・・・」
「これでお別れなんて、ヤダ!」
「親の都合じゃあ、俺達、子供ではどうしようもないよ。お前も分かってくれたろ。」

「そうだけど!そうだけどさ、、、」
そうしていつもの分かれ道。
「それじゃ、元気で。」
「・・・うん。そっちこそ。」
そうして俺達は別れた。
この時ばかりは2人で決めたルールが、2人で決めた事が良かったと思った。これ以上、連絡を取り合ったらお互いに我慢が出来なくなる。これでいい。

これでいいんだ。俺は自分に言い聞かせる様に、自分の気持ちを誤魔化すために心の中で言い続けた。
あれから何年かが過ぎ、大学に通い就職もした。新規事業計画の末席を任された俺は再びあの土地を訪れる。思い出の場所。何となく町を歩いていると自然と当時通った通学路を歩いていた。

蘇ってくる思い出。苦く、淡く、儚い思い出。
「あれから随分と経ったのに、ここにはひまわりが咲いているんだな。」
いつかの思い出。2人で歩いた通学路。その途中にある花壇に植えられたひまわりを見て、2人で笑ったな。そういえばあいつ、どうしたんだろ。

距離と時間がお互いの関係を冷えつかせ、忙しい学生生活から社会人となるにつれ次第に連絡も取らなくなっていた。
「お、ここのカフェまだやってるんだな。」
あの頃、通ったオープンカフェ。時を経て味の出てきたインテリア。あの時分からなかったコーヒーの味も今なら分かる。
「ん、いい香りだ。」

ただ、ぼんやりと何もない通りを眺めながらコーヒーを飲む。悪くない。悪くない時間だ。俺も歳を取ったな。と薄ら笑いを浮かべていると
「おい、そこの変人!お前だお前!」
「お前とは何だよ。って、、、まさか。」
ニコニコと微笑みながら近付いてくる人物。間違えるハズがない。あいつだ。

「いつ帰って来たの?」
「あぁ、最近だよ。仕事の都合でさ。」
あの頃へ一瞬にして帰る事が出来る。俺自身不思議な感覚。
「へぇ~、そうなんだ。」
お互いに近況を話し合い、自然と当時の様に笑い合う。あぁ、俺ホントに帰って来たんだな。

「ねぇ今度の休み、プラネタリウム見に行かない?」
「プラネタリウム~?」
目の前に座り、ニコニコと微笑みながら唐突に切り出される話題に俺は当時と同じようにすっとんきょうな声を上げてしまった。

あの頃の2人の様に、俺達は笑い合っていた。あの頃と違うのは、しっかりとお互いの手を繋いでいた。

~プラネタリウム 終わり~

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