~夏、花火の君~

「今年の夏休み、どうする?」
「どうするってもなぁ。」
今年は例年と違い、色々あって。本当に色々な事があって夏休みが極端に短い。そんな部活終わりの残り少ない夏休み前の平日。俺はいつものようにお前と共に帰る。
「お前は?」
「俺は、、、なんもない。」

そんな会話を交わしながら自転車に乗り、いつもの帰り道を帰って行く。普通の高校生に何か特別な事が有るわけでもなく、ただ毎日を淡々と過ごしている。これに関しては疑問はあってもどうすることも出来ない。そう、普通の高校生なのだから。
「今年の祭り、行くのかよ?」
「さぁな、行くんじゃね。」

「誰と!?」
「そんなもん、お前くらいしかいねぇだろ。」
朝起きて制服を着、学校に向かう。授業をただ惰性で聞いて部活へ向かい、汗を流して帰る。そこに何か特別なイベントが有るわけでもなく、ただ淡々と毎日が過ぎていく。
「それじゃ、また連絡する。」
親友と別れ家に着くが誰もいない。

別に特別な事があった訳じゃない。両親は共働きで夜にならなければ帰っては来ない。夜中まで帰って来ないこともある。
「祭り、、、ねぇ。」

それから何日かが過ぎ、平凡な通知表をもらって夏休みが始まる。
今年の夏休みは短い。短いお陰で夏休みの課題も少ない訳なのだが。

短い夏休みだというのに俺は何日かを無駄に過ごした後、これではマズイと石のように重たくなって動かない体を机に向かわせる。
そして、今日が終わった。
何もない。ただ時間を無駄に過ごした代償として、机に向かう時間が増えていく。季節は夏。

クーラーの効いた部屋の外では蝉が短い命の灯火に火を着けた様になき続けている。
ふと思い立ち電話を手に取ると早速、親友に連絡を入れる。
「おぉ、俺だ。」
「ん?何だよ。おぉ、俺だって詐欺かよ。」
「詐欺?」
「あぁ、ま、いいや。で何だ?」
「あぁ、祭りの待ち合わせなんだけどさ。。。」

夕暮れ時になると花火の音が腹に響くようになり、夜空には大輪の花を咲かせ散って行く。
「待ち合わせ時間より早く来ちまったな。」
親友を待つ間にちょっと軽く歩くか。と出店のある方へ歩いていく。
ドン!ドン!ザー!!!と花火が夜空に花を咲かせながら夏の夜空に散って行く。

ちょっとした坂の下、ここからなら花火が見えるな。と思い見上げてみると、坂の上には誰もいない。
人気ねぇのな、ここ。と歩きだそうとした時、坂の上に広がる夜空に大輪の花を咲かせた花火がドーン!と
広がっている。そんな花火をバックに浴衣姿で手にはかき氷を持った君は居た。

「お前、今どこ!?」
「あ、あぁ。」
「あぁ。じゃねーっての!」
親友からの電話に気付き慌てて出るが、俺は花火をバックに浴衣姿で手にはかき氷を持った君から目が離せなかった。
「なぁ、これが恋かな。。。」
「はぁ!?お前どーした?おーい!おーーーい!」

電話口からは親友の叫びが聞こえていたが、俺は名も知らぬ、誰かも分からない浴衣姿で手にはかき氷を持った君を立ち尽くしたまま、ただ見ていた。

~夏、花火の君 終わり~

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