見出し画像

『この空より澄んで晴れ』

暑い夏の日、君はただ
青く澄んだ空を見上げていた。

この夏をテーマに贈る最後の物語。

今年の夏はただただ暑い日が続き、猛暑を越え酷暑をも越える日が何日続いただろう。人間が暑い暑いと、その暑さに抗う事を試しているかの様なこの暑さはなんなのだろうか。
「あれ、あの子、、、。」
仕事の帰りにいつも寄る場所で、空を見上げる1人の少女。

同じ様にあの場所で空を見上げていた気がする。1人の少女がただ、空を見上げていただけの光景。
記憶の片隅にほんのわずかにひっかかるその少女はいつも同じ場所で同じ様に空を見上げている気がする。
「まさか、ね。」
ただの偶然でいつも同じ場所で同じ様に空を見上げているなんてある訳がない。

そして次の日、また次の日もあの少女は同じ場所で同じ様に空を見上げていた。

何日か過ぎたある日、昼頃から振りだした雨が猛烈な勢いで地面を叩きつけていた。
「流石に今日はいないだろ。」
仕事帰りにいつも寄る場所に、あの少女の姿はなかった。心なしかほっとして家に帰ると晩酌をしながらふと、天気予報を見ていた。『雨』『雨』『雨』週末までの3日間は雨予報。雨であればあの少女はいない。それでも何故か気になっていつもの様に仕事帰りにあの場所へ寄ってしまう自分がいる。
「やっぱり、雨の日は居ないんだな。」
週末まで雨の3日間、少女はあの現れなかった。

晴れた日にだけ現れる、空を見上げる少女がどこの誰で、どんな少女なのかは分からない。ただ、晴れた日に空を見上げているあの少女の存在感はこの世の何よりも澄んでいた。

あれからまた数日が経ち、仕事終わりにいつもの様に、あの場所へ向かう。今日の天気は『晴れ』。

あの場所で空を見上げる少女は、いつもの様にただ、空を見上げていた。

今日も家に帰ると晩酌をしながら天気予報を見る。そして今夜も願う事ひとつ。

今日の

『この空より青く澄んで晴れ』

て欲しいと。

~終わり~


何年かの時が過ぎ、不意にあの場所、あの少女の事を思い出す。仕事終わりの晴れた日にあの場所へ向かう。
あの時と同じ様に、少女の姿はなかったがただ、青く澄んだ晴れた空だけは変わることは無かった。


この夏をテーマに贈る最後の物語。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?