天使の声
原田朱 birthday 特別企画
~天使の声~
「さて、本日も始まりました。原田朱の天使の声に。FM短波放送局より、皆様に声を届ける放送が今日も始まりました。残念ながら短波放送なので、全国どこでも聞けるわけじゃないんですよねぇ。それでも、誰かが聞いててくれる。この時間に誰かが私の放送を聞いている。」
「誰かの時間に寄り添っている。そんな事を思いながらパーソナリティーを勤めています。今日のお便り、行ってみましょうか。どれどれ。んん~?このお便りは~東京都在住の、、、」
私のライフワークの一つに、ラジオ放送がある。昔は夜風に当たりながらラジオに耳を傾けていたものだ。
ラジオが生活の一部だったし、ラジオから流れてくる音楽や軽妙な語り口で、時に親身になり、時に楽しませてくれる。スマートフォンなんてものが無かった時代はラジオを聴く事が楽しみで仕方なかった。
一週間に一度しなかない放送。何百人、何千人の人達の中から選ばれるハガキ。
そう、当時はメールやオンラインなどでは無く、放送が終わると次の収録に向けてハガキを書いたものだ。
全ての投稿がハガキだったのだ。たった一枚のハガキを買って、番組に、パーソナリティーに向けてハガキを書く。
ハガキを書くことが楽しいと思える唯一の時間だったのかもしれない。
その経験があるからこそ、私の番組でも、唯一ハガキで投稿してとお願いしているコーナーがある。
私が最も楽しみにしているコーナー。リスナーの直筆の文字を見て、
色々な事を想像する。いつもハガキくれるこの人は元気かな。良いことあったのかな?色んな事を思いながらハガキを読む。
それからまた数回、回を重ねて行くと読むハガキもこれはと言うものは自分で選ばせてくれる様にもなった。大抵は打ち合わせで読む物は決めてしまうのだが、その中でも私の独断で決められると言うのは嬉しい事でもある。
「さて、本日も始まりました。原田朱の天使の声に。」
「さてさて、今日のお便りですが、私が独断と偏見でお読みしたいハガキが一枚、あります。」
「えー、原田朱様。久しぶりにお声を聞き、居ても立ってもいられずにハガキを買いに行き、筆を取りました。私は暫く、東京から離れていたのでお会いすることも、お声を聴くことも難しい状態でした。」
「このままずっとダメかなぁ。と思っおりましたが、急遽、東京に戻って来られる事になり、偶然ラジオから流れて来た声にびっくり。またそのお声が聞ける!と、、、上手く言葉になりませんが、とにかく。嬉しくて、胸がいっぱいです。またハガキ、出しますね。」
「嬉しいなぁ。あ、このお便りは東京都在住の、もんちぃさんより頂きました。以前から私を知っていて、久しぶりに声が聞けたからハガキをわざわざ買いに行ってくださって、投稿してくださる。本当に嬉しいですよ、もんちぃさん。ありがとうございます。聞いてますか~?」
私の声が届いている。
短波放送という限られたエリアの中でネットではない、私のラジオを聞いてくれている。
「それでは、今日はここまで。それじゃあ、また来週~。バイバイ。」
今日はいい日だなぁ。。。
「私の声よ、どこまでも届け!」
「天使の声に、か。」
放送局からの帰り道の途中で、街行く人の中から微かに、ラジオの声が聞こえた気がした。
~終わり~
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今は舞台女優として、芝居にダンスに歌に向き合っている彼女(原田朱さん)。ある舞台での演技を見て、ダンスを見て、歌を聞いて、彼女の人間味に溢れながらも感情を剥き出しでぶつけてくる。そんな彼女に惹かれました。
この御時世に誕生日を何か祝えないかと思い付いた短編小説。
彼女の、彼女らしさが伝わるといいな。
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