見出し画像

光流るる阿武隈川#読書の秋2022

旅行するのは好きですか?

ツアーを利用する旅行は楽だと思います。バスに乗せられて美しい景色を見に行ったり、その土地の美味しいものを食べることができます。でも団体で行動するという、わずらわしさもあります。

ひとりで旅行するのは気楽だと思います。自分が行きたい所へ自由に行けます。ただ、あまり詳しくない土地へ行くときは、だれか地元の方に案内してほしいなと思うことがあります。

でも実際に、地元の人にわざわざ案内してもらうのは、申し訳ないですし簡単なことではありません。

案内してもらうのが本だったらいかがでしょうか?

『光流るる阿武隈川』
この本を読むと、光り輝く美しい阿武隈川(あぶくまがわ)の情景が目に浮かびました。

主人公は青春をカヌーという競技にささげた女の子。彼女をとりまく周囲の優しい人たち、福島県という地域の事情や歴史、そして阿武隈川。

本を読み終えたとき、すべてがきらきらと輝いて温かい気持ちになりました。地元を愛してやまない作者の気持ちが伝わってきました。

本の冒頭では、高村光太郎さんの『智恵子抄』が引用されています。

あれが阿多多羅山、
あの光るのが阿武隈川・・・

この地域が、智恵子さんのゆかりの土地であることを知りました。

それにしてもなぜカヌーなのか?

五街道の一つ、奥州街道が整備されていたものの、大量輸送には舟が活用されていた時代である。二本松藩・伊達藩を流れる阿武隈川は、大型の舟が利用できない浅瀬が多い。そのため猪牙舟と言われる、一人或いは二人乗りの小型船が舟運に利用されていた。

福島太郎,『光流るる阿武隈川』,パブフル,2022

阿武隈川というのは舟の交通の要所ですが、浅瀬が多いので輸送には猪牙舟(ちょきぶね)という小さな船が使用されたそうです。小型船をこぐという技術にたけた地域。これがカヌーという競技につながるのです。

主人公である大越里美は、周囲の温かい支援のもと、カヌーに打ち込みました。福島国体、埼玉体育大学、戸田漕艇場、イタリア・ミラノの世界選手権をへて・・・どのような結末をむかえたのか知りたい方は本をお読みください。

この本はそれだけで終わりではありません。競技人生を終えた里美は、亡くなった祖母の店を引き継ぐために田舎に戻る決意をします。リニューアルした店の名前はLULU KOHATA。

「LULU KOHATAねぇ。まあ、お前に任せた店だから好きにしていいけど、この最初の『LULU』っていうのは、どういう意味なんだ」
「LULUはねぇ、英語だと『素晴らしい』という意味があるし、古いドイツ語だと『大切』とか『平和』という意味になるの。日本や世界の素晴らしいものをここに集め、ここから木幡の素晴らしさと共に発信するの」

~中略~

多くの人が集い、輝く素晴らしい物を見つけていく場所、それがLULU KOHATA。お婆ちゃんや、両親や、みんなから預かった光をここから発信していく。体にも心にも良い、安心なものを沢山揃えて販売し、地域の親子が安心できる居場所を創る。

福島太郎,『光流るる阿武隈川』,パブフル,2022

これが作者が伝えたいことだと思いました。地域で繰り広げられる交流と温かい支援の輪。この土地に思いをよせているからこそ書ける作品だと思いました。

この本を書いたのは福島太郎さん。ペンネームのとおり福島県在住の方です。noteでお知り合いになりました。

福島さんはnoteの記事で、ご自身が書いた本をさかんに宣伝されています。お金儲けのためでしょうか?

でも福島さんは公務員。
副業することについて色々な制約があります。

とっても真面目な福島さんは、ちくいち職場へ提出する報告書を作っています。本の売り上げ金やnoteで得られた収益など。そして地元のNPO法人「しんぐるまざーずふぉーらむ福島」に寄付してしまうのです。

福島さんは2019年に心臓の病気で病院に搬送されました。
不整脈の病気。
不整脈というのは、あっという間に死んでしまうこともある怖い病気です。
「自分は何ができるのか、何をしなければならないのか」
を考えて、本格的に執筆をはじめたそうです。

福島さんが一生懸命本を宣伝するのは、地元をもっと知ってもらいたいという思いがあるから。そして世界が平和であることを願っています。

福島さんは自費出版で8冊の本を書いてAmazonのkindleで販売しています。電子書籍だけではなく紙の本(ペーパーバック)として購入も可能です。

自費出版というものは、作者が自由に書ける一方でクオリティの低さが指摘されることがあります。たしかに素人が初めて自費出版を出すと、稚拙になってしまう感があるのは否めません。

しかし、だからといって自費出版の本を読む価値がないと結論付けるのは時期尚早だと思います。
出版社による商業出版では、制作サイドの事情で書けないこともあります。それが自費出版では自由に思いを書くことが可能です。

福島さんのような地元の方が、真摯な態度で一生懸命書いた地域の本を読むのは十分に価値があることだと思います。

おすすめです⭐

ちなみにnoteの記事を読みたい方はこちらからどうぞ。

#読書の秋2022
#光流るる阿武隈川

人と人との温かい交流を信じて、世界が平和になるように活動を続けていきたいと思います。