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玉泉洞と路線バスの歴史

「玉泉洞」は沖縄県南城市にある鍾乳洞である。「おきなわワールド 文化王国・玉泉洞」の園内にある観光施設の1つに過ぎないのだが、園内のメイン施設が「玉泉洞」であったためか、最寄りバス停名は「おきなわワールド前」でも「文化王国・玉泉洞前」でもなく、過去から現在に至るまで「玉泉洞前」である。
開園は1972年4月28日のことであるが、開園当初からバス路線が運行されており、2024年4月現在でも、4路線がアクセス路線として存続している。


開園当初は54番・前川線が唯一のアクセス路線

開園から約2年後の1974年に玉泉洞を会場に開催されたメキシコサーカスを案内する新聞広告$${^1}$$には、交通アクセス手段として、琉球バスの54番・前川線の記載がある。別の新聞記事$${^2}$$だとやや読み取りづらいが時刻表も掲載されており、ほぼ同時期の1975年当時の時刻表$${^3}$$の54番・前川線と一致していそうである。1日4本しか運行されていない前川線を載せているくらいなので、開園当初の玉泉洞へのバス路線は、54番・前川線のみであったようだ。なお前述の新聞記事に記載されている通り、このメキシコサーカスの後援として琉球バスも入っていた。

この54番・前川線であるが、玉泉洞が開園する前の1964年12月末時点$${^4}$$で既に存在していることから、玉泉洞のための観光路線としてではなく、純粋に地域住民のためのバス路線として運行を開始したようだ。後に、ルート上に偶然、玉泉洞が開園したので、新たに玉泉洞前バス停を設置し、アクセス路線として機能するようになったのであろう。

54番・前川線と玉泉洞前
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

ちなみに2024年4月現在もそうだが、54番・前川線は那覇バスターミナルを起終点とする循環路線であり、玉泉洞前は終点ではなく、途中経由地である。時刻表上は玉泉洞前で10分以上停車することになっているが、そのまま乗り続けることで、玉泉洞前を跨いで乗車することも可能である。玉泉洞前を終点としないのは、東風平地区から前川地区への需要が少なからずあるためであろうか。

54番・前川線の運行ルート
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

1990年代にアクセス路線が相次いで開設

1990年4月$${^5}$$~1993年3月$${^6}$$の間に、2つ目のアクセス路線として、琉球バスの82番・玉泉洞糸満線が運行を開始した。完全に新設では無く、それまで運行されていた、糸満市の糸満バスターミナルを起点とし、玉城村(現・南城市玉城)の堀川橋を終点とする82番・米須線の終点を、玉泉洞前まで延伸することで開設された。

82番・玉泉洞糸満線と82番・米須線の運行ルート
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

1993年3月末時点$${^6}$$での運行本数は1日16本と、54番・前川線の4倍であった。

3つ目のアクセス路線は83番・玉泉洞線であり、これは完全なる新設路線で、1993年4月$${^6}$$~1993年11月$${^7}$$の間に運行を開始したようだ。50番・百名線の終点を玉泉洞にしたような路線であった。

83番・玉泉洞線と50番・百名線の運行ルート
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

この83番・玉泉洞線は、運行開始当初は上記の路線図の通り「具志頭」を経由しており、那覇から玉泉洞へは少し遠回りとなるルートであったが、2019年10月1日のダイヤ改正時に、54番・前川線と全く同じルートへと変更されたため、現在は54番・前川線を玉泉洞止まりにした路線が、83番・玉泉洞線となっている。

83番・玉泉洞線と54番・前川線の運行ルート
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

なお、1998年1月6日には、新たに運行を開始した81番・西崎・向陽高校線が玉泉洞前への乗り入れを開始した。この路線は、82番同様に糸満バスターミナルと玉泉洞前を結ぶという点では共通しているが、平日の朝夕に1本ずつの計2本のみの運行であり、玉泉洞へのアクセス路線と言うよりは、ルート上に立地する県立沖縄水産高校と県立向陽高校向けの通学バスであろう。

81番・西崎・向陽高校線と82番・玉泉洞糸満線の運行ルート
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

2024年現在でも4路線が存続

沖縄こどもの国東南植物楽園などの沖縄本島に昔からある行楽地への路線バスは、いずれも短命で廃止されているが、玉泉洞前を発着するバス路線は、2024年4月現在でも4路線が存続している。玉泉洞が那覇市内からも近い観光地であり、県外からの観光客からの需要があるためであろうか。

脚注

  1. 【FILMS】メキシコサーカス(玉泉洞)【1974年夏撮影動画】(沖縄アーカイブ研究所)

  2. 懐かしの沖縄 8ミリ映画のメキシコサーカス(1974年)(ず@沖縄)

  3. バス・タクシー・ハイヤー運賃及び粁程表(1975年7月 沖縄観光速報発行)p.35

  4. 行政監察業務概況 1970年5月(1970年5月 琉球政府発行)p.72

  5. 平成2年度 業務概況(1990年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.28

  6. 平成5年度 業務概況(1993年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.28

  7. 運賃及び粁程表 平成5年11月1日改定(1993年11月 沖縄県バス協会発行)

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