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No.1188 ニャロメな男の子

田舎の一教師なので、こんなこともありました。

四半世紀も前のことです。某クラスの「古典」の授業をしに教壇に立ちました。挨拶を交わした後、いきなりI君が前に進み出て、教卓の私の隣に立ち目配せしてきます。
 
「やってみるかい?」
と訊くと、
「はい!」
と応えました。
 
教科書を手渡し、本日予定していた古文の範囲を指示すると、彼はおもむろに本文を板書し始めました。どうやら、私の代役、「にわかI先生」のご登壇です。きっと昨夜のうちにしっかり予習をしてきたのでしょう。私は、彼の座席について凛々しく頼もしい彼の後ろ姿をウットリした気分で見ていました。生徒たちも、次の展開に興味津々らしく、黙々とノートに書き写し始めました。
 
ゆっくりと丁寧に本文を書き写した後、I先生は私のところにやってきて、
「あとはヨロシク!」
と丸投げ(いや、本文だけ書いてくれたので、5分の4投げ?)なさいました。教室は、大爆笑です。彼は、この一瞬の笑いを狙っていたのでした。ニャロメな男子?
 
私も生徒たちも「美しき誤解」をしていた僅か10分の間でしたが、「時の流れに身を任せる楽しさ」を味わいました。目尻に皺を刻んでくれた男です。
 
彼は、今年「不惑」を迎える年齢です。いつか、TVのブラウン管(古いか?)からお笑い芸人として飛び出してくるのではないかと思っていましたが、まだお目にかかっていません。いまも丸投げしているのでしょうか?


※画像は、クリエイター・スズムラさんの、タイトル「桜色1 #桜色 #シロクマ文芸部 #54字の物語 」の1葉をかたじけなくしました。卒業式の日の黒板に書かれたチョークアートです。身も心も躍るような世界に「ほ」の字です。お礼申し上げます。