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No.880 アネクドード、どうぞ!

ロシアの「アネクドード」(風刺的逸話)の一つに、ジョークというよりウィットに富んだこんな話があります。主人公のフルシチョフは、1894年~1971年の人です。

「ある男が、塀に『フルシチョフはバカ』と落書きした。この男はすぐに官憲に捕らえられ、懲役11年となった。1年は国の財産である壁を汚したためであり、残る10年は国家機密漏洩罪であった。
男が1年目の刑期を終えた頃、フルシチョフがイギリスを公式訪問した。まもなくこの落書き男は釈放された。それは国家機密がもはや機密ではなくなったからである。」
 
もう、思いっきり笑ってしまいました。フルシチョフ元首相が愚か者だという事は国家の機密事項なのに、そんな大事なことをバラした罪というわけです。ところが、フルシチョフがイギリスに行ったことで、フルシチョフの愚かさは世界に公認されることになったので、罪人は釈放されたわけです。
 
コケにされまくっているフルシチョフですが、激高しやすい性格だったので同志にも嫌われ、アネクドードによる格好の批判対象になったのかもしれません。それにしても、よくできた皮肉と揶揄のお話で、その発想には恐れ入ってしまいます。
 
そのフルシチョフ元大統領の解任後に第一書記となったブレジネフ(1906年~1982年)と首相となったコスイギン(1904年~1980年)の「アネクドード」もありました。

「ブレジネフが、コスイギンに言った。
『国境を開放するように世論が要求しているが、もし自由に出国を許すと、わが祖国には我々二人しか残らないのじゃないかね?』
するとコスイギンが言った。
『二人しか残らないというが、それは君と、ほかに誰なんだい?』」

いかにもありそうで真実をついたブラックユーモアは、この国の独壇場です。大分弁で「悪賢い」ことを「こしい」(こしー)と言います。「小狡い」(こすい)が語源かもしれませんが、まさにコシーギンですな。そんな一面を「アネクドード」作者は見逃しません。
 
かの国には、そのように巧みで、人を混乱に陥れるような表現を得意とする文化があるように思います。そうであればなおさら、近代戦争における緻密で用意周到な心理戦略もお手の物なのかもしれません。この一年のなりふりかまわぬ暴挙や情報操作や、ソフィストまがいの詭弁を見聞するにつけ、今後、政権トップが、どんな「アネクドード」の主人公(餌食)となるのか、大いに待たれるところです。


※画像は、クリエイター・Yas Higさんの、タイトル<変わっ「てしまっ」たモスクワ>をかたじけなくしました。「モスクワの赤の広場、クレムリン向かいにあるグム(ソ連時代は国営デパートでした)です!年末・クリスマスの移動遊園地とともに。」という説明もつけて下さっていました。お礼申し上げます。