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No.695 酒を飲む人花なら蕾 今日も咲け咲け明日も咲け

「生けるもの遂にも死ぬるものにあればこの世なる間は楽しくをあらな」
(生まれたかぎり、最後には死ぬと決まっているのだから、この世に生きているうちは、いつも楽しくしていたい)

この歌は、『万葉集』巻第三・349番、大伴旅人(たびと)「酒を讃むるの歌十三首」のうちの一首です。「生きているうちは、楽しくありたい」とするのは万人の願いですが、そうは行かないのが現実の厳しさです。だからこそ酒を飲んで、くだをまきたくなるのです。わかる、分かるよ、その気持ち。
 
この歌の一つ前の348番は、
「この世にし楽しくあらば来(こ)む世には虫に鳥にもわれはなりなむ」
(この世だけでも楽しくていられるならば、あの世では虫でも鳥でもかまわない、私は何にでもなろう)
と詠んでいるくらいですから「大伴旅人、どんだけ酒好き~!」の思いになります。

大伴旅人(665年~731年)は、728年に大宰帥(だざいのそち=大宰府の長官)として赴任しました。60歳を過ぎてからの九州下向は、一説に体の良い左遷であったとも言われますが、赴任した翌年に妻の大伴郎女を亡くしています。老年の大伴旅人の心に孤独感や憂愁の思いがあったことは容易に想像できます。
 
そして、さらに、都から武天皇の皇女・田形皇女の訃報が届いています。
「世の中は空しきものと知るときしいよよますます悲しかりけり」
(世の中は空しいものだと知識では知っていたけれど、こんなに不幸が続いて重なってくると、ますます実感として思い知らされることだなあ。)
『万葉集』巻第五・793番の歌ですが、妻を亡くした悲しみに沈んでいるときに、さらに都から届いた訃報は、旅人の心を一層重いものにしたことでしょう。


だからこそ、無限ループのように、
「生けるもの遂にも死ぬるものにあればこの世なる間は楽しくをあらな」
の句の心境にもどって行くのです。たとい酒がなくても心は自由です。楽しくありたい。

「しあわせは いつも じぶんの こころが きめる」(相田みつを)

※画像は、クリエイター・凸けんさんの、タイトル「月いち習慣目標|写真日記266日目」をかたじけなくしました。思わず、口を先にもっていきたくなります。お礼申します。