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No.1203 「以呂波」新聞

その昔、学校のコース新聞「以呂波」が配られました。生徒の作る新聞です。そのコラムが、とても印象的でした。
 
「4Bの鉛筆を持って画用紙に向かう。何の変哲もない長椅子(ソファー)を描くのだ。空想しながら、イメージ通りに克明に画いているうち、いつの間にか夜が明けていた。」
 
そんな内容でした。ただ一人、長椅子を睨めつけながら絵筆ならぬ鉛筆を振るっている作者の像が思い浮かびました。いつしか没頭して、時をすっかり忘れてしまう境地に至っていたのでしょう。白々と明けた朝の光や、空気や、鳥たちのさえずりが、そのことを教えてくれました。
 
何人も冒しがたい時間の過ごし方に魅入られます。こんな風に時を忘れ、ひたむきに励むことを、いつしか忘れていたような気がしてなりません。ひたむきに、精一杯に続けていけば、出会えなかったものに出会えたり、見えなかった世界に行き着けたりしたかも知れません。それは、やった者にしか、行った者にしか手に入れることの出来ないご褒美か何かなのだと思います。
 
彼女は、産みの苦しみを楽しみに変えて、たゆたう時間の流れに身を任せて頑張りました。目には見えない「幸せ」のベールを着て。
 
私は、目の前のことに気を取られ、あくせくしながら生きていることに気づかされました。親子ほども年の差のある生徒の、何かに一途に没頭する素敵な文章から…。
 


※画像は、クリエイター・yui tsukamotoさんの、タイトル「メメント・モリ」の1葉をかたじけなくしました。キャンバスに絵を描く女の子のイメージにぴったりでした。お礼を申し上げます。