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No.935 そのココロを何と見る?

その昔、TV放送で見たお話の中に、ひどく感動したのがありました。
 
某デパートの店員に手話の講座を開いたところ、何と200人も参加して来たと言います。週に1回だけの集いですが、1年間にわたって続けられる長丁場の研修です。夜7時に勤務を終えてからの約2時間、無報酬、なおかつ手弁当で参加を続けているということでした。
 
資格試験に合格しても、昇給にも昇格にも全く無関係だと言います。そんな時代のお話でした。それなのに、「手話を必要とする不意の来客のために学んでおこう」とする店員さんたちの姿も表情もココロも、実に清々しく思われました。無償の行為だったから、余計に心打たれたのかもしれません。
 
クラスの生徒に頼みごとをすると「何おごってくれます?」などとのたまう面々に、詳しく教えてあげたくなるようなお話でした。もう30年も前の番組でしたが…。
 
 
話は変わりますが、先日の7月9日に再放送されたNHKBS「奇跡のレッスン 男子サッカー ハンス・オフト 答えはすべて基礎の中に」(6月25日初回放送)を見ました。オフトさんと言えば、あの「ドーハの悲劇」の時の日本サッカーチームの監督です。
 
1993年(平成5年)10月28日に行われたサッカーワールドカップ・アメリカ大会の出場国を決めるアジア地区の最終予選で、日本は予選グループを1位通過し、初のW杯出場は目前でした。ところが、最終節のイラク戦で、2対1でリードしていたのですが、ロスタイムの残り数秒でコーナーキックから同点ゴールを決められ引き分けになりました。その結果、勝ち点・得失点差で予選3位敗退となり、夢は潰えました。あれから30年が経つと言うのに、ピッチで泣き崩れ、立ち上がれなかった日本選手たちの姿を刻み付けている日本人は、今も多いことと思います。
 
1947年、オランダ生まれのハンス・オフトさんは、今年76歳です。基本・基礎を徹底的に繰り返すオフトさんですが、「奇跡のレッスン」を受けた横浜市の私立浅野中学校の生徒たちの7日間を追ったドキュメントです。その中に、感激するシーンがありました。
 
チームの中で小柄な男の子は、仲間のようにシュートを決めたいのですが、思うようなシュートがなかなか打てません。彼は、オフトさんに悩みを相談しました。
「シュートがうまくなるには、どうしたら良いでしょう?」
 
その時、オフトさんは、こんな答えをしました。
「ゴールにパスするつもりで蹴ればいいんだよ。強いシュートを決めたいと思うかもしれないけれど、そればかりじゃないんだよ。」
 
それを聴いていた少年もそうですが、私も凄く驚きました。得点を決めるフォワードもミッドフィルダーもチームの花形です。弾丸シュートを決め、ガッツポーズを決め、「ストライカー」と呼ばれて誇らしく胸を張るのは、誰しも憧れるところです。
 
でも、オフトさんは、違いました。
「ゴールにパスするつもりで蹴りなさい。」
とアドバイスしました。全く予想外のその柔らかい発想に、心底シビレました。少年の表情がパッと明るくなるのが分かりました。悩みに一条の光がさしたように見えました。
 
その発想は、私のような者にとっても大変示唆的な一言でした。オフトさんのココロのレッスンは、柔らかな生き方のレッスンでもあったのです。


※画像は、クリエイター・木内達朗🐶イラストレーターさんの、タイトル「FIFA World Cup 2018 Social」をかたじけなくしました。お礼を申し上げます。W杯ロシア大会で、日本はベルギーに3-2で敗れ、ベスト16の壁に阻まれた年でした。世界に伍する日本サッカーを見た思いがします。