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No.344 おばあちゃまは、読書家

 どんな「報い」からなのかは分かりませんが、3か月に1回、かかりつけの病院で定期検診する羽目になっています。「健康診断」という日本の素晴らしい医療制度のお陰です。

 その恩恵を被る私は、8年前のその日も、3か月ぶりに病院を表敬訪問。診察前に尿を絞り出し、採血に青くなって看護師さんに笑われ、待つ事1時間。マイクで担当医からのお呼びがかかるまで退屈しのぎにスマホに取り込んだ青空文庫を読んで待つのがお決まりです。

 木曜日の午前9時半前だというのに、もう広い待合フロアーのソファーは満席です。たまたま診察室に呼ばれて席を立った人がおり、ようやく座ることが出来ました。隣の席には、臼杵の小説家・野上弥生子によく似た品の良いお婆ちゃんが、黙々と読書をしていました。髪は白く、度の強い眼鏡を掛けた、とても痩せたお婆ちゃんでした。愛おしそうにページをめくり読み耽っていましたが、新書版の大きさの二段組みのその本は、今時珍しいほどの小さな活字でした。書名は分かりませんでしたが、思わず、そのお顔を何度もチラ見してしまうほど、お婆ちゃんは没頭していました。

 「○○あやこさん!○○あやこさーん!」
と看護師さんに数回呼ばれた時に、お婆ちゃんは返事して立ち上がったのでしたが、なぜか、50歳代の女性もそこへやって来ました。
 「あらま、同姓同名のお二人だったんですね。じゃあ、生年月日を教えて下さい!」
との看護師さんの問いかけに、お婆ちゃんが、
 「昭和2年…」
と言うが早いか、看護師さんが、
 「あ、お婆ちゃんの方でした。採血です!」
と検査室に案内しました。

 ご高齢だとは思いましたが、8年前のあの時、すでに86歳だったことになります。それなのに、あんな小さな文字の本を読めるなんて感嘆至極でした。私は「あや子マジック」と命名しましたが、こんな出逢いも健康診断のおかげでだったのしょう。

 次回の定期検診日は12月6日。
 「○○あやこさーん!」の呼び声に再び出合える日を毎回楽しみにしている私です。