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No.1018  伝令

気象庁は9月1日、この夏(6~8月)の平均気温が平年より1.76度高く、統計を取り始めた1898年(明治31年)以降で最も暑い夏だったと発表しました。
 
夏と言えば、「甲子園大会」は風物詩です。第105回全国高等学校野球選手権大会を制したのは、宮城県代表の仙台育英に2-8で勝利した神奈川県代表の慶応高校でした。坊主だろうと長髪だろうと、その感動は変わりません。
 
第81回大会を迎えた1999年(平成11年)、朝日新聞社は「第1回 俳句甲子園」の名で6月22日~8月27日まで俳句の募集を行いました。全国から、実に20万531句もの応募があったそうです。
 
翌2000年3月3日、句集『第一回 俳句甲子園』(NTT出版)が上梓されました。入賞句69、優秀句5,145、著名人や俳人の句93作品が収められた単行本です。
 
「甲子園一球が生む青嵐」
 有馬朗人
 
「逆転の大夕焼けとなりにけり」
 黛まどか
という監修選者の句に畏れをいだき、
 
「青春の坩堝や夏の甲子園」
 鈴木真砂女
 
「炎天の歓声投手いま孤独」
 桂 信子
 
「傷つきて飛ぶ白球よ行く夏よ」
 浅井慎平
の俳人や写真家の句に感動を抱き、
 
「くれてなお命の限り蝉しぐれ」
 中曽根康弘
の句と作者に二度見する凄さを感じました。
 
さて、高校生の部の受賞作の中から4句を紹介すると、
文部大臣奨励賞
「帽子取り坊主頭の汗拭い」
 佐野千佳子(神奈川県)
 
有馬朗人賞
「甲子園ベースに触るる黒揚羽」
 小西明紀(福岡県)
 
黛まどか賞
「逆転をしつつされつつ夏が行く」
 藤井弥生(愛知県)
 
朝日新聞社賞
「一球が沈黙を呼ぶ炎天下」
 宇良宗樹(沖縄県)
 
次に、一般の部の受賞作のうち4句を紹介すると、
文部大臣奨励賞
「先ず礼にはじまる夏の甲子園」
 梅澤儀柞(群馬県)
 
有馬朗人賞
「プレーボールの声澄みわたり原爆忌」
 草薙一朗(東京都)
 
黛まどか賞
「すべりこみ熱砂を抱いたままの君」
 加藤優子(東京都)
 
朝日新聞社賞
「伝令で立ったマウンド君の夏」
 日角 毅(千葉県)
とありました。
 
私は、この3年間の練習努力精進が「伝令」に集約されてマウンドに走る選手、それを応援席から見守る親御さんの気持ちを汲み取って詠んだ日角さん(いや、選手のお父さんかもしれませんが)の句に、グッと来ました。

ダッグ・アウトの控えの選手、アルプス席から大声援を送る選手たちの思いも一心に背負って監督の言葉を届けに向かう「伝令」は、誇り高いものだったに違いありません。私は、この句のファンです。
 
「伝令」の彼は、笑顔で場面の緊張をほぐし、監督の指示を伝える大役を終えて、スッキリした気分で駆け戻って来たことでしょう。彼の3年間が、彼の最後の夏が終わりました。その一瞬を切り取った句です。忘れ難い「第1回俳句甲子園」(朝日新聞社主催)の受賞作品でした。韻文の素晴らしさを改めて知る句でもありました。

伝令は、伝麗です。熱戦・熱闘の暑い夏が終わり、夢でも見ていたのかと思わせるような秋の雲が漂っています。
 
ところで、「俳句甲子園」というと、1998年(平成10年)に始まった「全国高校俳句選手権大会」も通称「俳句甲子園」と言われ、愛媛県松山市で毎年8月に開催されています。

こちらは、高校生のみを対象とした俳句コンクールです。今年、団体戦で開成高校が史上初の4連覇を果たしました。この大会と、今日紹介した朝日新聞社の「俳句甲子園」とは別のものですのでお知りおきください。


※画像は、クリエイター・ImageCreationLABOさんの、タイトル「2019年第101回全国高校野球大会決勝!!令和元年『舞台は、超満員の甲子園!!』」をかたじけなくしました。今年のあの熱気、興奮、歓声、感動がよみがえります。お礼を申し上げます。