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No.691 三十一文字の深遠なる世界。その2

昨日にひき続き、『平成万葉集』(讀賣新聞社、2009年刊)の1,000首の中から、勝手に25首選ばせていただいた、今日はその2回目(13首)の紹介です。人生を織り成した31音の響きは、長い余韻を残します。13年前に発表された作品群です。

 史観とは進歩とはまた正義とはみな幻想かわれは老いたり
 (89歳・男性、東京都)

 生存を慙ぢし八月十五日いつかおぼろとなりて老いづく
 (83歳・男子、東京都)

 八十の峠を越して三ツ目の峠の茶店番茶の甘し
 (84歳・男子、福岡県)

 み仏の声なき声を聴きすます安らぎにあり耳遠くして
 (92歳・男性、神奈川県)

 「許す」とはこれほど時の要るものか別れし夫の訃報聞くまで
 (69歳・女性、京都府)

 新しく家族となりし幼な子に一字残して君は逝きけり
 (61歳・女性、兵庫県)

 上弦の月がやさしくたわむ夜は亡父のグラスに酒満たしやる
 (71歳・女性、岐阜県)

 遺されし鍬に手擦れのあとしるく春畑打てば母恋しかり
 (75歳・女性、東京都)

 笑ったと育児日記に書きし父よ今度は私が笑わせる番
 (49歳・女性、神奈川県)

 夕立に遇いたるシャツは貼りつきて少年のししむら透きて清しも
 (68歳・女性、滋賀県)

 きりきりと髪を結びて春の日に別れ話を切り出しに行く
 (45歳・女性、東京都)

 舌打ちをするかのように秒針が止まることなく私をせかす
 (18歳・女性、山形)

 バリトンかバスかお声の聞きたかり日光菩薩の口元みつむ
 (69歳・女性、埼玉県)

 『平成万葉集』は、私にとって、ちょっと厚めのバイブルです。深く息をしなさい、周りをよく見なさい、過去を振り返り未来を想像しなさい、今に感謝して楽しんで生きなさい、そして、明るくいなさいとアドバイスをくれるのです。

※画像は、クリエイター・まりっかさんの、タイトル「Kochia と書いて、コキアと読みます」をかたじけなくしました。和名は「ほうき草」とか。ふんわりした姿に癒されます。お礼を申します。