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No.1002 輝く農民力!

世界に燦然と(?)輝く農民と言ったら、誰を思い浮かべますか?
あっ、農民から王となった中国の英雄・劉邦ですか?後に太閤となった農民出身の木下藤吉郎ですか?農民の出で、第16代アメリカ合衆国大統領となったリンカーンですか?
ノン!ノン!
 
1784年(天明4年)2月、今から約240年前のことです。志賀島(現、福岡市東区志賀島)で、あの日本史の教科書でもおなじみの「漢委奴國王」の金印が発見されました。志賀島叶崎(かなのさき)という所で、二人持ほどの石の下から出土したと言います。印面は2,347㎝四方で、重さは108g だそうです。現在の10円硬貨の直径は2,35㎝、重さ4,5gなので、10円玉を24枚重ねると金印とほぼ同じになるという説明もありました。ヘーボタン?
 
発見者は、お百姓の甚兵衛さん(あるいは、甚兵衛に雇われた秀治と喜平さん)という島に住む農民で、田んぼに水をひく溝を修理していたところ、偶然、発見したといいます。農民ですから、まず、その文字が読めなかったかも知れません。甚兵衛さん(或いは、その雇人たち)は、役人に届け出たそうです。それは、日本の歴史の一端を物語る、後世に残るとんでもないお宝でした。
 
1820年4月、エーゲ海のキクラデス諸島の南西にあるメロス島で、ギリシア人の小作農だったヨルゴス・ケントロタスが掘り出した2個の石に興味を抱いた若いフランス人オリヴィエ・ヴーティエが、 さらに他の断片を農夫に探してもらったところ合計6個の断片が発掘されました。それらをパズルのように組み合わせた彼らは、やがて上半身裸体の美しい女性像と遭遇します。これが「ミロのヴィーナス」でした。今から200年ほど前のことなのですね。もっとも、作者は、古代ギリシアの彫刻家・アレクサンドロスだと言われ、紀元前130~紀元前120年の作品だそうです。約2000年の眠りから覚めた美女は、自らの両腕をどこかに置き忘れたまま、忽然と人々の前にその裸像を表すことになったのです。
 
ヴィーナス像は隠されていたそうですが、トルコ人の役人に発見され没収されたといいます。フランス海軍提督だったデュルヴィルは、このヴィーナス像の価値を高く評価し、フランス大使に頼み、トルコ政府から買い上げてもらいました。そして、修復後にルイ18世に献上し、彼がルーブル美術館に寄付したとのことです。偶然か必然か、この世界中がため息を漏らす美の極致ともいえる偉大な遺産の第一発見者も、農民でした。
 
1974年3月、「20世紀最大の発見」と言われる「兵馬俑」が中国で発掘されました。その発見者は、陝西省西安市の東北にある臨潼(りんどう)県の農民・楊志発さんだそうです。彼が、自分の所有する果樹園で井戸を掘っていると、鋤の先が何か硬いものに当たりました。これが兵馬俑坑発見のきっかけだといいます。発見されてまだ半世紀なのですね。
 
兵馬俑の建設は、秦の始皇帝(紀元前259年~紀元前210年)が国王になった紀元前246年に始まり、彼の死から4年たった紀元前206年に終わりました。 兵馬俑および陵墓を完成させるために、約40年間、延べ70万人以上という労働者が24時間動員されたという説明がありました。強大な権力の象徴でした。
 
その時、鋤が掘り当てた音が「ザクッ!」なのか「ゴツン!」なのか「カチッ!」なのか「カン!」だったのかは分かりませんが、「兵馬俑」が約2200年以上もの長い眠りから目を覚ました瞬間でした。その兵馬俑しか知らない目覚ましの音を立てたのも、農民でした。
 
国連食糧農業機関(FAO)が集計したデータによると、世界の農業従事者のうち、2000年には61億人のおよそ10億人(16%)ほどとされていました。ところが、2019年の人口77億人のうちの農業従事者はおよそ9億人(約12%)と、地域差はあるでしょうが、世界的に減少傾向にあるようです。
 
日本も農業人口は大幅に減少しつつあります。
2005年(平成17年) 人口1,27億人 農業従事者数224万1千人(17%)
2015年(平成27年) 人口1,27億人 農業従事者数175万7千人(14%)
2020年(令和 2年) 人口1,26億人 農業従事者数136万3千人(10%)
 
しかし、その昔は、世界の8割、いや9割以上は農業従事者だったのではないでしょうか。江戸時代の人口の8割が農業を占めていたそうです。したがって、世界的発掘や大発見に寄与する可能性があったのは農民だったろうと言えるのではないかと思います。
 
これらの世界の偉業は、農民によってもたらされました。名もなき人々として扱われているのでしょうが、私には、何か、運命的な出会いに導かれた、世界に燦然と輝く農民力のようなものがあったように思われるのです。


※画像は、クリエイター・かまふち 管理人"sho" さんの、タイトル「国宝 金印 福岡市立博物館」の1葉をかたじけなくしました。小さな巨人の印象(印章?)です。お礼を申し上げます。