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No.903 どの口が?

その昔、嬉しい電話をもらったことがあります。
今から38年も前の卒業生N君からです。何ごとかと思えば、以前級友だったT君の近況報告をしてくれた電話でした。
「T君も俳優を目指して上京してきました。今は、アルバイトしながら、役者になるために一緒に頑張っています!」
とのことでした。
 
T君は、高校1年生の時、素行不良で退学になりました。何度も話し合い、家庭訪問もし、私なりに尽くしたつもりでした。しかし、言い出したら後に引かないかたくなな性格もあったし、私の未熟さもあったのでしょう。ついに心をつなぎとめることは出来ませんでした。翌年、県立高校に合格しましたが、懲りない非行が原因で、また退学したと聞きました。
 
その後、一度学校に会いに来てくれたこともありました。後悔しているかと思いきや、照れることもなく、あっけらかんとした様子に、こちらの方が肩透かしを食らった気がしました。

それから既に5年が経っていました。ところが、N君からもらった電話の受話器の向こう側から聞こえてきたのは元気そうなT君の声でした。
「先生、悪いヤツはおらんですか?」
 
昔、悪さばかりしていた男も、少しばかり角が取れて、人生の目標のために苦学していました。そして、私のことを気遣う心が育っていました。そのことが分かって嬉しく思いました。でも、どの口が喋っていたのでしょう?

公害ならぬ口害があり、健康ならぬ健口の持ち主は、今年53~54歳?
私のような者には、彼らのような教え子がお似合いのようです。
 
「会うこともなき教え子の年賀状」
 岡田 守生(1936年~)


※画像は、クリエイター・やだ ゆう(八田 唯宇)~エフォートレスライフクリエイターさんの、タイトル「dance + music」をかたじけなくしました。「若さ」と「希望」が躍動している1葉です。お礼申し上げます。