No.660 文章を作る場所はどこですか?
もう半世紀以上も前、高校時代にお世話になった『世界史事典』(数研出版)の「欧陽脩」の項には、次のように書かれています。
「欧陽脩(おうようしゅう)1007~72。北宋の政治家・文人・学者。江西の人。あざなは永叔。刻苦して進士に合格。官は参知政事まで進んだが、王安石の新法に反対して退官。唐宋八大家の1人。韓愈を慕い、文豪の名を得た…。」(以下、省略)
平安時代中期の清少納言や紫式部とほぼ同年代の中国の人・欧陽脩には、「作文三上」(文章を練る最適の三つの場所)という名言があります。
「余、平生(へいぜい)作る所の文章、多くは三上に在り。乃(すなは)ち、馬上、枕上、厠上なり。」
とあるのがそれです。さらに、
「蓋(けだ)し、惟(た)だ此れ尤(もっと)も以(もっ)て思ひを属(つら)ぬべきのみ。」
(思うに、これらの方法で文章を書き綴るだけだろう。)
という言葉もありました。
馬上(ばじょう) …馬に乗っている時
枕上(ちんじょう)…寝床に入っている時
厠上(しじょう) …便所に入っている時
をそれぞれ言うのでしょう。
「厠上」とは雪隠(古いか?)のことです。トイレで「沈思黙考」、つまり心静かに思いにふけり、考えをまとめようとする試みは、時に本人もビックリの名文を生み出す、におい無き創造の副産物の起点であります。まさに、トイレはトイレであってトイレでなし。古来より大小の生理現象を受け止めてくれるだけでなく、夏に暑く、冬に寒い創造空間の場でもあったのでした。
私もこの場に日参(?)し、小欄作成のヒントを得ておる次第です。
「長~い!」とカミさんから白い目で見られながら…。
「雪隠の窓から見るや秋の山」夏目漱石
画像は、クリエイター・Noriaki Kawanishi / 田舎暮らしデザイナーさんの「#11 『気まぐれスケッチ』 〜のんびりトイレ〜」をかたじけなくしました。お礼申し上げます。