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私は何者か、486


虹だと気づくまでに少し時間が必要だった。ぽてぽてとまたは淡々とただ歩いていただけの私の頭上に霧のような雨が降り込み、もうあとは帰るだけだから、濡れたっていいんだ。みたいに、ちょっと、投げやりな感じの徒歩とぼとぼよ。それは東南の空、分厚い雲の隙間に太くて確かな七色を掲げる光の帯。その帯は山並みと雲の間に太く、しかも二重に架かっているのである。みせてくれるのか。このような自然の奇跡を。
その美しさをモバイル如きで捉えようと、アングなんぞ考察している間に、消えてゆくのである。虹は、やはり、夢であり、夢ではない。出会えたことだけ感謝。それは、人とも、また、モノとも出会うことの、本当に、互いに引き合ってきたと感じられる時の、その、抱擁。風や光のなかにある、風や光とは違った、なにか瞬きほどの微かで美しいもの。


虹は消えても、その山の端は先ほどとは違う。全く違うのである。


変わらぬものなど、微塵もない。


私は何者か。




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